妖精の指先その3


WEST(MTS)

 ※この文章は巨人が小人を様々な手段で弄ぶ表現が含まれています。
  残酷な表現等が含まれますので、18歳未満の方は読まないで下さい。

3.古代妖精の心配

 巨大な竜の魔物によって、国土を荒らされている国がある。
 そんな国の辺境の街に向かって、少し危険な森を進む、小さな人影が2つあった。
 剣士の少年と、黒ローブを纏った魔法使いの女の子の二人連れである。
 「ねー、ファフニー、街、まだかなー?」
 黒いローブを纏った、魔道士スタイルの女の子が言った。古代妖精のリーズだ。古代妖精といっても、見た目は普通の人間の女の子と特に変わりはない(今は)。暑くて疲れたよー。と、頭を隠すフードを外して、髪をなびかせながら文句を言っている。
 「まだです。
  多分、今のペースだと、あと3日位は…」
 ファフニーと呼ばれた少年が、リーズに答えた。見習い騎士の少年である。動きやすさを重視して作られた革の服を着て、腰に剣を帯びている。この国の騎士団が、日常時に着用する服装だ。
 「えー…」
 「早く行きたいと思うなら、がんばって歩きましょう」
 不満そうにしているリーズに、ファフニーは言った。数日前、二人がリーズの住んでいたダンジョンを離れてから、似たような会話が何度も繰り返されていた。
 巨大な竜の魔物を倒すという事で、旅を始めた剣士のファフニーと巨大な古代妖精のリーズは、ひとまず、近所の街へ向かっていた。
 伝説の魔女…と思われている、古代妖精のリーズに会えた事を、ファフニーが自分の騎士団に報告する為だ。
 彼女と会う事がまでが、彼に与えられた任務だった。
 今、彼は、その先へと進んでいる。
 彼女を連れて、二人で旅を始めていた。
 『じゃ、ちょっと危なくても、近道しようよ』
 リーズが言うから、 二人は街道を離れて、少し危険な森を進んで街へと向かっているところだった。
 二人は、てくてくといていく
 「疲れたよー、休みたいよー」
 と、リーズが言ったの、何度目かわからない。
 うーん…と、ファフニーは悩む。
 ファフニーより頭一つ位小さい(今は)、妖精のリーズが、あんまり肉体的に丈夫で無さそうなのは見ていてわかるが、それ以前に精神的に怠けたがっているような感じだ。
 「じゃあ、後500歩です。それだけ歩いたら休みましょう」
 もうちょっとだけ歩こうよ。と、ファフニーは言った。
 「えー…まあ、そうね。
  ちょっとは、がんばらないとね…」
 あーあ、歩くの疲れたなー。大きくなって思いっきり走れば、街なんかすぐに着きそうなんだけどなー。と、リーズは不満そうだが、ファフニーの言う事を聞いてくれた。彼女が大きな姿になれるのは時間制限があるし、目立つ事もあるので、なるべくなら大きくならない方が良いと、ファフニーは言っていた。
 うーん…と、ファフニーは少し罪悪感を感じる。
 元を正せば古代妖精のリーズには、こうして自分と一緒に、少し危険な森などを歩く理由は無かった。
 『僕の国を荒らす悪い魔物を退治してください』と、言って、ファフニーがリーズをダンジョンから連れ出したのだ。
 だから、ファフニーは、彼女に無理をして歩かせるような立場では無い事を、自分でも理解している。
 リーズは、自分の得になるわけでもないのに、好意で力を貸してくれると言っているのだから。小さな人間の為に…
 とはいえ、リーズのやる気の無さそうな態度を見ていると、人として、注意したくなる気持ちもあった。
 こういうのを板ばさみっていうのかな?と、ファフニーはため息をついた。
 さらに、もう一つ、大きな不安があった。
 ファフニーは、リーズの不満そうな様子を見ていると、ほんの少しだけ怖い。
 「リーズ…今、
  『ちぇ、つまんないな。
   また、ファフニーの事、指でぐりぐりして地面に押し付けて、泣かせちゃおうかな』
