妖精の指先 その10
WEST(MTS)作
※この文章は巨人が小人を様々な手段で弄ぶ表現が含まれています。
残酷な表現等が含まれますので、18歳未満の方は読まないで下さい。
10.古代妖精とメリア
こんな事なら、やっぱり、ダンジョンに篭ってれば良かったな…
リーズは、ファフニーを連れ去られて1人ぼっちになり、近所の村人達に『化け物』と呼ばれながら囲まれている。
こんな風に『化け物』呼ばわりされた事が、昔もあった。
…そういえば、あの子の顔、ちょっとフレッドに似てるな。
自分の事を『化け物』と言って指差した男の子が、昔の友達に似ている気がした。
リーズは、昔の出来事を考え続ける。
1000年程前、神話の時代の出来事だ。
まだ、人間達が妖精の玩具や食料として扱われていた時代である。
そんな時代だったが、マリクという少年だけは例外だった。ここ数年の間に突然現れた彼だけは、妖精達も自由にする事が出来なかった。
黒ローブを着た魔法使いの姿をしたマリクは、
『僕を捕まえたら食べていいよ?』
と微笑みながら、身長が30メートル程ある妖精の女の子達の前に姿を現し、彼を捕まえようとする妖精達を煙に巻いていた。
妖精達は自分の人差し指と同じ位の大きさしかない、小さな人間を捕まえる事が出来ずに悔しがったが、誰もマリクを捕まえる事が出来なかった。
いつしか、マリクだけは特別だと、どの妖精も考えるようになっていた。
同時に、マリクと出会い、交流を持つようになったリーズも、妖精達の間では話題になっていた。
妖精達にとって、人間と妖精の関係は、食べられる側と食べる側、玩具とその持ち主という事が常識であったが、その常識に合わないリーズとマリクは、彼女達にとって興味の対象になっていた。
暇つぶしの世間話というレベルではあったが、その頃、リーズとマリクの事は妖精達の中で一番の関心事であった。
そんなある日の夜、リーズは人間達の村をこっそりと訪れた。
マリクや、彼の弟が居る村だ。
もちろん人間の何十倍も大きい、妖精の姿のままでは目立ってしまうので、人間と同じ大きさに姿を変えていた。
妖精の特徴である、尖った目と耳も人間のような丸みを帯びるような外見に変えている。体には、マリクに貰った黒いローブを着ていた。
なので外見上は魔法使いの少女か、魔法使いのコスプレをした少女か、どちらかに見える事だろう。
…えへへ、あたしがマリク達と同じ位の体の大きさで、こんな格好をしていったら、何て言うかな?
彼らの反応が、少し楽しみだった。
リーズは、いつも遊んでくれるマリクやフレッドが大好きだった。
彼らと会ってから何ヶ月か経つが、彼らは、よく遊びに来てくれた。
フレッドは、妖精と戦う為の訓練という事でリーズに勝負を挑んでくる。
リーズから見ると、手のひらに乗るような人形と遊んでいるようなものだ。
無駄な努力をするフレッドを玩具にして、遊んであげるのが楽しかった。
マリクには、逆に遊ばれている。
彼を玩具にしようと思って、どんなに手を伸ばしても、彼は逃げてしまう。
マリクを捕まえようと無駄な努力をしながら、彼と話したり、魔法を教えてもらったりするのが楽しかった。
ここ最近は、妖精の友達と過ごすよりも、そうした人間の友達と過ごす時間の方が、リーズは長くなっていた。
彼らが住んでいる村に、こっそりとやってきたリーズは、村の外れにある小さな家まで、てくてくと歩く。
人間の大きさになって歩くと、小さな村も広く感じた。
マリクの家にはランプの明かりが灯っているのが、窓から見えた。まだ、マリクやフレッドは起きてるだろう。
とんとん。
リーズは、家のドアをノックした。
マリクとフレッドの、どちらが出るかな?
マリクは、あんまり驚いてくれないだろうから、フレッドが出た方が、多分、楽しい。
リーズが少し待っていると、
「はーい、誰?」
元気の良い足音と声がして、ドアが開いた。
黒ローブを着た女の子が、リーズを出迎えて姿を現す。
「…あの、あなた、誰?」
リーズが、きょとんとしながら首を傾げた。見覚えが無い子だ。
「それって、こっちが聞きたいんだけど?」
女の子も、リーズと一緒に首を傾げた。
黒ローブを着た女の子が二人、ドア越しに向き合って首を傾げる。
「私、メリアよ?」
リーズよりは、少し年上に見える女の子が先に名前を名乗った。
「あたし、リーズ。
…ねぇ、ここって、マリクとフレッドのおうちじゃないの?」
リーズはメリアに尋ねた。
「…あ、マリクに呼ばれて来たのね?
