妖精の指先 13

 WEST(MTS)作

※この文章は巨人が小人を様々な手段で弄ぶ表現が含まれています。
 残酷な表現等が含まれますので、18歳未満の方は読まないで下さい。

 13.リーズの声

 夜である。
 少年は暗くて静かな部屋に居た。
 彼は数日前、可愛らしい妖精の女の子に、彼女の住処へと招待されていた。
 そこで、彼は現実離れした日々を妖精と過ごしていた。
 昼間は彼女に楽しく遊んでもらう。
 少年が楽しいかは知らないが、妖精はとても楽しかった。
 夜はこの静かな部屋に案内されている。何も見えない、聞こえない、静かな部屋だ。壁も床も硬い金属で出来ていて、叩いても金属の音が返ってくるだけである。
 部屋の広さは3メートル四方程だろうか?決して広くは無い。
 そこで、朝まで過ごす。
 …もう、耐えられない。
 少年は気がおかしくなる寸前だった。
 暗い。何も見えない。
 目を開けても、目を閉じても何も変わらなかった。
 彼の目は悪くない。
 この部屋に全く光が入らないのだ。水と食べ物、トイレ代わりの入れ物が無造作に置かれているだけの部屋だった。牢獄のように質素な部屋である。
 「もう…嫌だよ…」
 うわ言のように、少年は呟いた。
 誰か話が通じる相手と話がしたかった。
 妖精の女の子には、何を話しても全く話が通じない。ただ、笑って無視されるだけだ。
 夜になれば、完全に一人である。彼の言葉に答える者は誰も居ない。光の入らない暗い部屋に、彼は一人で居た。
 少年は部屋の壁にもたれかかって座っている。何かに体を支えてもらいたかった。彼がよりかかっても、部屋の壁は、もちろんびくともしない。
 硬い金属で出来た床と地面は、冷たく彼の素肌に触れていたが、それでも彼は気が少しだけ安らかになる。
 …服くらい、着たいよ。
 もう何日も、服を着ていない。
 彼を招待した女の子が、彼が服を着る事を望まなかったからだ。
 「虫けらが服を着る必要なんて、無いでしょ?」
 ゴミくずが何を言うのかしら?
 妖精の女の子は不思議そうに首をかしげたものだ。
 少年が服を着せて欲しいと頼んでも、女の子は笑って無視するだけだった。
 女の子は少年に服を着る事を許さないだけでなく、彼の事を優しく指で弾いたりもした。
 少しでも気に入らない事があると、人差し指を弓のようにしならせて、少年の事を弾いた。
 容赦なく、何度も。
 その度に、少年は部屋の壁まで吹き飛ばされた。
 それは、仕方の無い事だった。
 女の子は古代の妖精で、少年より幾らか体が大きくて、力も強かったからだ。
 人間は、彼女にとって、人差し指程度の大きさしかない小さな生き物だった。
 彼女は人間より20倍ほど、体が大きい。人間など、虫けらのようなものだった。
 少年は彼女の踵よりも背が低いから、どんなに逆らっても彼女に敵わなかった。彼女を叩いてやろうと思っても、顔はおろか、膝にも手が届かない。革靴に覆われた足しか叩く事が出来ない。
 ただ、自分が小さくて彼女が大きいという事を、思い知るだけだった。
 彼女の住処に連れ去れてからの少年の生活は、全て彼女の思い通りだった。
 昼間は、一日中、彼女の玩具にされる。
 二人で楽しむのでは無く、彼女だけが楽しむ為に玩具にされる。
 足で踏まれたり、彼女の許しが出るまで彼女の靴や体を舌で磨かされたりもする。
 一番辛いのは彼女の食事に付き合わされた時だった。
 彼女は人間を食べるのが好きだ。古代妖精はそういう生き物だからだ。
 その食事に、彼女は少年を付き合わせた。
 人間を一人、口の中で噛み砕いている所に、一緒に少年も入れてしまう。
 少年の事は噛み潰さず、食事中の人間だけを器用に噛み砕いていくのだ。
 その時だけは、少年は本当に恐ろしかった。
 彼女が食事をしている口の中に放り込まれそうになった時は、自分を摘む彼女の指を本気で振り払おうとしたが、彼女はその様子を嬉しそうに眺めるだけだった。
 人間の残骸が散乱する妖精の口の中で、少年はもちろん目を開けている事なんて出来ない。
 でも、目を閉じていても、人間の残骸の感触は容赦なく体に触れるし、匂いは鼻をついた。
 妖精の女の子が、その気になれば、いつでも自分もこういう風に噛み砕く事が出来るという事を思い知った。
 口の中から出された後も、怖くて、しばらく目を開けることが出来なかった。
 コップの水を乱暴にかけられて体を洗ってもらわなかったら、そのまま気がおかしくなっていたかもしれなかった。
 「…がんばりなさいね?
  そうしたら、お前もこんな風に食べてあげるから」
 口元から人の血を滴らせて微笑む巨大な女が、彼には化け物のように見えた。
 彼に与えられた時間は一週間。
 その間、彼女の悪戯に耐えたら、彼は報酬をもらえる。
 『一週間耐える事が出来たら、食べてあげる』
 彼女は言っていた。
 彼女の食料となる事を、報酬として約束されていた。 
 何の希望も持てない。
 そんな日が三日続いていた。
 「リーズ…助けてよ」
 夜、うわ言のように、少年は呟いた。
 昼も夜も、気が休まらない。
 眠るのも怖い。
 寝ている間にも、妖精の女の子に部屋ごと、気まぐれに踏み潰されてしまうかもしれない。彼女の足のサイズは、この部屋の天井より大きいから、この部屋を踏み潰すのも難しい事では無いだろう

 少年は限界だった。
 暗闇の中で正気を失いかけて、壁にもたれかかっている。
 目を開いても何も見えない。それが怖いから目を閉じた。
 そうすると、今度は妖精の冷たい顔が頭に浮かんだ。
 今日の出来事を思い出す。
 朝、彼女は何も言わずに、いきなり小さな彼の体を鷲掴みにした。
 それから、彼女のサイズに合わせて作られた玉座のような椅子に座り、椅子の前に置いた台の上に肘をついてみる。
 手のひらには、鷲掴みにした少年が納まっている。
 椅子に座ってくつろいだ彼女は、少年が何を言っても、抵抗をしても一切気にせずに、彼を頭だけ出して手の中に握り締めたまま、無表情でつまらなそうに見つめた。
 何も言わずに彼を強く握ったり、彼を握る手のひらを開いて、彼を観察したりした。
 その瞳も蝋人形のように、まばたき一つしない。
 彼がどんなに苦しんでも、淡々と彼を握り続けた。
 たまに、無表情のままに彼を口に入れて舐めまわしたりもした。
 それが一日続いた。
 淡々と、延々と、何の盛り上がりもなく、ルーチンワークのように繰り返される。しかし、繰り返されたからといっても、慣れられるような事では無かった。
 まるで女の姿をした、意思の無い巨大な人形が、作業でもしているかのように少年は感じた。
 自分は人形の玩具にされる人形だ…
 何を言っても表情一つ変えてもらえなかったが、少年は女の子に許しを乞い続けた。
 そこには何のコミュニケーションも成立していない。