  とか、考えてないですよね?」
 ファフニーはリーズに尋ねた。
 「何でわかったの?」
 リーズの目が点になっている。
 「リーズの顔を見てたら、何となく…です」
 だって、リーズは考えてる事が全部顔に出てるもん
 ふう…。と、ファフニーはため息をついた。
 リーズの本当の姿は身長30メートルの巨大な女の子の妖精だ。その姿なら、人間なんて小さいものだから、指一本で、ぐりぐりとする事なんて簡単な事だ。
 例え、一般常識として間違っていない事でリーズに厳しい事を言ったのだとしても、リーズが本気で不機嫌になると、本来の大きさになって、一般常識では考えられない逆切れと仕返しをされる可能性があるのだ。
 それでなくても、リーズは、僕をおもちゃにするのが好きみたいだし…
 「そっかー…
  ファフニー、やっぱり、あたしの事をわかってくれるんだね。嬉しいな!」
 リーズが機嫌の良さそうな笑顔を見せた。何で、今の流れで機嫌がよくなるのか、ファフニーにはさっぱりわからなかった。
 「うふふ、じゃあ、後で、指でぐりぐりって、ファフニーが泣くまでやってもいいよね?」
 「嫌です」
 当然だよね?と聞くリーズに、当然だめです。とファフニーは答えた。
 「えー…」
 途端にリーズが不機嫌そうになる。
 「じゃあ…夜まで休まないで、がんばって歩けたら…いいですよ」
 ファフニーはリーズに条件を出した。正直、彼女が話をする気があるうちに、約束をしておいた方が良いと思ったのだ。リーズが、話をする気が無くなって、実力行使をし始めたら…
 「本当?
  何してもいいのね?」
 リーズが目を輝かせて言った。
 何をしてもいい。という事になると、リーズはファフニーに何でも出来る。虫けらみたいに踏み潰す事も、そんなに難しい事ではない。 
 わーい、わーい。と、リーズは嬉しそうだ。
 …あれ、僕、はめられたのかな?と、ファフニーはリーズの笑顔を見て思った。
 「あの、僕の事を殺さないように、気をつけてくださいね…」
 「…ちっ」
 ファフニーが言うと、リーズは真顔で舌打ちをした。
 それ、冗談のつもり…だよね?
 真顔で悔しがっている素振りのリーズを見て、ファフニーは笑えなかった。
 「ま、冗談はともかくね、私、がんばって歩くよ!
  やっぱり、がんばるのって大事だよね」
 と、リーズは生き生きとして歩き始めた。
 …まさか、疲れて歩くのが嫌な素振りからここまで、計算付くなんじゃないよね?
 元気そうなリーズを見て、ファフニーはそういう風にも思ったが、この子がそこまで頭が回るようにも思えなかった。
 こうして、色々、計算とか駆け引きのような事も考えるファフニーだったが、
 「早く、街に着くといいねー」
 と、にこにこ笑っているリーズを見ると、可愛いなー。と思ってしまう。彼女の本当の姿を知っているのに…
 問題は、そういう風に思ってしまう時点で、計算とか駆け引きを考えてもほとんど無駄になる事に、ファフニー自身が全く気づいていない事だった。
 「ねー、でも、ファフニーも、大丈夫?
  ちょっと無理してない…?
  あたしの事、護るとかなんか言って…」
 リーズがファフニーに尋ねた。
 二人でダンジョンを出てからというもの、何かというと、ファフニーは、がんばっている。
 たまに襲ってくる魔物も全部相手してくれているし、夜も見張りとかしていて、あんまり寝ていないような…
 「心配してくれるんですか?
  優しいですね、リーズ」
 「う、うん…」
 ファフニーがリーズに微笑む。
 それが、少しだけ疲れた微笑に、リーズには見えた。
 やっぱり、無理してるんじゃないかな、ファフニー…
 リーズは、彼の事が心配だった。
 『リーズの事を護る』
 って、くさい事を本気で言ってくれるのは、まあ、確かに嬉しい。
 でも、無理をし過ぎて、君が死んじゃったら、寂しくて本末転倒だよ?