それなら入りなよ」
「うん!」
リーズがマリクの名前を出したから、メリアは彼女を招き入れた。
入り口のドアを抜けてから、もう一つドアを開けた部屋に、リーズは通された。
少し大きなテーブルが一つ。
そのテーブルに載ったランプの明かりが部屋を照らし、5人の人影がテーブルを囲んでいた。
赤いローブを着た男の子が1人。黒いローブを着た女の子が1人。後は、黒いローブを着た男の子が3人だ。
…あ、なんか、人間がいっぱい居る。
リーズは、テーブルを囲んでいる人影を珍しそうに眺めた。そのうち1人は、見覚えがある。赤いローブを着ているのはフレッドだ。
「ねえ、新しい子、連れてきたよ!」
メリアが元気に言った。
ランプに照らされた暗い部屋の中で、彼女の声は不釣合いだった。
「…ん、リーズじゃないか?」
目を丸くしているのは、フレッドだ。
どこかで見たような顔だと思ったら、リーズじゃないかと、笑みが漏れた。尋ねてきてくれたのかと、フレッドは嬉しかった。
常識外の大きさで、自分を玩具扱いするリーズも嫌いじゃないが、こうして同じ位の大きさの姿を見せられると、フレッドは見とれてしまった。
…あはは、フレッドがびっくりしてる。
リーズが彼に何か言おうとしたが、それよりも早く、他の黒いローブを着た男の子の1人が口を開いた。
「リーズ…って、フレッドが言ってた妖精か!」
緊迫した顔で、リーズの事をにらむ。
リーズの笑顔が凍りつく。
「おい、どういう事だよ!」
テーブルを囲んでいた少年達が騒ぎ始めた。その顔には妖精に対する恐怖と怒りが浮かんでいる。だが、彼らの目線に囲まれたリーズも怖かった。
この子達、誰なの?
リーズは状況がよくわからない。多分、マリクやフレッドの友達なのだろうとは思ったが…
「お前ら、落ち着けよ!
この子だけは…リーズだけは別だって、いつも言ってるだろ!」
フレッドはリーズを庇ってくれたが、他の者達は納得していないようだった。
「あー、あなた、リーズだったの?」
そんな喧騒を気にしていない様子で、メリアがリーズに尋ねた。
「う、うん…」
リーズは、メリアのローブの裾を不安そうに掴んだ。メリアはリーズより一回り体が大きいから、リーズは彼女に隠れるようにしている。
「うふふ、怖がらなくて大丈夫よ。みんな、そこまで馬鹿じゃないから」
メリアはリーズに微笑んだ。小屋の中に居るローブを着た少年少女達の騒ぎは中々収まらないが、彼女は、リーズに好意的なようだ。
「あはは、みんな勇敢だね」
そうした場の雰囲気を一切無視して、面白そうに笑う声がした。
リーズとメリアが通ってきたドアが開き、黒ローブの男の子がもう1人、姿を現した。マリクだ。
「そんなに騒いで、どうしたいんだい?
リーズが妖精だから…殺そうとでも言うのかい?」
場にそぐわない笑顔で一同を見渡す。
彼の笑顔に、一同は沈黙する。リーズも何も言えない。
「妖精は…敵だ」
黒ローブを着た男の子の1人が噛みしめるように言った。
「ふーん…じゃあ、エルドールはリーズに踏み潰されるよ?」
マリクは、男の子とリーズを交互に見た。
そういう風に言われて、部屋の中の魔法使い達は黙ってしまった。
「君達は自分達の力と妖精の力の大きさの違い、わかっているよね。
この子…リーズに勝てるとでも思っているの?
彼女がその気になれば、君達全員、指一本で潰されると思うけどな。
もちろん…フレッドも含めてね?」
マリクの言う通りだ。
彼らは、妖精に対抗出来る程の力は持っていなかった。一番力のあるフレッドでさえ、リーズには玩具にされているのだ。
「もし、そうなっても、お前は1人で高みの見物か。
…何様のつもりだ?」
フレッドが不機嫌にしている。
他の魔法使い達の少年少女たちは、何も言わない。目の前に居る小柄な女の子が、彼らより遥かに大きな力を持っている事を思い出した。
彼女が人間の振りをするのをやめ、元の妖精の姿に戻って力を振るえば、この場に居るマリク以外の全員を、あっという間に踏み潰すのも容易い事だろう。
自分達の力と妖精の力の差を改めて考え、彼らは沈黙した。
「マリク!
そんな事、言わないでよ…
あたしが、そんな事するわけないでしょ?」
リーズも口を尖らせてマリクに言った。
…マリクって何を考えてるんだろ。あたしを悪者にしたいのかな?
彼の考える事は、いつもわからない。
マリクは、ただ微笑むだけだった。
「そうだ、多分、リーズは、そんな事はしない」
「多分じゃないよ…」
フレッドの言葉に、リーズは、すねたような目線で彼の事を見た。
それから、誰も何も言わずに、場は静かになったが、空気は最悪になった。
「…さ、茶番は、そろそろ終わりよ。
そもそもリーズが私達の敵だったら、最初から小屋ごと私達を踏み潰せば終わる話じゃないの。
…それに、あんた達、自分の目で物を見てる?