 一日の終わりになって、彼女は、やっと微笑んだ。
 「うふふ、いつも人形みたいに扱って悪いわね。
  だから、今日は、私が人形みたいにしてあげたわ。
  楽しかったかしら?」
 …やっと、彼女の表情が見れた。
 馬鹿にした笑顔を浮かべる彼女の表情を見て安堵を感じるほど、少年は追い詰められていた。
 彼女は微笑んだ後、彼を無造作に部屋に投げ込むと姿を消した。
 そんな一日だった。
 少年は暗い部屋に一人で居る。
 「お願い…出してよ!」
 壁を叩いてみる。
 硬い金属で出来た壁は、びくともしない。床も同様だ。
 ただ、ひんやりとした冷たさと硬さだけが伝わってきた。
 頭を抱えて、震えながら眠ろうとした。
 気が狂いそうになる暗くて静かな夜だが、それでも昼よりは夜の方がマシだった。
 恐ろしい化け物の女が、居ないからだ
 朝になると、また、彼女がやってくるのだ。
 いつまでも、この暗くて寂しい夜が続いて欲しいと少年は思った。
 彼は眠る事が出来なかったが、時間は無常に流れて、朝が来た。
 外の光が差し込まない部屋に閉じ込められた少年は、自然の光で朝を感じる事が出来なかった。
 彼に朝を告げるのは、彼を住処へと招待している妖精である。
 朝、少年は固い壁と床に体を沈めて、意識を失っていた。眠りというより、気絶しているというのかもしれない。
 突然、少年は空に投げ出された。すぐに重力に引っ張られて床に叩きつけられる。
 次に左右に振られて、壁に叩きつけられる。
 壁と地面が動いていた。
 地震だ。
 かなり大きな地震だ。部屋そのものが動いている。
 縦にも横にも、部屋が激しく揺れていた。硬い壁と床に、少年は何度も叩きつけられた。
 「お願いです…やめて下さい…」
 何故か、少年はつぶやく。
 小さな彼の声は誰にも届かない。
 暗闇の中の地震は果てしなく続いたが、さすがに無限には続かなかった。
 急に、地震は収まった。
 地震が起きたとき同様、唐突に揺れは0になった。
 こんな落差の激しい地震は、自然の地震では有り得ない。
 みしみしと、金属音が聞こえた。
 同時に、天井から光が差し込んだ。
 床や壁と同じ硬い金属で塞がれていた天井が開いたのだ。
 「おはよう、ファフニー。目は覚めたかしら?」
 だが、天井から差し込んだ光は、すぐに新しい影によって遮られた。
 新しい影…彼を天井から見下ろす女の子の笑顔は、とても可愛いものだった。
 年齢的には少年と同じか、少し年下位に見える。細くて冷たい目で笑う仕草が魅力的だった。
 ラウミィという、妖精だ。
 微笑むラウミィの顔は、先ほどまで天井を覆っていた金属の板よりも大きい。
 3メートル四方の天井は、彼女の顔より小さかった。
 天井の幅に収まらない、妖精の女の子の笑顔が、少年に朝を告げた。
 ファフニーは怯えた顔で、彼女を見上げた。
 「もう…許して下さい」
 小さな声で言う事しか出来なかった。
 「今日は何をして遊ぼうかしら?」
 ラウミィは玉座のような椅子に座っている。
 彼女はファフニーの言葉に返事をしない。自分の言いたい事だけを言う。やりたい事だけをやる。
 膝の上に鉄製の小さな小箱を載せていた。
 ラウミィが膝に乗せた小箱の中では、小さくて無力な生き物が怯えて許しを乞うている。
 …こんなものよね、人間なんて。
 最初こそ逆らう姿勢を見せていた人間…虫けらも、三日の間、こうして小箱に閉じ込めて遊んでやると、自分が単なる虫けらだという事を理解したようだ。
 …でも、さすがにリーズの友達ね?
 虫けらは、惨めに泣きながら跪くようになったが、未だに完全には彼女の奴隷にならない。人間の自我を保っていた。踏み潰す素振りを見せると、小さくさえずっては、怯える。
 …つまらないわね。
 玩具なのに、思い通りにならない。
 そういう人間もたまには居るが、そんな玩具にラウミィは興味が無かった。
 いつもなら、ラウミィは、そういう人間を床に置いて、深く考えずに足をその上に下ろす。
 不良品の玩具は、さっさと処分して、次の玩具で遊べば良いだけの事だ。
 だが、この虫けらは、そういう風に扱う事が出来ない。
 ラウミィは何も言わずに、虫けらを閉じ込めている小箱を揺らしてみた。虫けらにとっての大地震が起こる。
 ファフニーが逃れる事が出来ない牢獄は、彼女にとっては、そんな風に扱える小箱だった。
 …リーズの玩具なんて、持ってくるんじゃ無かったかもね。
 友達の玩具では、勝手に壊したら怒られてしまう。自分の思い通りに出来ない玩具が、彼女は歯がゆかった。
 仕方無いので、しばらく小箱を揺らして虫けらを観察した。
 一時間程も揺らしてやる。
 虫けらは無力に部屋の隅で泣きながら、部屋を揺らすのを止めてくれて言う事しか出来なくなった。
 「…あら、賢いわね?
  そうね。部屋の角なら、あまり揺れないものね。
  でも…壁がいつまでも壁とは限らないわよ?」
 部屋の隅にしがみつくようにして、揺れに耐えようとしているファフニーのことを、ラウミィは褒めてあげた。
 それから、ゆっくりと箱を90度傾ける。
 ファフニーにとって、先ほどまで床だった場所が傾いて壁になり、壁だった場所が床になった。ファフニーは滑り落ちるように、床から壁に転がされた。
 だが、部屋が90度傾いたという事は、天井だった場所が壁になる事も表していた。
 天井の蓋は外されていたから、がら空きの側面がファフニーの前に広がった。
 …外に出れる。逃げられる。
 すでに正気を失いかけているファフニーは、ふらふらと外へ向かって歩き出した。
 …あら、面白い事をするのね?
 何を思ったのか、虫けらが小箱の外に逃げようとすしている。ラウミィの唇の端が釣り上った。
 自分を見下ろして、にやにやとしている女の子の視線すら気にならないファフニーは、牢獄の外に出れた事を喜んだ。
 ラウミィは小箱を膝の上に載せていたから、ファフニーが出た先は、椅子に座っているラウミィの膝…というより、太ももの上だった。
 丁度、小箱の開いていた出口は、ラウミィの膝の方を向いていた。なので、少し歩くと、ラウミィの膝は途切れてしまう。これでは、逃げられない。
 振り返って足の付け根の方を見ると、その先には、当然ラウミィの上半身がそびえ立っている。二つに膨らんだ胸の上で、にやにやとしている顔が見える。これは、越えられない壁だ。
 逆に足先の方は、膝から見下ろす光景が断崖絶壁のようになっている。
 …小箱の外に出ても何も変わらない。
 ラウミィの柔らかい太ももの上に出てきたファフニーは、辺りの状況を確認して、気力を失った。
 ラウミィの膝の上は、3階建て位の建物よりは、よっぽど高い。こんなに高い膝の上から飛び降りるのは自殺行為に思えた。 
 そもそも、地面に飛び降りて助かったとしても、それがどうだというのだ?