 ファフニーって、その事をわかってるのかなー…
 リーズはファフニーの気持ちがよくわからない。
 それから、しばらく二人は歩く。
 「リーズ…そろそろ休んだ方が、いいんじゃないですか?」
 夕暮れが迫る頃、ファフニーがリーズに言った。リーズは大分疲れているようで、顔色が悪い。普通に心配だった。
 「はぁはぁ、あと少し…
  ふふ、私、がんばるからね、ファフニー」
 疲れた顔で、リーズは笑顔を見せる。その笑顔だけ見ると、まあ、可愛い
 ただ、そんなに顔色が悪くなっても頑張ろうとする気持ちの源が問題だ。
 「い、いや、もう休んだ方が良いと思いますよ」
 彼は色んな意味で休んで欲しいと思った。
 リーズ、そんなに僕の事をおもちゃにしたいのかな…
 この人は何を考えてるんだろうかと、ファフニーは少しわからなかった。
 「んー…仕方無いか。
  もう限界ね…」
 少し考えた後、リーズは諦めてその場に座り込んだ。やれやれ、やっと休んでくれた。と、ファフニー色んな意味で安堵した。
 「でも、ここまで頑張ったんだし、ファフニーの事、軽く踏んづける位はいいよね?」
 「だめです。潰れちゃいます」
 にっこり微笑むリーズに、ファフニーは微笑みを返した。
 「とりあえず、休みましょうよ…」
 「そうね…
  …ねえ、ファフニーも、ちゃんと休みなよ。
  疲れてるんでしょ?」
 確かに、リーズの言うとおり、ファフニーも疲れていた。ここ数日は、夜もあまり寝ていない気がする。
 普通の大きさをしている時は何の力も無いリーズを連れて、少し危険な森を歩くのが、彼に負担が大きい事は確かだった。
 ファフニーも、木にもたれ掛かって、座り込んだ。
 二人は、静かに木にもたれて休む。
 静かにしていると、色々な森の音が聞こえてきた。
 少しの間、沈黙が二人の間で安らぎになる。
 「…ファフニー、誰かこっちに来てるよ」
 ふいにリーズが小さな声で言った。真面目な顔をしている。
 「誰か?」
 「うん、ちょっと、黙って静かにしててね」
 リーズがそう言って、耳を澄ましている。
 妖精は、耳とか目とか、そういう感覚が優れているとファフニーは聞いた事がある。僕に聞こえないものが、リーズには聞こえるのかもしれない。
 「小さな生き物が…6匹かな。足は二本だと思う。こっちに…来てる」
 小さいが、澄んだ声でリーズは言った。何かに集中しているみたいで、そういう声になっているようだ。真面目な顔をして、こういう声をしていると、少し大人っぽくも見える。
 …小さな二本足の生き物。
 なんだろう?
 ファフニーは考える。
 ピクシーやフェアリーって呼ばれる、人と似たような姿をした小さな妖精が居る事は知っているが…
 待てよ?
 「小さな生き物って、どれ位の大きさ?」
 ファフニーはリーズに尋ねた。
 「んー、ファフニーよりは大きいと思うよ?
  …あ、小さいって、あたしから見て、小さいって事だよ」
 耳を澄ませて、悩むようにリーズは言った。
 なるほど、リーズの感覚で『小さな生き物』という事か。そうだよね、僕よりちょっと大きいくらいの生き物って、小さい生き物だよね。
 …などと、すねている場合でもない。
 僕より大きい魔物が6匹だと、僕には荷が重いかもしれないな。剣に手をかけ、様子を伺っていると、何かが近づいてくる足音が、ファフニーにも聞こえてきた。
 リーズを連れて逃げるには、彼女が疲れすぎているように思えた。
 「ファフニー、大丈夫?
  君より大きいんだよ…?」
 リーズが心配そうに言った。
 「リーズは、がんばって沢山歩いたから、疲れたんですよね?