この子を見て、本当に化け物呼ばわりする気なの?」
頃合を見て、メリアが言った。
彼女は自分に隠れるようにして、ローブの裾を掴んでいるリーズの事を可愛い子だと思った。リーズが震えているのが、メリアには、はっきりと伝わってくる。
「私はリーズの味方をするわよ」
メリアは、はっきりと言った。
「リーズは、俺とマリクに会いに来てくれただけなんだ。
そうだろ?リーズ」
フレッドもリーズの味方だ。
「だから、みんなも、話を聞いてやってくれ。
話もしないで、いきなり化け物って決め付けるのは、良くない」
フレッドが諭すように言ったのを聞いて、リーズは吹き出してしまった。
「うんうん。
『死ね!化け物!』とか言って、いきなり妖精に襲い掛かったら、だめだよ?」
メリアに隠れながら、リーズは言った。フレッドの言葉とは思えなかった。彼がそういう風に言ってくれるのは嬉しい。
「まあ…リーズは、いきなり襲い掛かった俺を殺さずに、他の妖精からも庇ってくれた。
正直、言いたい事は色々あるが、それだけは確かだ」
「何よ、言いたい事って…」
フレッドの言葉にリーズは首を傾げた。
彼の言葉を聞いて、少し、場の空気は和らいだ。
「それも…まあ、そうだな。
ごめんな、リーズ」
少年の1人が小さく言った。先程、マリクにエルドールと呼ばれた少年だ。メリアの言われてみると、リーズが怯えているのが彼にもわかった。
「うん…」
メリアに隠れたまま、リーズが頷いた。
少し、彼女は安心した。マリクとフレッドに会いに来ただけなのに、他にも人間が居てびっくりしたが、一応、仲良くなれそうだ。
「なるほど…」
マリクが深々と頷いた。
「君達は話し合いを望むんだね?
それは、賢明な判断だと思うよ。
僕も、僕の友達が、別の友達をゴミくずのように踏み潰すのを、あまり見たくない」
彼は他人事のように笑っていた。
「何様のつもりだ、全く…」
「だから、あたしは、そんな事しないよ…」
フレッドとリーズが不機嫌そうにマリクの事を見ている。
…あ、でも、マリク、あたしの事を友達って言ってくれたね?
リーズは、少し嬉しかった。
マリクは場の空気を一切無視して、話を続ける。
「人間と妖精が同じテーブルで話す機会なんて、滅多に無い。
…というより、初めてかもしれないな。
好きなだけ話すといいよ。僕が聞き届けてあげる」
マリクの考えている事は、誰も、よくわからなかった。
ただ、彼の言うように、人間と妖精が同じ場所に集まって話す事が極めて珍しい事なのは彼らにもわかった。
黒ローブを着た少年少女達は、目の前で不思議そうな顔をしている妖精の女の子を、彼女に負けない位に不思議そうに見つめた。
彼らは、皆、マリクに呼ばれて集まってきたと言った。
マリクは妖精達の前にも姿を現したが、人間の前にも同様に姿を現していた。
彼が姿を現すのは、彼と同じように、少し特別な力を持った人間の子供達の前だった。
『君の仲間を紹介してあげるよ。
僕についてきてごらん?』
そう言って、マリクは人間の子供達を集めていた。
彼が集めたのは、彼と弟のフレッドを含めて7人の少年少女達である。
生まれつき魔法の力に長けた子供達は、同じような仲間と会った事を喜んだ。
同時に、自分達を集めるだけ集めて、後は何をするわけでもないマリクの事を不思議にも思った。
「俺達、『七人の子供達』って、勝手に名乗ってるんだ。
…そのまんまで、あんまり格好良くは無いけどね」
エルドールが言った。彼は、4番目にマリクに集められたという。
「まあ、あんまり、カッコイイ名前を付けても、名前負けしたら恥ずかしいしね」
メリアが、ふふっと笑った。彼女は3番目にマリクに集められたという。つまり、マリクと彼の弟のフレッドの次、外から集められた子供達としては、最初という事になる。
「リーズが、『マリクに会いに来た』って言うから、『八人の子供達』って名前を変えないといけないかと思ったんだけど…残念ね」
「えへへ、妖精でごめんね」
メリアの言葉に、リーズは楽しそうに答えた。
『七人の子供達』を集めたのはマリクであるが、彼は自分の独自の世界に埋没しているような人間である。弟のフレッドにしても、妖精を倒すためと、自分の修行の事ばかり考える傾向があった。
結局、何となく話をまとめるのが上手なメリアが、実質的に集まりを支えている形になっていた。年齢的にも、彼女は18歳で、この集まりの中ではマリクと並んで最年長だった。後は、14歳から16歳位の少年少女達である。
「リーズ、せっかくだから聞きたいんだけど…」
エルドールが遠慮がちにリーズに尋ねた。
「妖精達が、この100年位の間に、段々と力を弱めているっていうのは本当なのか?