 ラウミィの膝の上から足元に下りただけの事だ。
 彼女にとって、膝の上の虫けらを叩き潰すのと、足元に居る虫けらを踏み潰すのに、たいした違いは無いはずだ。
 ラウミィが、逃げ出そうとする虫けらの上に足を下ろす事をためらうとは、ファフニーには思えなかった。
 「いつまで…そんな所で、ぼーっと突っ立ってるつもり?」
 ラウミィの声を聞いたファフニーは、あわてて彼女の膝の上で、跪いた。
 「許して…許して…」
 うわ言のように、謝る。
 虫けらが無様にしているのを見るのが、ラウミィは楽しい。
 「あら、そんな格好をして、どうしたの?
  もう逃げないくていいの…?
  だったら…捕まえるわよ」
 彼女は足の付け根の方に、手のひらを広げて横向きに乗せた。
 太ももに直角になるように、横向きのまま手を立てて、ゆっくりと手のひらをファフニーに近づける。
 女の子の手のひら…地面の幅と同じ大きさの壁…が、ゆっくりと近づいてくる。
 あの手の中に掴まれるのは、嫌だ。
 ファフニーは、ラウミィの不安定な膝の上で這いつくばりながら、それでも足先の方に向かって逃げる。
 …この馬鹿、何を考えているのかしら?
 逃げられるとでも思ってるのだろうか、この虫けらは。
 虫けらが、正常な判断力を失っているのがわかる。
 何も言わずに、ゆっくりと手を近づける。
 ファフニーは膝の端の、断崖絶壁に追い詰められた。
 …いっそ、このまま飛び降りてくれないかしら?
 ラウミィは、正気を失ったファフニーが、このまま自分の膝の上から飛び降りる事を期待した。
 …そうしてら、踏み潰してやるのに。
 虫けらが勝手に飛び降りて、勝手に死ぬなら、別にリーズに何も言われる筋合いも無い。
 「ねぇ、飛び降りたら?
  そうしたら、逃げられるかもよ?」
 我慢出来ずに、思わず声をかけてしまった。
 その声が、ファフニーの気力を根こそぎ奪い、彼はその場から動かなくなってしまった。
 …あら、残念ね。しゃべり過ぎたみたい。多少ラウミィは後悔した。
 そのまま、彼を手のひらに掴み取った。
 「…さっさと、私に屈服して奴隷になればいいのに。
  …楽しいわよ?」
 女神のように微笑みかけながら、彼を口元に運んだ。
 「そ、それだけは…やめて…」
 ファフニーは弱々しく言った。
 ラウミィは何も答えず、口を開いて、彼の体に舌を伸ばす。
 彼女の舌は、一舐めで、彼を頭の上からつま先まで舐められる。
 人間は妖精の女の子に舐められると、耐え難い快感を感じる。強い魅了の力で心を壊される。
 嫌だ…やめて…
 自分をゴミくずのように扱うラウミィの事が、美しい女神のように見えてくる
 冷たくて大人びているが、子供っぽさの残る顔美しいと感じた。
 こんなに大きくて可愛い子の手に握られ、玩具にされる事ほど幸せな事は、この世に無いんじゃないだろうか?
 このまま、永遠に玩具にされていたいと思った。
 踏み潰して…欲しい。
 …だって僕は、虫けらだから。
 恍惚として混濁した意識の中で、ファフニーは再び太ももの上に置かれた。
 「どう?
  気持ち良いでしょ?」
 ラウミィの甘い声が聞こえる。
 柔らかくて圧倒的にボリュームがある彼女の太ももを、魅力的だと感じた。
 ラウミィの指が、再び上から伸びてきた。
 それは、ファフニーを転がして、太ももの上から落とした。
 落ちた先は、太ももの内側。椅子の上だった。
 床に落ちるよりはマシだが、それでも自分の身長ほどの高さから落とされた事になる。
 痛みで、少しファフニーは正気が帰ってきた。
 彼が落とされた椅子の上は、とても狭かった。
 椅子にはラウミィが座っているから、その面積の大半は、もちろん彼女のお尻や太ももで埋まっている。
 彼が落とされた、太ももと股の間に広がっている、ほんのわずかな隙間だけが、椅子の上で彼に許されたスペースだった。
 いくら彼が人間だからといっても、狭い隙間だった。横になって寝る程のスペースも無い。
 すぐ目の前に白い布が見えた。ラウミィ腰周りを隠している下着のような布だ。ファフニーの体ごと包んでしまえる位には大きい。
 左右には少し手を伸ばすと、柔らかい肉の壁が広がっていた。ラウミィの太ももの内側だ。真っ直ぐに手を伸ばすスペースは無い。高さは彼の身長の倍ほども高くて、つるつるとした太ももを登る事は不可能に思えた。登ったからといっても、どうにもならないが…
 もちろん、後ろ振り向くと、椅子の切れ目で断崖絶壁だ。
 …今度は、どうやって僕をいたぶるつもりなんだろう?
 椅子の上で股の間に置かれて、ファフニーは目のやり場に困った。
 左右の太ももが近づいてきて、挟まれてしまうのか?
 それとも、少し腰を浮かせて、お尻の下に敷いてしまうつもりなのか?
 どっちにしろ、彼女の力と体重は、ファフニーにはどうしようもない。
 何日か前には、彼女が実際にそうやって人間を尻の下に敷いてしまう場面を見せられた。
 その時、ラウミィは彼女の玩具を十人以上、椅子の上に並べた。
 それは感情を失って人形と化した人間でなく、街でさらってきたばかりの男達だった。
 「一匹づつ潰すのが面倒なときはね…こうするといいのよ」
 ラウミィは人間の潰し方をファフニーに教えてくれた。
 彼女は椅子を跨ぎながら、ファフニーを摘み、少し前かがみになり。彼を椅子に並べた虫けらと同じ高さに運ぶ。
 それから、椅子の上に並んでいる人間達の上に、ゆっくりと腰を下ろした。
 十人以上の人間達が、まとめて彼女のお尻の下に消えていく。
 彼女の体重を支えるには、10人や20人の人間では足りない。
 椅子の上で彼女の体重を受けた人間達の体が柔らかい豆腐のように形を失っていく。ラウミィのお尻と椅子の間に挟まれた虫けらの末路だ。
 それでも、運の良い者は、彼女のお尻の割れ目辺りに収まり、押し潰されるのまぬがれていた。
 「まだ…少し、動いてるわね」
 ラウミィは自分の尻の下で、虫けらが這いずる回るのを認めるつもりはなかった。
 ファフニーを握っていない、空いた方の腕を椅子について体を支えながら、お尻を椅子に擦り付けた。
 体重のこもった彼女の腰が、椅子の上で左右に揺れる。
 何度も、何度も、下に敷いている生き物に体重をかける。
 肉と骨が潰れる鈍い音を、ファフニーは聞き続けた。
 「どう?簡単でしょ?」
 ラウミィは機嫌良く言った。
 少しづつ、下に敷いている大量の虫けらが砕けていくのが快感だ。
 椅子に座ってくつろぎながら、まとめて虫けらを潰せるこのやり方が、彼女は気に入っていた。
 30分程も続いただろうか?
 すっかり、お尻の下が平らになった事を感じたラウミィは満足した。
 …どうして、ここまでやるんだろう?
 自分を怖がらせる為に、わざと残酷な事をやっているのも、もちろん理由だろう。
 でも、ラウミィは本当に楽しそうだ。演技だとしたら、それこそ彼女が恐ろしい。
 人間を好きとか嫌いとか、それ以前の問題である。
 ラウミィは人の命はゴミだと思っているが、さらに、そのゴミを潰す事を大きな快感だと感じているのだ。
 ゴリゴリと、人の骨が砕ける音をファフニーは忘れられない。
 女の子が椅子に並べた人間達に腰を下ろし、擦り潰していく光景を、ファフニーは忘れられなかった。
 …僕も、あの時の人達みたいに潰されちゃうのかな?