  とりあえず、どんな奴か見てみましょうよ」
 「んー…別に…そんなに気は使ってくれなくていいよ?」
 リーズはファフニーの優しさが余計な心配だと思った。嬉しくないわけではなかったが…
 ガサガサと、すぐ近くまで音が近づいてきた。リーズが言う、『小さな生き物達』が姿を現す。
 なるほど、ファフニーの2倍位の大きさだ。体重は、もっとあるように見える。2本足で2本の腕で、人型の姿をしている。手にはファフニーの体ほどもある、大きな棍棒を持っている。
 リーズの耳の予想通り、6匹居るようだ。
「ふーん、トロルだね」
 リーズが、魔物を見て言った。ファフニーも知ってる魔物だ。
 体の筋肉の付き方が、人間とは明らかに異なっていて、とにかく太い生き物だった。
 太っているようにも見えるが、トロルの大きな体は、ほとんど筋肉だった。力比べでは、とても人間が勝てる相手ではない。
 ただし、頭は空っぽに近いようで、その目からは知性の光はあまり見えない。さらに見た目通りの怪力に加えて、傷を負ってもすぐに治る高い回復力が武器という、肉体派の魔物としては嫌な相手である。
 ファフニーは、剣を抜いて、リーズを守るように立つ。
 二人で旅を始めてから、まだ数日しかたっていないけれど、何かが襲って来た時、彼はいつもこうしてきた。
 …リーズの事を護らなくちゃ。と、思う。
 背中に居る古代妖精の女の子は、大切だった。
 『ねえ、ちゃんと、あたしを魔物の所まで護衛して連れて行ってね?』
 最初に、リーズが言っていた。
 連れて行く。と、ファフニーは約束した。
 だから、ファフニーは剣を持って、トロルの様子を伺う。
 …大きいのが、いっぱい居るな。少し、ファフニーは体が震えた。
 トロルは力があって体力があるけど、頭は空っぽだ。魔法使いなら、少しは相性がいい。力だけが取り得の相手と、剣で正面から戦うのは賢い戦術とは言えない。でも、ファフニーの武器は剣だ。
 仮に、剣を武器として、トロルと1対1で戦うなら、高レベルの剣技、良質の剣が欲しい所だ。
 16で戦おうなんて思ったら、伝説レベルの剣士が、神や妖精が鍛えた伝説の剣でも持っていないと勝ち目は無いだろう。
 …だめだ、僕の力じゃ、リーズを守れそうにない。
 それなりの剣技とそれなりの魔剣を持ったファフニーには、1匹のトロルを相手するのでも命がけだ。
 「…ごめんなさい、リーズ。僕には辛い相手みたいです」
 ファフニーは言った。
 「ねえ…ファフニー?
  そんなに、深刻に考えないでよ…
  君より大きいのが、いっぱい居るんだもん。
  君が、勝てるわけないのなんて、見ればわかるし…」
 なんだか落ち込んでいる様子のファフニーをリーズは気づかった。
 どうして、そんなにファフニーが思いつめているのか、リーズにはさっぱりわからなかった。
 あなたの事を守ってあげられない。
 と彼女はファフニーに言われたけど、別に不満も不安も無かった。
 「ファフニー、君、やっぱり疲れてるよ…
  少し休ん方がいいって。あたしに任せて…ね?」
 むしろ、上機嫌にリーズは言った。
 「じゃあ、ごめんなさい、お願いします」
 ファフニーは、彼女に答えた。
 「もー…
  だから、そんな顔しないでよ。
  ごめんなさいとか、言う事もないし…」
 リーズは、すまなそうにしているファフニーの事が、少しじれったいと思った。
 小さな体で、何をそんなに抱え込んでるの? 誰も、君にこんなのと戦って欲しいなんて思ってないのになー。
 リーズは彼の事を一瞬、見つめた。
 トロル達は、ファフニーとリーズの方に向かって足を進めている。
 「約束したでしょ?
  君の手に負えないのが居たら、あたしが踏み潰してあげるって…さ?」
 確かに、リーズは、ファフニーにそういう風に約束した。
 「うん…そうですけど」
 女の子に頼るのは、少し恥ずかしいな。と、ファフニーは思う。
 出来るだけ、リーズの事を護りたかったけど…
 ファフニーは、迫ってくるトロル達を見る。
 彼の身長は、トロルの股よりもちょっと高い位だ。体格が大人と子供のように差がある。しかも相手は6匹だ。
 リーズが居なくて一人だったら…護る相手が居なくて、護ってくれる妖精も居なかったら…ファフニーは、大急ぎで逃げ出している所だ。
 「えへへ、じゃ、行くね!」 
 ファフニーの背中の方で、リーズの楽しそうな声が聞こえた。
 一瞬、辺りが薄い光に包まれて、ファフニーは、背中の方で光を感じた。