…いや、答えにくかったら、別にいいけど」
彼は、妖精であるリーズの事を気づかっている。
「んー、別に弱くなってるっていうのはちょっと違うのかなー…
…ただ、力を維持するのが難しくなってるの」
リーズは特に嫌な顔もせず、妖精の事情をエルドールに話した。
「昔は、一年に一回位、ご飯を食べれば元気にしてられてたみたいなんだけど、最近は、もうちょっとご飯を食べないとだめみたい」
「この世界が妖精達に力を与えなくなっているっていう、話だよね?」
「うん…
それでね、何ていうか、たまには栄養がある物を食べないと辛いっていうか…」
リーズはエルドールの質問に、言葉を選んで、やっぱり答えにくくなってしまった。
「人間を食べ続けないと、妖精は本当の力を維持出来ない。
そういう事だね?」
代わりにマリクが言った。いつもの笑顔で。
リーズが申し訳無さそうに頷いた。
今でも、妖精達は毎日食事をするわけでは無い。ただ、それでも食事をする時には、まずは人間を食べようとする事が、最近の妖精達の考え方だった。
「でも、リーズは人間を食べてないんだよね?」
「うん…でも、たまに何か食べてれば死ぬって事は無いから…」
エルドールの言葉に、リーズは小さな声で頷いた。
つまり、彼女は妖精としての本当の力を維持出来ていないという事だ。
…なるほど、フレッドはともかく、マリクまでもが入れ込むわけだ。
可愛い子だな。エルドールは彼女を見ていて微笑んだ。無邪気さと優しさを、彼女から感じた。
ただ、幼すぎる様子が気になった。
妖精と人間の間にある深い溝を、この子は、よくわかっていないのではないだろうか?
「妖精は、この100年位の間に、段々と力を弱めている。
でも、逆に人間は、この100年位の間に、段々と力を強めているね」
マリクが言った。
「あ、それ、聞きたい。
昔の人間って、本当にあたし達の玩具みたいで、心も無いような感じだったんでしょ?」
人間の事情に関しては、リーズが興味を持った。彼女も、あんまり昔の事は自分で見てきたわけでは無い。
昔の人間は知性はあったが感情が無く、妖精達の言う事に何でも従ったという話だけは、聞いた事がある。
「ああ。
…まあ、いつもリーズに話してるのと同じ話さ」
フレッドがマリクの代わりに答えた。
「人間が明らかに心を持つようになったのも100年位前。
俺達みたいに少し変わってるのが産まれてくるようになったのも、それからの事だ。
まあ、まだまだ、人間は妖精にとっては玩具みたいなもんなのだろうがな…」
「えへへ、人間ってやっぱり玩具だよね」
リーズが、にこにこと笑ってフレッドの方を見た。彼の事は、いつも玩具にしている。胸に抱いてみたり、指で体中を突いてみたり、人形のようにして遊んでいる。
ただ、他のみんなが機嫌が悪そうにしていたので、彼女は、ごめんなさい。と謝った。
「可愛いわね、リーズは…」
そう言って、メリアはリーズの頭を軽く小突いて、フォローしてくれた。
それから、マリクが再び口を開く。
「妖精が力を弱め、人間は力を強めている。
そして、今日は人間の若者と妖精が同じテーブルについている。
食べる者と食べられる者。
玩具にする者と玩具。
対等でない者同士の同席。
…面白い事だね」
マリクが言った。
…この人、何を言ってるんだろう?
リーズは、やっぱりマリクの言う事がわからず、首を傾げた。
「リーズ、君は、妖精と人間の関係…人間という生き物をどういう風に考えるんだい?」
マリクがリーズに尋ねた。
急に難しいことを聞かれて、リーズは戸惑う。
そうでなくても、彼に真っ直ぐに見つめられると困る。胸がドキドキする。
「人間は、あたし達が…妖精が玩具や食べ物にする為に作った生き物…だよ。
だから妖精は、人間に何をしてもいいの…」
何かに操られるように、リーズは元気の無い声で言った。
妖精のみんながいつも言っている事をそのまま言った。
「妖精達の一般論なんか聞いてない。
君の考えを聞いている」
マリクがリーズに言う。その笑顔は、いつもよりも冷たいものに、リーズには見えた。
「おい…リーズを虐めるなよ」
フレッドがマリクを手で制しながら言った。メリアが無言でマリクの頬をつねる。この二人は、無条件でリーズの味方をしてくれるようだ。
「何をしてもいいんだから、お友達になっても良いって…思うよ。
だって、踏み潰したり食べたりしたら可哀想だし…遊んだ方が面白いもん…」
マリクに見つめられて悩みながら、やがて、怯えるようにリーズは答えた。
「良い子ね。よく、言えたわ」
メリアがリーズの髪を撫でた。他の者も、彼女の言葉と態度を見て、思う所があったようだ。
「まあ、リーズのように考える妖精が増えれば世界は変わるよね。
彼女達が人間達を虐殺したり、人間達の世界を破壊する光景を、あまり見る事が出来なくなるね」
1人、マリクだけが変わらない笑顔を浮かべていた。もう一度、メリアがマリクの頬をつねった。
これが、いつもの『七人の子供達』の風景だった。彼らは、普段は自分の家でそれぞれの生活を送っているが、たまにこうして集まって、話をするという。
人間について、妖精について、世界について。
他の人間と少しだけ違った力を持っている彼らが色々と話す様子を、マリクが1人、他人の振りをして聞いていた。たまに謎めいた事を言って、皆を煙に巻く。それが、彼らの集まりだった。
そうやって、しばらく話した後、リーズは妖精の住処に帰る事にした。
『七人の子供達』は、これからも、リーズがいつ遊びに来ても構わないと言ってくれた。
但し、他の妖精には内緒にするという条件だった。
将来的にどうなるかはわからないが、少なくとも現在の妖精達の中には、この小屋ごと『七人の子供達』を踏み潰してしまいたいと考える者も多いだろう。そうなった時、彼女達の足から逃げられるのはマリクだけだ。
メリアがリーズを村の出口まで送ってくれたので、二人は男達に別れを告げて歩いた。
「メリアさん、色々ありがとうね!」
リーズは黒ローブを着た少女の後に付いて歩きながら、彼女を尊敬するような目で見た。
今日は、メリアが色々と助けてくれた。彼女は小さな人間だけれど、とても頼りになると思った。
「うん。
リーズってフレッドが言ってた通りで面白い子だったからね。
…ねえねえ、良かったら、もう少し、私と話していかない?」
メリアも、可愛いリーズに興味があった。妖精というより、彼女ともう少し話をしてみたいと思った。
「うん。メリアさんが言うなら!