 椅子の上で、彼女の股の間に置かれた彼は、震えながら、その時を待つ。
 時間が流れる。
 だが、何も起こらない。
 時々、左右の太ももが揺れ動いた。
 太ももが椅子に擦れる音と振動が足元から伝わってくる。
 目の前の股間が、布をひらひらさせて動く事もあった。
 少しでも、周りを囲むラウミィの肢体が動く度に、耐えられない恐怖を感じた。
 時間が流れる。
 ファフニーは目の前に広がる彼女の股間を覆う巨大な白い布を見ていると、気がおかしくなりそうだから左右を見た。
 そこには彼女の太ももが、壁のように広がっている。
 目のやり場が無いから、目を閉じる。すると、椅子から落ちてしまいそうになり、怖くて目を開ける。
 目を開けると、目の前に…
 出口の無い思考を繰り返し、ファフニーの目から涙が流れ始めた。
 …少し、からかおうかしら?
 ファフニーの様子を楽しく感じたラウミィが、太ももを閉じ始めた。
 少しづつ、ファフニーを包囲する彼女の股ぐらが閉じられてきた。
 ラウミィは太ももを閉じながら、さらに椅子にふんぞり返るようにして、股を椅子の前の方へと進めていく。
 「お願い…潰さないで…」
 彼女の股間に押されて、椅子のふちまで追い詰められた。
 もう、ひざまづく事も出来ない。
 彼を取り囲むラウミィの股間と太ももは、かろうじて立つだけのスペースしか、彼に与えてくれなかった。
 それから、ラウミィは、またファフニーを放置した。
 ファフニーは、必死にラウミィの下着にしがみついた。
 「お願いします…
  もう許してください…」
 そのまま上を見上げた。彼女は椅子にもたれかかるように、ふんぞり返って座っていたので、股の所に居るファフニーからは彼女の顔が見えにくかった。
 「お願い…放っておかないで下さい…」
 ラウミィの股に挟まれたまま放置され、ファフニーは彼女に泣きながら頼んだ。
 何かにしがみつかないと、落ちてしまう。
 ファフニーは恥ずかしげもなくラウミィの下着に体をうずめて、泣き続けた。
 …何もしないで放っておくだけで、虫けらって壊れるのね?
 ラウミィにとっても、少し予想外だった。
 今日は下着の中に放り込んで、その中を一日中舐めさせてやろうと思っていた。
 だが、あまりに面白いので、このまま放置する事にした。
 「何なの、その格好?」
 笑いをこらえる事出来ない位、面白い。
 成すすべも無く、自分の下着にしがみついている虫けら。
 「そんなに私の股の間…好きなの?
  虫けらの癖に、生意気なんじゃない。
  …ほら、こっちを見なさいよ。突き落とされたいの?」
 言いながら、股間にしがみつく虫けらに指を近づけてみた。
 このまま突いて、床に落としてしまいたくなる。
 虫けらが、何かわめきながら、こっちを見上げた。
 「うふふ…最初の日とは別人みたいね」
 虫けらの狼狽ぶりが心地よい。
 「プライドは、どこに行ったの?
  人間の気高い心を見せてくれるんじゃなかったの?」
 目の前まで指を近づけて声をかけてやると、虫けらは黙ってしまった。
 「…あ、なるほど。
  女の子の下着にしがみついて泣くのが、お前のプライドって事ね。
  いいわよ?一日中、そこでしがみついてなさい。
  そうね、そこ、いい匂いがして…気持ちいいでしょ?」
 ラウミィの言葉に虫けらは答えない。
 「照れちゃって、可愛いわね…」
 ラウミィは虫けらの背中を押して、布越しに自分の股に押し付けた。
 「とても…気持ちいいです」
 虫けらは、泣きながら言った。
 本心から、そう思ってしまった。
 ファフニーは、自分の心がかなり蝕まれている事を理解した。
 今の自分が幸せだと感じている。
 女の子の、こんな場所に、こうしてしがみついている事が幸せな事だと思うようになっていた。
 …いい匂いだ。温かくて、気持ちいい。
 布越しに伝わってくる、女の子の匂いとぬくもりから、離れたくないと思った。
 「なんなら、このまま潰してあげようか?」
 優しい声でラウミィは言った。
 …それでも、いいな。
 ファフニーは、少し微笑んだ。
 その様子は演技では無いように、ラウミィには見えた。
 …明日には壊れそうね。
 発狂寸前か、すでに発狂しまったファフニーを見て満足したラウミィは、一日中、虫けらと楽しくお話を続けた。
 彼女の股と断崖絶壁に包囲された虫けらは、どこにも動く事が出来ないから、一日中彼女の下着にしがみついていた。ほとんど泣き続けていた。たまに、正気を失ったように微笑んだり、逆に、太ももや股の間を叩いて暴れたりもした。別に、だからどうだという事もなく、笑えたので、ラウミィは、そのまま放置した。
 やがて、夜が来た。
 遊びは終わりだ。
 ラウミィは彼を無造作に摘んで小箱に入れると、いつものように蓋を閉じた。
 何の言葉もかけずに立ち去る。
 また、ファフニーには一人の夜が来た。
 目を開けても何も見ることが出来ない暗い夜だ。
 ファフニーは今日も裸で、硬い金属の床に転がされている。
 痛くて冷たくて、少しだけ、心に正気が戻ってきた。
 …悔しい。恥ずかしい。もう嫌だ。
 何の希望も無かった。
 おそらく、自分に与えられた選択肢は三つだ。
 少しだけ働く頭で、考える。
 心を壊されてラウミィに絶対服従の奴隷にされるか、彼女の機嫌を損ねて、体を虫けらのように踏み潰されるか。もしくは、食べられるか。
 その三つだ。
 『一週間耐えたら、食べてあげるわ』
 彼女の言葉がエンドレスで頭に響く。
 喰われるのか?
 虫けらのように殺されるのか?
 身も心も奴隷に成り果てるのか?
 どれを選べというのだ?
 どれも選びたくないよ…死にたくないよ…
 でも、妖精の女の子の力と体の大きさの前に、彼は抵抗する手段が何も無かった。
 その事を数日かけて、体と心に覚えさせられたのだ。
 「リーズ、助けてよ…」
 彼は、別の妖精の女の子の名前をうわ言のように呟く。
 その子もラウミィと同様に巨大な体をいい事に、彼の事を玩具にして遊ぶが、彼女の事は、ファフニーは好きだった。 
 大好きな彼女の事を考える事でしか、正気を維持できなかった。
 でも、明日も正気を維持して夜を迎える自信は、もう無かった。
 …リーズの顔も、あんまり思い出せないや。
 意識が朦朧とする。
 『ねえねえ、ファフニー?聞こえる?』
 ファフニーは、声を聞いた。
 無邪気で能天気な声だ。
 「…リーズ?」
 ファフニーは彼女の名前を呼んだ。ずっと聞きたかった声である。
 幻聴だろうか?
 不思議な事象を疑う心が、多少は彼にも残っていた。
 『あ、聞こえてるみたいね。
  えーとー、元気でやってるかな?