 光が収まった時、ファフニーとリーズに近づいていたトロル達が足を止めた。
 彼らは、ファフニーの後ろの人影を見て、驚いている
 トロル達の目の前に、革靴を履いた女の子の足があった。その革靴の大きさが、トロル達と同じ位なのだ
 革靴の上には、大きな黒い布…魔法使いのローブが空まで広がっている。リーズが纏っているローブだ。
 そして、ローブの上からは、にっこりと笑った女の子の顔が、足元の小さな生き物達を見下ろしていた。
 リーズが、元の姿、身長30メートル位の姿に戻ったのだ。
 知性の少ないトロル達も、驚いて見上げている。
 「ふーん、トロル、結構大きいね。
  あたしの足首位まで、あるかな?」
 リーズの声は、上の方から聞こえる。
 彼女は膝に手を当てて中腰になるような姿勢で、足元の小さな生き物達を見ていた。
 ちっちゃなファフニーを、彼よりは少し大きい6匹のトロルが、取り囲んでいる。
 こうして見下ろしてみると、ファフニーがいじめられているように見えた。
 …弱いものいじめって、嫌いだ。
 しかも、あたしの見てる所で、ファフニーをいじめるっていうの?ちっちゃいのに、随分勇敢なトロル君達だね。と、リーズは思った。
 急に現れた、黒ローブを纏った女の子の巨人を見上げ、トロル達は呆然としている。この森で、自分達より大きな生き物を見るのは初めてだった。
 だが、一匹が、ファフニーに向かって近づいてきた。どんな生き物にも、勇敢な者が居るようだ。
 とりあえず、小さい方を何とかしてしまおう。と、勇敢なトロルは考えたのだろう。
 …トロルの狙いは僕だ。ファフニーは剣を構えた。 
 彼の身長ほどもある棍棒を振り上げて向かってくるトロルを見上げる。
 少なくとも、人間とは比較にならない腕力を持ったトロルが振り回している、自分の身長ほどもある棍棒を、剣で受け止めるのは無理だと思った。
 …でも。
 力じゃ勝てないけども、トロルの動きはそんなに速くない。
 …勝ち目が全く無いとも思えない。
 ファフニーは剣を構える。
 風のように踏み込んで、トロルの攻撃を避けて、斬るんだ。出来る限りの力を込めて。
 一歩。
 無駄な動きが多いトロルの隙に集中して、勇気を持って、ファフニーは踏み出そうとした。
 だが、
 「ファフニー!
  動いちゃだめ!」
 彼は、空の方から、女の子の甲高い怒鳴り声を聞いた。
 言葉の内容よりも、声の大きさにびっくりして、足がすくんだ。
 ファフニーの2倍も大きいトロルは、耳が聞こえないのか、そのまま彼に向かってに近づいてくる。
 その、トロルの上に、突然何かが降って来た。
 ずしん。
 と、地響きがした。地面の土が地震の様に波打って、ファフニーは剣を杖にして、倒れないようにするので精一杯だった。
 トロルが居た所に、それを押しつぶすように、何か大きな物が落ちてきたのだ。トロルは一瞬で、落ちてきた物の下敷きになる。革靴を履いたリーズの足がトロルを踏んだのだ。
 ファフニーの2倍も大きいトロルだったが、リーズの革靴の下にすっぽり収まっている。
 の後ろに居たリーズは、彼を跨いで、トロルを踏みつけていた。
 ぐりぐり。
 と、リーズの足がトロルを地面に擦りつける。
 「もー、ファフニー!
  いい加減にしてよ!邪魔! ちょろちょろしないでよ!
  あたしがやるって言ったでしょ?」
 リーズはファフニーに怒鳴った。
 元の姿に戻ったリーズが大きな声出すと、目の前に雷が落ちたよりも大きな音がする。甲高い女の子の声だから、特に耳に突き刺さるようだ。
 …怒ってるんじゃないよね?
 ファフニーは、背筋が寒かった。生き物としての本能だろう。大きな音を聞くと、怖い。
 元の姿に戻ったリーズの、雷の音よりも大きな怒鳴り声は、ファフニーの体をすくませた。
 もちろん、リーズが自分を踏み潰したりしないのはわかっている。
 でも、こんな大きな女の子に頭の上から怒鳴られたら、怖い…
 ファフニーは、自分をまたいで、トロルを踏んでいるリーズを見上げた。
 彼女は自分のローブにつまづいて転ばないように、両手でローブの裾をまくり上げている。
 ローブを膝の辺りでつまみ、腰の辺りまで持ち上げると、横に少し広がったローブが、ひらひらと風に舞っていた。
 リーズに跨がれているファフニーだが、幸せか不幸か、上を見ても、彼女のローブの中は暗くて見えなかった…
 「ねぇ、ファフニー…?
  君、もしかして、トロルと一緒に踏み潰されたいの?