…そういえば、あたし、人間の女の子と話すのって初めてだよ。
でも、メリアさんを見てると、全然、妖精と変わらない気がするな?」
リーズはメリアに答えた。そのまま、村を出て、人気が無いところまで少し歩いた。
彼女はマリクやフレッドと初めて会った時は、彼らが自分とは違う生き物だという事を最初から感じたし、意識もした。
ただ、目の前に居る、今の自分より少し体が大きな魔法使いの少女には親近感を持った。自分に優しくしてくれたし、庇ってもくれた。リーズは、すっかりメリアに懐いてしまった。
「そうね。こうして話してると、リーズも普通の人間の女の子と同じみたい。可愛いよ?」
小さなリーズが、まるで妹みたいだと、メリアは思った。
「でも…本当は、リーズも、すごい大きいんでしょ?」
少し低い声で言って、メリアはリーズの事を見た。やはり、彼女の持っている力の大きさに対して、多少の恐怖はあった。
身長160センチ程の自分より、リーズは一回り小さい。小さいが、それは彼女の本当の姿では無いのだ。
「うん!
大きいよ。妖精だもん。
…えへへ、最初にフレッドに会った時、お尻に敷いちゃった事もあるんだよ?」
リーズが得意気に言った。
「お尻に??
ふーん…なるほどね」
それは、聞いた事の無い話だ。面白そうである。メリアは含み笑いのような笑顔をリーズに見せた。
「うふふ…
フレッドって、君と初めて会った時の事をあんまり話してくれないのよ。
ねえ、どんな感じだったか、教えてくれる?」
「うん。もちろん!」
リーズに断る理由は無い。
フレッドが『死ね!化け物!』と言って、リーズに襲い掛かってきた事。
彼の魔法が、針に刺されたみたいで少し痛くてびっくりしてしまい、怒った事。
それから、お仕置きに彼の事を玩具にして、お尻に敷いて遊んだりした事などを、リーズはメリアに話した。
「あはははははは、可笑しい!!
よりによって、あのフレッドがねぇ…
君のお尻の下敷きかぁ。
そりゃ、人に話せないよね」
メリアが大笑いしている。フレッドのそんな姿は、考えた事も無かった。
誰よりも強がっていて、無茶で、自分は誰にも負けないって信じているような、子供っぽい所もある。フレッドはそんな男にメリアには見えている。
それが、この子のお尻の下とは…ね。
リーズの子供のような笑顔を見ながら、メリアは笑いが止まらなかった。
「あたしがお尻の下から出してあげたらね、フレッド、呆然としてたよ?
なんか、真っ白って感じで。
えへへ、フレッドのあんな顔見たのって、あの時だけじゃないかな?」
さすがのリーズも、本当に潰してしまいそうで怖いから、その後はフレッドをお尻で遊んだりはしなかった。数ヶ月前の事を懐かしく思う。
「でも、また、お尻に敷いてみちゃおうかな。気をつけてあげれば、潰さなくて済みそうだし」
「あはは、いいんじゃない?
君みたいな子に玩具にされてたら、きっと、フレッドもそのうち思い知るわよ。
妖精を皆殺しにするなんて、馬鹿な事は言わなくなるんじゃない?」
「あはは、そうだよね!」
リーズとメリアは一緒に大笑いしている。
妖精の女の子と人間の女の子は、人形のように小さな少年を、自分のお尻に敷いてしまう場面を想像して楽しんでいた。
少し残酷な遊びを考えて、楽しかった。
妖精であろうと人間であろうと、女である事に変わりは無いようだ。
「なるほどねー。
でも、リーズ、ありがとうね。フレッドの事、殺さないでくれて…
あたしがリーズだったら、多分、踏み潰してたんじゃないかなぁ」
まだ笑いが収まらない様子だったが、少し複雑な顔でメリアは言った。
自分がリーズの立場だったら、彼の事を踏み潰していただろうと思う。
例えば、蚊のような小虫に刺された時、自分は何の躊躇も無く叩き潰すからだ。
虫の命になど、メリアは興味が無かった。
「リーズみたいに優しくする自信…無いな」
「そうかなぁ…
メリアさん、優しいから、きっと踏み潰したりしないと思うよ。
あたしも、最初はフレッドの事を踏み潰しちゃおうって思ったんだよ?