  すごいよね、テレパシーって言うんだって、こういうの』
 呑気なリーズの声が聞こえる。
 確かに、ずっと聞きたかった声だ。
 幻聴かどうかなんて、どうでも良いと思う位には、彼は疲れていた。
 「リーズ…僕が居なくて…一人で大丈夫ですか?」
 ファフニーは呟いた。
 彼はリーズに助けを求め続けていた。
 でも、最初に出た言葉がそれだった。
 彼女に助けを求める以上に、ファフニーは彼女の事が心配だった。
 リーズは人間を虫けらのように踏み潰す事も出来るが、しかし無力だ。
 彼女は一人では、人間の世界で何も出来ない。
 『ファフニー…
  あたしの心配なんか、してる場合じゃないでしょ?』
 心配されるとは思わなかった。
 リーズは、呆れてため息をついた。
 …ファフニーって、そういう人だったよね、そういえば。
 嬉しいよりも、彼の事が心配で泣きそうになった。
 リーズは、ファフニーの事もラウミィの事も、よく知っている。
 小さくて無力なファフニーが、人間を虫けらのように思っているラウミィに捕まってどういう事になっているか、状況が手に取るように想像出来た。
 …ファフニーには、いっぱい、優しくしてあげないとね。
 辛い立場に居る友達に、リーズは遠い所から声をかける。
 「あたしは…平気だよ?
  フレッドが助けてくれたの。
  それでね、フレッドがね、こうやって、遠くから話せるようにもしてくれたの…」
 でも、頭がいっぱいで、上手く言えなかった。
 「そうですか…何だかよくわかりませんが、良かった…」
 フレッドって誰だろう?
 さっぱりわからないが、リーズは元気そうだ。それは嬉しい事だ。
 「だけど…ごめんなさい。
  僕は…だめみたいです」
 リーズの無事を確認すると、ファフニーは心の支えを一つ失った。
 弱々しく言う。
 「人間は、やっぱり妖精の女の子の玩具なんですね。
  よく…わかりました」
 リーズやラウミィの巨大な姿が目に浮かぶ。
 二人とも考え方に少し違いはあるが、人間より遥かに大きく、人間を玩具のように扱う。何も逆らう事が出来ない。
 「何で…妖精は、そんなに大きいの?
  …怖いよ、ラウミィが」
 リーズに素直に弱音を吐いてみる。
 ラウミィには何をやっても敵わない。
 その気になればすぐに自分の事を踏み潰せる彼女に、いくら逆らっても無駄だ。
 すでに、彼女には心の底から屈服している。心を失う事だけは拒んでいる状態だ。
 リーズはファフニーの、そんなに情けない声を聞いた事が無かった。
 彼は小さいから、自分が指で押してやると、すぐに可愛らしく悲鳴をあげる。でも、あくまで瞬間的なもので、後で必ず文句を言う。
 でも、今のファフニーは、心の奥まで弱っている。
 「もう…今更、何言ってんのよ!
  そんなの当たり前でしょ!?
  人間が妖精に敵うわけないじゃない、ちっちゃいんだもん!
 リーズは、そんなファフニーに怒鳴った。
 「ご、ごめんなさい」
 いきなり、ものすごい声で怒鳴られた。
 ファフニーの頭に、リーズの姿が浮かんだ。
 彼の体よりも大きな革靴で地面を蹴っ飛ばして怒鳴る、彼女の巨大な体。
 そんな姿で怒鳴られたら従うしかない。ファフニーは思わず謝ってしまった。
 「ねえ、わかってるでしょ!?
  あたし達から見たら、人間なんて、ほんっとにちっちゃくて、虫けらみたいなんだよ?」
 リーズはファフニーを罵った。張り詰めて糸が切れたように怒鳴り続ける。 
 「そりゃあ、マリクやフレッドみたいな人もたまには居るけど…
  でも、君なんか、あたしの目玉を剣で突いたって、傷つける事も出来ないじゃないの!
  それなのにラウミィちゃんの前に、のこのこ出て行って…どうするつもりだったのよ!」
 どうするつもりだったかと言われると、ファフニーも少し困る。
 自分の身長では彼女の足首位までしか剣が届かないし、そもそも体のどこに剣が届いたとしても何も効果が無い事はわかっていたのだ。
 「この、馬鹿!ちび!弱虫!
  どうせ、ラウミィちゃんに体中を舐められて喜んでるんでしょ!
  …いい?ラウミィちゃんの人形になんてなったら、絶対許さないよ!!
  もし死んだりなんかしたら、君なんか踏み潰しちゃうからね!」
 ファフニーが居なくなったら、嫌だ。そんな事許さない。
 途中から何を言っているのか自分でもわからなくなったが、リーズは激しい剣幕でファフニーを責めた。
 もし、目の前に彼が居たら、鷲掴みにして握り締めているところだ。
 ファフニーも、大きくなった彼女の手のひらに乗せられて、にらみつけられているのと同じ位に怖かった。
 …あれ?
 ファフニーは疑問に思った。
 何だか、ラウミィに玩具にされるよりも怖いような?
 目の前に居ない妖精の女の子の声は、とても怖かった。
 …そういえば、リーズは可愛いけど、大きくなっている時は怖いんだっけか。
 踏み潰されそうになったり食べられそうになったり、本当に食べられたり。
 悪気もあったり、無かったり。
 何日かぶりに彼女が近くに居る気がした。
 少しの沈黙。
 「…ご、ごめんね。言い過ぎちゃったね」
 リーズが小さく謝った。不思議だ。優しくしてあげようと思ったのに、あたし、何で怒鳴ってるんだろう?
 彼女は、よくわからなかった。
 …そういえば、怒ったり、泣いたり、謝ったり、忙しい子だったね。
 ファフニーは少し気が楽になって、一人で微笑んだ。
 微笑はテレパシーでは伝わらない。黙ってしまったファフニーがリーズは心配だった。
 「ファフニー、恥ずかしい事とか、痛い事とか…いっぱいされてるんでしょ?」
 「…うん」
 ファフニーは小さく頷いた。
 あんまり思い出したくない。
 女の子に裸にされて、玩具にされて、惨めに泣きながら許しを乞う自分の姿を恥ずかしいと感じている。
 「…あんまり、気にしなくてもいいよ?
  だって、ファフニー、ちっちゃいから仕方ないもん…」
 怒鳴りつけたのは、さすがに可哀想だったとリーズは後悔した。
 「意地とかプライドとか…今だけ捨てちゃいなよ?
  大丈夫だよ。ラウミィちゃんはファフニーを殺したりは出来ないから。そんな事したら、あたしが怒るって知ってるはずだもん。
  でも、間違って殺されちゃったりは、するかも知れないね…
  だから、ラウミィちゃんが『靴を舐めろ』とか変な事を言っても、我慢して素直に言う事を聞くの。
  おとなしく、ラウミィちゃんの玩具になってれば、きっと帰れるから…
  あたし…別にファフニーが格好悪い事してても馬鹿にしたりしないから…お願いね?」
 ラウミィを刺激しないで、彼女の玩具になるように、リーズは優しくファフニーに言った。
 確かに…リーズの言う通りにした方が良いかも知れない。
 一週間したら食べてしまうというのは、多分、ラウミィの脅しだろう。リーズの言う事の方が正しそうだ。
 ならば、一週間耐えれば良いのだ。
 「僕が死んだら…リーズに踏み潰されちゃうんですよね?