  どうしてもって言うなら…ほんとに踏んづけてあげてもいいよ」
 リーズは、少し呆れたように、ファフニーに言った。
 …なんで、ファフニーは、あたしの足元でちょろちょろしようとするんだろう?本当に踏み潰して欲しいのかな?不機嫌だった。
 トロルを踏みつけていた足を上げ、ファフニーの上に持ってきた。
 彼女の革靴が光を遮って影を作り、ファフニーは辺りが暗くなった気がした。彼女の靴の裏に染み付いているトロルの血と肉が、ファフニーの側にこぼれ落ちてきた。
 …地獄に落ちたら、こういう光景を見る事が出来るのかな?
 と、上を見上げているファフニーは思った。少し口を尖らせているリーズの顔を、さすがに可愛いと思えなかった。
 「君だったら、トロルより弱そうだし、もっと簡単に潰れちゃうよ。きっと」
 どうするの?潰して欲しい?
 リーズは口を尖らせてファフニーに言う。
 「リーズ、邪魔してごめんなさい…
  絶対、踏まないで下さい…」 
 自分を見下ろして足を振り上げているのが、頭がおかしい巨人の女の子ではなく、リーズだという事はわかっている。彼女が本気でそんな事はしない事もわかっている。
 でも、いくら、可愛いリーズの言う事でも、笑える冗談じゃない。ファフニーは首を振った。
 彼女の革靴の裏、ファフニーより大きなトロルを踏み潰して、その残骸が染み付いている革靴の裏を見せながら、『踏み潰す』なんて言われては…
 リーズじゃなくて、見知らぬ女の子の巨人がやってる事なら、ファフニーは泣き出しているところだ。
 …あ、ファフニー、怖がってるかな?
 ちょっと可愛そうだけど、これなら、さすがにあたしに素直に任せてくれる…よね?
 明らかに脅えているファフニーの事を、脅かしてごめんね。と、思いながら、リーズは見ていた。
 ファフニーは、リーズの邪魔にならないようにと、黙って彼女の背中の方へと走る。ファフニーが安全な所…間違えて踏み潰さないで澄む所…に逃げてくれたので、リーズは安心した。
 「ねー…ほんと、気をつけてね?
  あたし、こんなトロルと戦う事より、間違えて君を踏んづけちゃう事の方が、ずっと怖いんだよ?」
 リーズは、なるべく優しく言った。
 「う、うん、ごめんなさい…」
 リーズの言う通りだ…
 ファフニーは、彼女の邪魔にならないように、おとなしくしていようと思った。
 ずしん。
 リーズが、先程のトロルにもう一度足を踏み降ろした。
 ファフニーが見ると、トロルがリーズの革靴にぐりぐりと踏みつけられているのがわかった。
 「ぐぎゃぁぁぁ!!」
 と、言葉にならない、恐ろしいトロルの断末魔の悲鳴が聞こえる
 …でも、トロルの断末魔の悲鳴より、さっきのリーズの怒鳴り声の方が、大きくて怖かった。と、ファフニーには思えた。
 やがて、彼女の革靴に完全に隠れて、トロルの姿は見えなくなった。ついさっき、ファフニーを襲おうとした彼は、多分、もう、ファフニーを襲う事は出来ないだろう。 
 「…ん?まだ、ちょっと動いてるかな?」
 もぞもぞと、小さい生き物が革靴の下で動くのをリーズは感じた。
 じゃ、もう一回、踏み潰そう。
 そんなに、難しい事ではない。
 リーズは足を一度上げた。
 そうすると、ぐちゃっと潰れたトロルが、ファフニーにはよく見えた。確かに、まだ少し動いているけど…
 この状態で生きているトロルは、やはり頑丈な生き物だと思った。
 …これ、僕の2倍も大きかったトロルだったんだよね?腕力だけが取り柄の。
 かろうじて、生命の光を残している、潰れた大きな生き物を見て、ファフニーは嫌な気分になる。よく見ると、少しづつ、傷が再生してるのがわかったのがさらに不快だった。
 ずしん。
 あ、また、何か大きな物が落ちてきた。リーズの足だ。再び、トロルが見えなくなった。
 「あーあ、革靴が汚れちゃうわね…」