でもね、親指と人差し指で挟んで、フレッドを摘んでみたらね、あんまり脆くて弱かったから…可哀想になっちゃったの」
「私…それでも踏み潰しちゃいそうな気がするわ」
メリアは、ちょっと恥ずかしそうに笑った。まあ、実際にそういう場面に遭遇してみない事には、何とも言えなかったが。
「でも、リーズも、このお尻で敷いちゃったのよねぇ…」
笑い飽きた所で、メリアはリーズの背中に回りこんで、彼女のお尻を黒ローブ越しに撫でた。そういう事が出来てしまうリーズが、少し羨ましかった。
「メ、メリアさん、気持ち悪いよ…」
「あ、ごめんなさい。
…うふふ、でも、男の子が好きそうな、きれいな形してるわよ」
「そうなの…?」
リーズは少し不思議そうにしている。そういうのは、よくわからなった。
「ねえねえ、ちょっと見せてよ?
別に、変な事しないから」
女の子同士だし、いいよね?とメリアは言った。
「う、うん。別にいいよ?」
リーズは、そう言って黒ローブを脱いだ。
黒ローブの下には、胸と腰の部分だけを隠すように布の衣装を着ている。
「べ、別に全部脱がなくても良かったのよ?」
いきなり下着姿のような薄着になった女の子を見て、メリアの方が引いてしまった。
「そうなの?
でも、いいよ。これが、あたし達の普段の格好だし」
下着のような薄い布を着ただけの姿で、少し自慢気にリーズは言った。
これが、本当の自分の姿、妖精の衣装なのだ。
「なるほど…ね。妖精だもんね。
…うーん、それにしても、可愛いケツねぇ。お姉さん、羨ましいわ」
メリアは、じーっとリーズの体を眺めている。胸は少し小ぶりだが、その代わりにお尻が可愛いように見えた。
「…ていうか人間の方が、妖精を見て美しいって思うように出来てるんだから、当たり前かな」
「メリアさん、あんまり、じろじろ見られると、ちょっと恥ずかしいよ…」
メリアは、フレッドを敷いてしまった、妖精のお尻を中心に、じーっとリーズの体を観察する。魔法使いにありがちな思考として、新しいものや珍しい物を見ると、心を奪われて見とれてしまうようだ。
さすがに、じろじろと観察されると、リーズは少し恥ずかしかった。
「あ、ごめんなさい。
うふふ、でも、リーズは、胸よりもお尻の方が可愛いみたい。
これからは、そっちを中心に攻めていくといいわよ?」
「う、うん、わかった」
攻めるって、何を攻めるんだろう?
意味がわからなかったが、メリアの言う事なので、リーズは、とりあえず頷いておいた。
「ねえ、リーズ、もう一つだけお願いしていい?」
「は、はい」
今度は、何をすれば良いんだろう?
リーズは、ドキドキしながら頷いた。この、小さな女の生き物の言う事には、逆らおうという気がしなかった。
「リーズがフレッドをお尻に敷いた時って、どんな感じだったか、見てみたいの。
ちょっと、やってみてくれない?」
「そ、それは嫌だよ。
メリアさんをお尻に敷くなんて出来ないよ…」
リーズは、あわてて首を振った。
メリアを尻に敷くなんて、恐れ多くて、冗談でもそんな事をする気にはならなかった。
もし、頼んだのがマリクやフレッドだったら、喜んでやっていただろうが…
「うん。ほんとに敷かれるのは、私だって嫌よ。
だから、しゃがみ込む所までね?
私、妖精を見た事って無いし、体験してみたいの。
妖精の大きさや力って、どんな感じなのかなーって…ね?」
知識欲をギラギラとさせているメリアは、有無を言わせない様子だったので、リーズは言う通りにする事にした。
「うん、わかったよ。
じゃ、元の姿に戻るね…」
気は進まなかったが、ひとまず、リーズは元の姿に戻る事にする。
辺りが薄い光に包まれ、メリアは思わず目を閉じた。
…これが、妖精が姿を変える時に放つ光なんだ。
メリアは光が晴れるのを楽しみにしながら待った。
妖精達の大きさや姿については、今までに何度も考え、計算してきた。
彼女達の身長は、約30メートル程。人間の20倍程のサイズだ。むしろ人間が、彼女達の20分の1のサイズとして作られたとメリアはマリクから聞いていた。
妖精達の情報、人間が彼女達に作られたという話については、全てマリクからの情報だった。
彼が、どこでそれを調べてきたのかは謎だったが、マリクの事だけに、余り深くは、メリアを含めて誰も考えなかった。
妖精達のサイズが人間の20倍という事は?