  帰れるように、がんばってみますよ」
 ファフニーは言った。
 何としても、リーズの所に帰りたい。
 「僕、リーズの声が聞けて良かったです。
  本当に心配だったんですよ?
  体は…平気ですか?」
 リーズが心配だ。早く彼女の所に帰ってあげたいという気持ちも、戻ってきた。
 「ごめんね…
  あたしも、ファフニーの事、助けに行ってあげたいんだけど…」
 体の事を言われると、リーズは元気を無くした。
 具合は良くない。まだベッドから起きられずに居た。
 「僕の事…心配してくれて、ありがとうございます」
 ファフニーはリーズの声が聞けただけで満足だった。
 リーズが何もいわないで頷いた。
 「…今、頷きましたね?」
 「な、なんでわかったの?」
 何となく、ファフニーには、そんな気がした。
 リーズは少し気味が悪かった。
 「何となく…です」
 リーズの声を聞くだけで、彼女の仕草も大体わかってしまう。それが楽しい事なのかどうかは、ファフニーには、わからなかった。
 それから、二人は、しばらく黙った。
 声は出さないが、確かに遠くで生きている事をお互いに理解して安心した。
 「…じゃあ、もっと話してたいんだけど、ごめんなさい。
  あたしも…ちょっと疲れてるから、もう寝るね。
  また明日の夜…連絡するからね?」
 少しして、リーズが眠そうに言った。
 「本当に、お願いします。
  リーズの声が聞けなかったら…これ以上…耐えられません」
 ファフニーは素直にリーズに助けを求めた。
 「うん…」
 絶対、また明日連絡しようと思った。
 それから、リーズは何もしゃべらなくなった。
 ファフニーは、また、一人になった。
 ひさしぶりに、安らかに眠れる気がした。彼女の声が聞けて良かった。
 …でも、フレッドって誰なんだろう? 
 ただ、リーズのいい加減な説明には疑問が残った。
 フレッドと言われても、誰の事だかわからない。
 どこの誰だろう?
 …あれ、でも、聞いた事ある名前だな?
 考えながら壁にもたれると、すぐに眠気が襲ってきた。
 ぼんやりと、眠りに落ちていく。
 フレッド…
 確か、『七人の子供達』という、神話の時代から続いている魔道士協会の幹部が、代々名乗っている名前だ。
 この世界で最も大きな魔道士協会の事を、ファフニーは思い出した。
 世界を裏で牛耳っていると言われる組織の一つだ。
 その組織の事を歌う、わらべ歌があった。
 ファフニーも小さな頃に何となく歌った事があ
 『魔道士七人、子供達。
  だけど、六人、子供達。
  絵には八人、子供達。
  本当は何人?子供達』
 『七人の子供達』の人数を歌った歌だ。
 確かに、不思議な事ではある。
 魔道士協会の名前は『七人の子供達』だ。
 だけど、創始者達の末裔と称し、その名前を代々受け継いでいる幹部達は六人しか居ない。
 さらに奇妙な事に、創始者達を描いたとされる絵には、八人の子供達が描かれていた。
 …昔話っていい加減ですからね。
 『七人の子供達』が本当は何人だったのか、ファフニーはあまり気にした事は無かった。
 …そういえば、リーズは神話の時代に、『魔法使いの人たち』と仲良くしてたって言ってたような?
 ファフニーはリーズの話を思い出す。
 確か神話の時代の終り頃から、『七人の子供達』は存在したと言われている。
 現在、『七人の子供達』の幹部は、『フレッド』や『メリア』の名前を名乗っている。
 絵には、その6人に加えて、男の子と女の子が一人づつ多く描かれている。
 …え、まさか?
 洞察力は、妙に高い少年である。
 ファフニーの中で、パズルの欠片が繋がった。
 6人の幹部に、男の子と女の子を一人づつ足すと、丁度、数が合う。
 それが、リーズと…マリク?
 「そうか…そうだったんだね?」
 単なる妄想かもしれないが、ファフニーは神話の時代に起きた事をある程度理解した気がした。
 自分の考えが正しければ、今、リーズの側には、現在の世界に存在する最高レベルの魔法使い…人間の中では…が居る事になる。
 良かったね…リーズ。
 本当に安心したファフニーは、眠りに落ちていった。
 …後は、僕が帰るだけだ。
 心地よく眠れる。
 翌朝、ファフニーは、いつものように起こされた。
 天井の蓋が開いて、妖精の女の子が、冷たいけれど可愛らしい顔を見せる。
 「ラウミィ、おはようございます…」
 相変わらず天井に収まらない大きさの顔だ。
 ファフニーは、それに向かって挨拶した。
 朝、自分の方から挨拶をするのは久しぶりだ。
 ラウミィは答えずに、小箱の中の小さな生き物の様子を眺めた。
 …昨日より元気そうね?
 不愉快だ。
 ファフニーの落ち着いた様子に腹が立ち、細い目がさらに細くなる。
 小箱の天井から手を入れて、彼の目の前まで握りこぶしを近づけた。彼女が片手を入れただけで、ファフニーの狭い部屋の半分以上は埋まってしまう。
 この数日、自分を玩具にし続けている恐ろしい手を見て、ファフニーは黙った。
 ラウミィは握りこぶしから、無造作に人差し指を一本だけ、立てて伸ばした。その指にファフニーは弾かれて、壁に叩きつけられる。
 ファフニーは苦しそうな顔で、彼女を見上げた。
 …気がおかしくなったわけじゃ無さそうね。普通の反応だわ。
 苦しがる彼の様子は、指先で弄ばれた人間の普通の表情に見えた。落ち着いた様子は、完全に気がおかしくなったわけでは無いようだ。
 弱々しく立ち上がったファフニーは、そのまま、ラウミィに跪いた。
 「お願いです…
  あなたの…古代妖精の圧倒的な力は、よくわかりました。
  人間が…どんなに頑張っても、どうしようも無い事はわかりましたから…
  力を見せ付けて玩具にするのは、もう許して下さい」
 いたぶらないで下さいと、彼女に許しを求めた。
 「どういう事かしら?」
 尋ねながら、ラウミィは彼に人差し指を伸ばし、小箱の硬い壁に押し付ける。
 小さな虫けらの理性的な様子が気に入らなかった。無様に泣き叫ぶ所がみたい。
 「ラウミィは、僕の事を殺すわけにはいかないんでしょう?
  そんな事をしたら、リーズに嫌われるから…
  だったら、僕を痛めつけるのは止めた方が良いですよ?