 ぐりぐりと、リーズは体重をかけて、瀕死のトロルを地面にさらに擦りつけた。そのうちに、リーズは足元から伝わってくる感触が、生き物の原型を留めていないようになった事を感じた。
 可愛いらしい女の子の革靴が、自分の2倍もあるトロルを簡単に踏み潰し、命を奪った所を、ファフニーは見つめていた。
 リーズはローブの裾をまくっていたから、いつもはローブに隠れている膝から下の辺りが、ファフニーにも見えた。
 細くて白い、きれいな足首が、革靴を履いている。
 こういう風に、はっきりと足が見えると、巨大な革靴がトロルを踏んづけているのでは無く、革靴を履いた巨大な女の子がトロルを踏んづけているんだという事が、実感できた。
 「さすがに死んだかな?」
 次にリーズが足を上げると、彼女の足元には、何だかよくわからない、潰れた塊が転がっていた。これでも生きていたら、それは自然に存在する生物ではない。
 …これは、酷いよ。
 ファフニーも剣で戦う人だから、魔物を斬ったりもするけれど、トロルのように大きな生き物が、こんな風にぐちゃぐちゃになっているのは見た事が無い。お城のような建物が崩れるのにでも巻き込まれないと、普通、こんな風にはならない…
 ほんとに、僕が命がけで戦おうとしたトロルだったんだよね…?これって。改めて、見つめる。
 リーズに踏み潰されたトロルの残骸は、ファフニーの頭に焼きつく。 夢に見そうな光景だ。
 トロルごとき、彼女にとっては、ただの虫けらと大差は無い事がよくわかった。
 「ね?あたし、強いでしょ?」 
 リーズは背中越しに、ファフニーに言った。足元にある、ファフニーを襲おうとした小さな生き物の残骸を見て、満足そうだった。
 「う、うん…」
 言われなくても、そんな事はわかっている。本当の姿になったリーズが、大きくて強い事なんて、もちろんわかっているが…
 最初に会って、自分の体より大きなリーズの革靴を見た時、踏んづけられたら簡単に潰されるだろうって思った。実際、彼女に指でちょっと押し付けられただけで、潰されそうになった事もある。
 でも、リーズに踏みつけらると、どうなるかを実際に見たのは初めてだった。
 こうなっちゃうんだね、リーズに踏んづけられたら…
 このトロルだって、僕から見ると大きい魔物なんだけどな。
 「ねえ、ファフニー?」
 ずしん。
 と、リーズはもう一匹、トロルを踏み潰した。
 「君、約束したよね?
  私の事を護ってくれるって」
 彼女は、ぐりぐりとトロルを踏みにじりながら、優しくファフニーに問いかける。
 「う、うん、約束しました…」
 あ、また、トロルが一匹、あっという間に潰れちゃった…
 ファフニーの常識では考えられない、リーズの戦い方を見て、彼は震えながら答える。彼女は、何が言いたいんだろう?
 リーズは、言葉を続ける。
 「あのね、ちっちゃい君が、一生懸命がんばってくれるの、嬉しいよ。
  でも、あたしも約束したよね?
  君が手に負えないのが居たら、あたしが踏み潰してあげるって…さ?
  ほら、こんな風に…ね」
 ずしん。
 リーズは言いながら、さらに一匹、トロルを踏み潰す。ほんとに、虫けらでも踏み潰すみたいだ。ファフニーは彼女が足を踏み降ろすと起きる地響きに耐えるので精一杯だ。
 ぐりぐり。
 トロルが2度と立ち上がらないように、リーズは丁寧に体重をかけて、地面に擦りつけていく。
 仲間を殺された恨みだろうか?残ったトロル達はリーズの足元に近づいて、棍棒で彼女の革靴を殴ろうとしている。トロルってすごいな。とファフニーは思った。
 「んー、何て言えば、いいのかなー…?
  …ほら、誰でも得意な事とか、苦手な事とか、あるでしょ?
  君にとって命がけにな事でも、あたしがやると、ちょっと踏んづければ終わるって事もあるんだからさ。
  まー、あんまり頑張らないで、あたしに任せちゃえばいいんじゃないかなーって?