メリアは、さらに考える。
妖精達の体が人間と同じ構造だとすると、体重は20を3回かけた数…人間の8000倍位になるはずだ。
どう考えても、ちょっと体重をかければ、人間を家ごと踏み潰すのに充分な重さである。
そうして考えると、リーズのお尻に敷かれたフレッドが生きていたのは、奇跡のような事だと思った。リーズは、よっぽど上手に彼をお尻に敷いたのだろう。
やがて、光は晴れ、元の妖精の姿に戻ったリーズがメリアの目の前に姿を現した。
リーズは少し恥ずかしそうに、自分より小さくなってしまったメリアの事を見下ろしている。
「うわ…デカ過ぎね」
メリアは乾いた声で、遥か上にあるリーズの顔を見上げた。
ついさっきまで、可愛い妹みたいに思っていた相手の圧倒的な姿を見ながら、彼女は腰が抜けたように地面に座り込んでしまった。
リーズは特に変わった仕草をするわけでなく、先ほどまでと同じく普通に立っている。
すっかり、外見的な立場が逆転してしまった。今はリーズがメリアの事を、玩具の人形でも見るように見下ろしている。
メリアの目の高さは、リーズの履いている靴の高さよりも低い。
リーズの足のサイズは4メートル以上はあるから、先程までみんなで話していた小屋を丸ごと足の下に入れる程で無いにしても、踏み潰すのは難しい事じゃないだろう。
大体、想像通りの光景だが、やはり常識外の大きさである。
元の姿に戻ったリーズの大きさを目の当たりにして、メリアは体が震えた。
「ご、ごめんなさい。大丈夫?」
リーズは膝をついて、体を低くして、メリアの事を心配そうに覗き込んだ。
いくら、あたし達が可愛くても、やっぱり、あたし達の体の大きさって、人間から見ると怖いのかな?
自分の姿を見ただけで腰を抜かしてしまった様子のメリアを見て、リーズは少し寂しかった。彼女の事を上から見下ろしてしまった事が恥ずかしいと思った。
「い、いいのよ。別に謝らなくて。
私こそ、ごめんね。あんまりリーズが大きいから、ちょっとびっくりしちゃった」
メリアは、申し訳無さそうにしている巨人の女の子を見上げて言った。こうしてみると、理不尽に大きいが、先程までと同じ子に見えた。
「そっか…仕方ないよね。あたし達、すごく大きいもんね。
大丈夫だよ、あたし、メリアさんを玩具にしたりしないよ?
…でも、不思議だな。
フレッドやマリクを見るとね、捕まえて玩具にしたいって思うんだけど、メリアさんを見てても、全然、そういう風に思わないや」
リーズが首を傾げている。
…あれ、それってもしかして?
メリアは、リーズのそうした考え方に興味を持った。
男の子は玩具にして遊びたいけど、女の子相手にはそういう事を全然考えない。姓を意識している考え方だ。
「ねえ、リーズって妖精の男の子と遊ぶときは、どうやって遊ぶの?」
メリアはリーズに尋ねてみた。
「妖精の男の子って、見た事無いなー?
会った事無いけど…王様が男って聞いた事あるよ」
リーズは首を傾げる。妖精の男というのは、妖精の中でも希少種だった。
「…という事は、フレッドやマリクって、初めて見た男の子?」
「うん」
リーズが、何だかよくわかりません。という具合に、こくんと頷いた。
メリアは改めて、彼女の事を見てしまう。
…うわー、やっぱり、妖精と人間って違う生き物かもしれないわね。
そんなに男が少くては不健康だ。少し、リーズ達妖精の事を、自分とは違う生き物だという風に感じた。
初めて見た男の子が、彼女にとっては、お人形サイズ。それは人間にはあり得ないシチュエーションだ。
…ふーん、面白いなぁ
でも、メリアは、ふふふ。と含み笑いをした。
この、人間から見ると反則のような大きさをした妖精の女の子は、そういう方面に関しては見かけ以上に子供のようだ。余りにも無邪気過ぎる。
その無邪気さは、少し怖いと思ったが、可愛いと思う気持ちの方をメリアは強く感じた。
彼女には、色々と教えてあげなくちゃならない。
「あはは、確かに、フレッドがいつも言ってる通りだね。
妖精も、君みたいな子ばっかりなら、面白いって思うわ。
…じゃあ、そろそろ、フレッドをお尻に敷いた時みたいに、やってみてくれる?