  僕は虫けらみたいに小さいから…あなたに玩具にされると死んでしまうかもしれないし。
  体を虐めるのは…もう、やめて下さい。」
 ラウミィの指の下でファフニーは彼女に訴える。
 「そうね、話の筋は通ってるわね…」
 言っている事は間違っていない。いつの間にか、ラウミィは虫けらの話に耳を傾けている自分に気づいていない。
 「じゃあ…素直に私の奴隷に…心をもたない人形になってくれるのかしら?」
 ラウミィの舌が自分の唇を舐めた。
 それなら、目的は達成だ。無様な人形を一つ、リーズに返してやればいい。
 「それは出来ません。
  僕は僕のままでリーズの所に帰ってあげないといけないから…
  でも、僕の心を責めるのは、いくらでも責めて下さい。ただ、体を痛めつけるのは、やめて下さいって言ってるんです」
 ファフニーは、きっぱりと否定した。
 ラウミィの目が釣り上がる。
 彼女が怒っているのが、ファフニーにはわかった。
 「…お前、私を馬鹿にしてるのね?」
 こういう風に言われるとは思わなかった。
 彼女はファフニーを指で突く代わりに、指先を壁に押し付けて力を込めた。
 ずりずりと、小箱が机の上を動く。
 …うっとおしいわね。
 ラウミィは反対の手で小箱を外から掴んで、小箱が動かないようにした。
 手加減して虫けらを突く自信が無かった。
 虫けらの貧弱な体など、貫いてしまいそうだった。虫けらを殺してしまったらリーズが怒る。だから、硬い小箱の壁を押して我慢した。
 「私は…お前を壊して、リーズに返してやるのが目的なのよ。
  …私に屈服するんだったら、壊れなさいよ?」
 憎しみを込めた低い声でラウミィは言う。
 彼女の手に掴まれた小箱が、みしみしと、嫌な金属音を上げている。
 ラウミィは思うとおりに出来ない八つ当たりを、小箱の壁に向け続ける。
 …だめだ、やっぱり怖すぎる。
 おとなしく玩具になっているようにリーズに言われたけど、やっぱり、一言だけ言いたくなってしまった。ファフニーは少し後悔した。
 自分の閉じ込められている部屋が、彼女の指で悲鳴を上げている。
 やがて、鈍い金属音が響いた。
 ファフニーが閉じ込められている部屋の壁に亀裂が走って真っ二つに裂けてしまう。ラウミィが指を押し付けた所には、部屋の中から外に向かって、彼女の指で穴が開いてしまった。
 「…あら?
  壊れちゃったわね」
 ラウミィが、壊れてしまった小箱に驚いた表情を浮かべる。
 指を押し付けたら、金属製の小箱の壁を貫いてしまった。
 「こんなに脆かったかしら…」
 大事にしてたのに…と、少し寂しそうな顔をしている
 その様子は、ファフニーには演技と思えなかった。多分、本当に間違えて壊してしまったのだろう。
 壁の裂け目を見ると、厚さは50センチ程もあった。
 叩いてみると、やっぱり硬い金属だ。
 それに大きな穴が開き、真っ二つに裂けている。
 道具を使っても、ファフニーには、こんな真似は出来なかった。
 部屋の穴と、指先でそこに穴を開けて後悔している様子の女の子を、ファフニーは見比べた。
 ラウミィは、残念そうにしている。
 …この小箱って、人間の命よりも重いんだね。
 彼女は顔色一つ変えずに人間を踏み潰すが、お気に入り小箱を壊すと後悔してしまう。
 価値観が人間とは違いすぎる…
 話は通じないだろうと思ったが、やはり、通じないようだ。
 「…わかってるの?
  お前は、単なるリーズの奴隷…玩具なのよ?」
 目の前に居る虫けらが、自分の力を見て怯えている。小箱に八つ当たりをした事も気持ちよかった。
 機嫌が良くなったラウミィは、冷たく笑って、彼に問いかけた。
 ファフニーは何も答えない。
 「お前は、リーズの事を守るって言って、私の前に出てきたわよね?
  …うふふ、守れたの?」
 ラウミィは、剣を持つファフニーの手を摘んで、小枝のように握り潰した時の事を思い出す。
 全く手ごたえの無い、虫けらの腕を折っただけの事だ。
 妖精を守れると思っている虫けらに身の程を教えてあげた時の出来事。快感だった。
 「無事に帰れたら、リーズに感謝するのね?
  お前はリーズの大事な玩具だから…私に踏み潰されないで済んでるだけなのよ
  その事…わかってるわよね?」
 「それは…わかります…」
 自分が間接的にリーズに護られている事は、ファフニーもよくわかっていた。
 ラウミィは冷たく笑ったまま、また、ファフニーに指を伸ばした。
 今度は手加減をして彼を突き、自分で壊してしまった小箱の壁の、比較的平らな所に押し付けた。
 「リーズを守るって言ってくれたのは…嬉しいわ」
 苦々しげに、ラウミィは言った。その事についてのみ、彼女はファフニーの事を認めていた。
 「でも…お前は、ただの虫けらだわ。
  お前みたいな虫けらが、一体どうやって、リーズを守るっていうの?」
 ぐりぐりと、軽く彼を壁に押し付けた。
 重い。びくともしない。
 小さなファフニーは、ラウミィの力に何も抵抗出来ない。
 …確かに、ラウミィやリーズに比べたら、僕は虫けらだ。
 常識外の大きさと力をしている妖精の女の子にとって、自分が取るに足らない存在な事は、リーズやラウミィと接すれば接するほど、ファフニーは実感している。
 でも…
 「小さくて弱い事は…悪い事なんですか?
  虫けらは…大事な相手を護っちゃいけないんですか?」
 ファフニーはラウミィに問いかける。
 「悪いわ。
  だって何も出来ないじゃない。
  力が無い虫けらには…何も出来ないでしょ?」 
 ラウミィは即答した。
 まずは力。
 それが彼女の価値観。
 ファフニーは、また一つ、彼女との価値観に隔たりを感じた。
 「そんなに…力が大事なんですか?
  確かに力が無いのは虫けらかもしれないけど…
  でも、力だけあっても、その力で小さな生き物を容赦無く潰すんじゃ…ただの化け物じゃないですか!」
 価値観の違いは埋まるはずが無い。そう思いつつも、ファフニーは言葉を続ける。
 ラウミィは、少し黙った。虫けらの言葉に耳を傾けてしまう。
 「なるほど…ね。
  昔、リーズが友達って呼んでた人間にも、同じような事を言われたわ。
  『力だけあっても心が無いのは化け物』…てね」
 神話の時代に、自分を傷つける力を持っていた人間が居た。
 その、赤いローブを着た魔法使いには、よく化け物と呼ばれたものだ。
 「マリクですか?」
 「マリク?
  あんな狂人、知らないわ」
 ファフニーの問いを、ラウミィは再び否定した。
 それから、ため息をついた。
 「…でも、残念ね」
 かつて出会った赤ローブの魔法使いの事を、少しだけ思い出させてくれた人間を、哀れむような目で見た。
 「お前みたいな虫けらが何を言っても…何の説得力も無いのよ」
 ぐりぐり。
 ファフニーを壁に擦りつけ続けた。
 話の内容以前に、無力な虫けらの言葉に、彼女は価値をほとんど感じていなかった。
 どんなに素晴らしい事を言っても、虫けらがぴぃぴぃ鳴いているのと同じである。
 …まあ、確かに、こんな虫けらばかりだったら、別に無視しても良かったけどね。
 ゴミ共の話など聞く価値は無いが、しかし、場合によっては、あえて踏み潰して回る事も無いと最初は考えていた。
 虫けらは虫けらで、勝手にやらせておけば良いのだ。虫けらを踏み潰すのは楽しいが、それだけが彼女の楽しみではない。
 最近、リーズを連れ戻そうとして、1000年ぶりにこの世界に来た時の事をラウミィは思い出した。
 その時は、そうして人間達を見定めようという気持ちがあった。
 1000年の間に、人間が進歩しているのかもしれない。
 もしかしたら、対等に話せる存在になっている可能性もあるのではないかと、期待もした。
 リーズのように小さな姿になり、人間の街を訪れて、しばらく過ごしてみる事にした。
 薄い下着のような妖精の衣装を身につけ、人の中を歩いてみる。
 そこで、彼女は人間の世界に判断を下した。
 最初に訪れた街で、彼女は出会った人間の男達に囲まれた。
 『金』というものと交換で、彼女は他の人間達に売られそうになった。
 どうやら、薄着をした女が一人で夜中に歩いていると、人間は同じ人間の仲間なのに、虫けらのように扱おうとするようだ。
 …なんて気持ちの悪い考えをする生き物なのだろう?