迫力あるんだろうなー、きっと」
メリアは、笑いが止まらなかった。
この無邪気で巨大な妖精が、どういう風に人間の男の子をからかうのか、見てみたかった。
その気になれば、この子は人間の男の子をどういう風に扱う事も出来るわけだから、興味はあった。
「う、うん、じゃあやってみるよ。
メリアさん、仰向けに寝ててもらえる?」
言われるままに、メリアは仰向けになってみた。
あんまり、やりたくないなー…
でも、メリアさんが言うんじゃ仕方無い。リーズはフレッドで遊んだ時のように彼女を跨いで、しっかりと踵をついて、ゆっくりとしゃがんでみる。
メリアが仰向けになって上を見ていると、リーズの丸くて張りがあるお尻が、段々と降りてくるのが見えた。
…うわ、このお尻だったら、さっきの小屋を丸ごと潰せちゃいそうね。
リーズのお尻は、先程まで居た小屋の屋根よりも広くて大きかった。
なるほど、彼女のお尻は真ん中できれいに左右に分かれて、下着のような布で覆われているが、上手くやれば、その辺りに人間を挟んで、潰さないように敷いてしまう事は出来そうだ。
…これは、迫力ありすぎね。
リーズに跨がれて、しゃがもうとする彼女のお尻が上から近づいてくると、メリアは世界が彼女のお尻で覆われてしまったような錯覚を感じた。
体の大きさの違い、人間の無力さを感じた。こんな事をされたら、逆らいようが無い…
…さっきまでは、小さくて可愛い子だったのにな。
撫で回してみたりして、リーズのお尻が、男に対して武器になるものだという事は確認したが、これは、また別だと思った。
白くて厚みのある肉の塊が、理不尽な大きさをして落ちてくるのをメリアは見た。
「これは…男の子にはキツ過ぎるわねぇ」
それでも、意外と冷静に感心してしまった。
リーズみたいな子に、こんな風に無邪気にお尻で敷かれたら、どんな男の子も降参するだろう。やってる本人が、行為の意味をあんまり理解していないのが始末が悪すぎる。
こういう風に、男を尻に敷いてしまえる可愛いリーズの大きさに、メリアは少し嫉妬した。
「フレッドの時は、このまま本当にお尻の下に敷いちゃったのよね?」
元気にいったつもりだったが、少し、メリアは声が乾いていた。
「うん。丁度、お尻の間に挟んだから平気だったの。
そうじゃなかったら、お尻で潰しちゃったね。ごめんなさい…」
リーズは、自分のお尻の下に居るメリアに謝った。こんな事は、早くやめたかった。
「あはは、いいのよ。
リーズも、別にフレッドを潰しちゃおうって思ってたんじゃないでしょ?
…ありがとうね。もう、大体解ったから、もういいよ」
メリアが言うと、リーズは彼女を跨いでしゃがむのをやめて、普通に隣に座り込んだ。良かった。やっと、やめられた。
「おつかれさま、リーズ。
なるほどね…物凄い迫力だったわよ?」
「そ、そうかな?」
よくわからず、リーズは、きょとんとしている。
「リーズは、やっぱりお尻が可愛いわね。
さっきも言ったけど、それで攻めていった方がいいわよ。
うん。それと、言葉で責める事も覚えると良いかもね。
うふふ、その体の大きさだったら、何を言っても説得力あるもん」
「う、うん、わかったよ?」
メリアさん、何を言ってるんだろう?
攻める?責める?
何を攻めたり、責めたりするのか、リーズは全く理解できなかった。
「うふふ、男の子で遊ぶ遊び方、色々教えてあげるね」
メリアは、この無邪気な子には色々と教えてあげようと思った。それは、自分の楽しみだけでなく、リーズにとっても必要な事だと思った。
最低限、彼女が間違えて人間の男を、その圧倒的な力で意に反して殺してしまわないように、教えてやらなくてはならない。
「玩具にし過ぎるといけない場所とかもあるから、覚えておいた方がいいわよ?
あと、男の子がどうやったら喜ぶか、悔しがるか。色々、教えてあげるね」
「…あ、そういうの、教えて欲しい」
リーズも、玩具にしている男の子を殺すつもりはない。
ずっと、フレッドを玩具にしたいし、マリクも、いつか捕まえたら玩具にしてみたかった。
やり過ぎたらいけない事とかは、、教えてもらえると嬉しかった。
「例えば、話すときにね、少しあごを上げて、見下ろすようにするの。
相手を圧倒したい時は、そうして話すと、迫力が出ていいわよ?」
「へー、なるほどー」
足元の小さな生き物の話に、リーズは聞き入っていた。
メリアさんって、すごいなー。
リーズは、彼女を尊敬のまなざしで見つめる。
ただ、もう1人、その話を聞いている者が居た。
「あはは、なるほど。
男性を陰湿で残酷に、いつまでも弄ぶ為の相談。
相手を自分の思い通りの玩具にする為の策謀。
なるほど…女の子らしくて楽しいね」
マリクの笑い声がした。
『マリク!』
リーズとメリアの声が同時にした。
…この男は、今までのやり取りを全て見ていたのだろうか?
女の子の内緒話は、男が触れていい世界では無い。
リーズは彼を握り潰すような勢いで彼に手を伸ばした。
メリアは彼に向かって、人間が即死するような攻撃魔法を放った。
マリクは、いつものようにそれをふわふわと避ける。
「あはは、ごめんね、盗み聞きは、もうしないよ。
ゆっくり話すといい」
二人の女の剣幕に押されたのか、マリクは、あっさりと姿を消した。
「リーズ!いつか、あいつを捕まえて、たっぷり玩具にしてやりなさい!」
「うん!わかったよ!メリアさん!」
人間の女と妖精の女は意気投合した。男達には、内緒である。
そうして、リーズはマリクやフレッドの仲間、人間の魔法使い達と仲良くなった。