 ラウミィには人間の考えが全く理解できなかった。
 自分の姿は人間から見ると魅力的に見えるはずだ。人間は魅力的に見える同族の仲間をそういう風に扱うのだろうか?
 妖精は、仲間同士でそんな事をするなんて有り得ない。
 それから、彼女は元の大きさに戻ると、躊躇なく彼女を捕らえて売ろうとした男達を踏み潰した。
 …さすがに、一度の出来事で決めちゃだめよね?
 さらに、しばらくの間、彼女は人間の世界を見て回った。
 気ままな旅であった。困った事があれば、元の大きさになってやれば何でも解決する。
 少しでも気に入らなければ、踏み潰してしまえば良いのだ。
 そして、一月ほどして、ラウミィは結論を下した。
 「まあ…確かに、お前は特別な人間ね。認めてあげる」
 ラウミィは、改めてファフニーに言った。
 「薄汚い虫けらの中にも、たまには居るのよね…
  少しは、マシなのが」
 この男は、虫けらだ。何の力も無い。
 ただ、1000年前に自分に歯向かってきた人間と同様に、例外と考えても良いかもしれないと思った。
 どんなゴミくずの中にも例外が居るのだ。
 ただ、例外は、あくまで例外である。全体として考えれば、やはり人間は踏み潰しても気にする必要の無い虫けらだと、ラウミィは現在の人間について判決を下していた。
 「安心するといいわ。
  私も、別に、人間を絶滅させようなんて思ってないから。
  あと何千匹か…何万匹か…踏み潰して遊んだら許してあげる。
  遊び飽きたら、リーズを連れて、妖精の国に帰ってあげるわよ。
  …別に、いいじゃない?
  どうせ、また1000年もすれば、お前達は、うじゃうじゃと増えるんでしょ。
  そういうのだけは得意な、虫けらだものね、お前達は…」
 彼女の人間に対する感情は、1000年前よりも厳しくなった。
 フレッドは、もう居ない…と彼女は思っていた。
 「やっぱり…あなたとは話しても無駄みたいですね」
 ファフニーにも、ラウミィの考え方がわかった。
 今、自分が何を言っても無駄だという事を理解した。
 「そうね。無駄みたいね」
 ラウミィも頷いた。
 指を立てると、ファフニーを弾いて壁にぶつけて遊んだ。
 「リーズの気持ちが、少しわかるわ。
  お前は、潰してしまうより、ペットにした方が面白いのかもしれないわね」
 少しだけ優しい顔を、ラウミィはファフニーに見せた。
 どういう事かは知らないが、壊れかけていたのに一晩で心を取り戻したファフニーの力に、少しの興味を持っていた。
 まさか、リーズが影で励ましていたからだとは想像もしていなかった
 「あなたのペットになる位なら…リーズに踏み潰されたい」
 一言だけファフニーが口答えすると、
 「調子に乗るな…虫けら」
 ラウミィは彼の体を握り締めて、気を失うまで力を加えた。
 結局、それからも、今までと大して変わらない日が続いた。
 ラウミィはファフニーを弄び、痛めつけ、彼を舐め回して奴隷にしようとした。夜は小箱…予備の小箱をラウミィは持っていた…に蓋をしてファフニーを閉じ込めた。
 毎晩、ファフニーがこっそりリーズと話をしている事を、ラウミィは知らなかった。
 同じような日々が続き、約束の一週間が過ぎようとしていた。
 「仕方ないわね」
 結局、奴隷にならないファフニーに、ラウミィは苦々しく言った。
 「明日…リーズにお前を帰してやらないと、あの子は永久に私達の所に帰ってこないと思うし…」
 明日は、リーズの元にひとまず返してやる。
 そう、ラウミィは言った。
 最後の夜をファフニーは、いつものように暗い部屋の中で過ごしている。
 体中が痛い。
 呼吸をするたびに、胸が痛い。多分、肋骨が折れている。右手と右足も彼女に握られて、多分折れている。痛い。
 …でも、明日までの辛抱だ。
 それで、一週間、自分を弄び続けた妖精の女の子ともお別れだ。
 ファフニーは、この一週間でわかった彼女の事を考えていた。
 ラウミィは元々、人間を虐殺する為に、この世界に再び来たのではない。
 あくまでリーズを妖精の世界に連れ帰る為に、この世界に来て、ついでに人間を玩具にして遊んでいるだけの事である。
 人間をゴミだと思っている。その命に何の価値も感じていない。
 でも、妖精の仲間…リーズの事は気にしている。彼女を心配して、自分達の世界に連れ帰ろうとしている。
 …結局、リーズの気持ちは、どうなんだろう?
 そこが、いまいちファフニーにはわからなかった。
 「リーズ…結局、あなたは、どうしたいんですか?」
 ファフニーはリーズに、いつものようにテレパシーで尋ねてみる。
 リーズも悩んでいるようで、なかなかはっきり返事をしなかった。
 「あたし…妖精のお友達の所にも帰りたいよ?
  でも、人を食べるのは嫌だし…
  ラウミィちゃん見てたら…正直、今は帰りたくないの」
 最後の夜も、リーズは悩みながら言った。
 「もう少し、ファフニーと一緒に居たいな…
  とにかくラウミィちゃんが人間を虐めるのは、やめさせるよ。
  竜の魔物…じゃなかったけど、とにかく君達を虐める相手をやっつけるのが、約束だったもん。
  まずは、それだよね?」
 それは、ファフニーも同感だった。
 「ありがとうね、リーズ…」
 「だから、お礼は要らないって言ってるでしょ?
  約束したじゃない、最初に…」
 ファフニーに頼られるのが、リーズは気持ち良い。
 「明日、ラウミィちゃんがファフニーを返してくれるんでしょ?
  …何とかしてみるよ。
  今はフレッドも居てくれるから、大丈夫だよ、多分」
 リーズは、ラウミィを何とかすると言った。
 「フレッドに…会えて良かったですね」
 「うん。ファフニーのおかげだよ。
  ファフニーが庇ってくれなくて、あたしがラウミィちゃんに連れてかれたら、あたし、フレッドに会えなかったもん…」
 フレッドもファフニーと同様の推理で、ラウミィの住処に目星をつけていた。
 竜の魔物が現れた場所の情報と先祖が残していた妖精達の住処の情報から、古代種の生き物が住処にしそうな場所を調査していた所、近所の村で巨大な女の子が争っているという話を聞いて、飛んできたそうだ。
 「あたし、ファフニーとフレッドと…みんなで、お話したいな。
  だから、ちゃんと帰ってきてよね?
  もう…明日だから平気だよね?
  ラウミィちゃんも…今度は、お話してわかってくれたら良いんだけど…」
 「そうですね…」
 ラウミィも、リーズの話なら聞いてくれるかもしれない。それに期待したかった。
 いつものようにしばらくテレパシーで話した後、二人はそれぞれの場所で眠りに着いた。
 翌朝、ファフニーはラウミィの手に掴まれて、妖精の住処を離れた。
 衣服を着る事は、結局許してもらえなかった…

 (10話に続きます