  ていうか、こんなのに、君が殺されちゃったら、あたし、その後どうすればいいの?」
 困ったような口調で、リーズはファフニーを見下ろしている。
 「…リーズの言う通りですね」
 そういう風に諭されて、見下ろされると…辛い。
 ファフニーは素直に頷いた。
 何だか、今日はリーズに説教されっぱなしだ。ファフニーは少し恥ずかしかった。
 体はともかく、精神年齢は幼い妹レベルと思っていたリーズだけど、これじゃ、僕の方が子供みたいだ…
 確かに、変な風に、がんばり過ぎてた気がする。リーズの事を護るとか、女の子に助けてもらうのが恥ずかしいとか、変な風に気にしていたんだと思う。
 でも、虫でも踏み潰すみたいに、トロルを倒していくリーズを見ていると、小さな事を気にしてたんだな。と感じた。
 「うー、後で革靴、洗わないと…」
 リーズの心配事は、トロルを踏み潰したおかげで汚れてしまった革靴だ。
 「じゃ、リーズ、任せますね」
 僕が出来る事は僕がやればいいし、リーズが出来る事はリーズがやればいいんだよね…
 ファフニーはリーズを見上げて言った。
 「えへへ。
  わかってくれた?
  じゃ、ファフニーは、そこで休んでてね」
 リーズは言った。
 やっと、ファフニーが自分の事を頼ってくれたので嬉しかった。
 今まで、彼がずっと優しくしてくれて、それはそれで嬉しかったけど、何だか、ファフニーのお人形にでもなったみたいだった。その事が、リーズは少し寂しかった。
 やっと、あたしの事、認めてくれたのかな?と、嬉しい。と、足元のちっちゃなファフニーの事を見る。
 …でもね、ちっちゃいファフニーの方が、どっちかというと、あたしのお人形だと思うんだけどなー?
 少し離れた所で静かに休んで、自分の戦いを見ているファフニーの事を、リーズは考えた。
 …まあ、こんなトロル位、どうとでもなる。ちょっとファフニーと、遊んであげようかな?ファフニーも、ただ休んでるのも退屈だろうし。
 背中越しにファフニーを見て、リーズは思った。
 実際、リーズがトロルを踏み潰す所を、虫けらになったような気分で眺めているファフニーは、退屈どころの話では無かったのだが…
 「ねぇ、ファフニー?
  暇だったら、あたしのお尻でも見てたら?」
 うふふ。と、からかう笑顔を浮かべて、リーズは言った。
 「何を…言ってるんですか?」
 彼女が急に品が無い事を言ったので、ファフニーは思わず聞き返した。
 リーズは何も答えない。
 それから、彼女は身分の高い女性が、ドレスの裾を持ち上げて挨拶をするかのようにローブをさらに捲ると、少しだけファフニーの方にお尻を突き出してみせた。
 「リ、リーズ、はしたないですよ!」
 ファフニーは、急に品の無い事をしたリーズを、たしなめた。でも、目は彼女が強調しているお尻に釘付けになってしまった。
 黒ローブ越しに、リーズのお尻のラインが見えた。
 「ね?可愛いでしょ?あたしのお尻」
 …あ、ファフニー、照れてる。よしよし。
 リーズは満足げに、ファフニーを見下ろした。もうちょっと悪乗りする事にした。
 足元では、トロル達が彼女の革靴を棍棒で叩いていたが、別に何とも無いので、ひとまず無視する。
 膝を曲げて、さらにお尻を後ろに突き出す。それから、両手で腰を押さえて、大きな動きで左右に振ってみた。
 下品な踊りだ。安い酒場で、安い給料の踊り子がやるような、下品で卑猥な動作である。妖精の優雅さというのは、無い。
 それでも、ゆっくりと、リーズのお尻が左右に揺れる。
 ついでに、背中越しに小首を傾げ、見下ろしたファフニーにウィンクしてみた。
 …なんか、あたし、ちょっと頭悪い子みたいじゃない?
 調子に乗って、ファフニーにお尻を振ってみせたリーズは、ちょっと馬鹿みたいだな。と、自分で思った。体の大きさが同じ位の時なら、こんな事、絶対に出来ない。
 …でも、今は、あたしはファフニーの何十倍も大きいんだもんね。小さい生き物には、何を見られても、あまり恥ずかしくないもん。とリーズは思う。
 だから、ちっちゃいファフニーにお尻を見せ付けて、どんな風に反応するのか、遊んでみようと思った。
 そんなリーズの気持ちも知らず、彼女の足元では、トロル達が一生懸命、彼女の革靴を殴っている…
 ファフニーは何にも言えず、品の無い事をしているリーズを見上げている。
 …これ、戦いなの?
 足元で必死に挑んでいるトロルを無視して、リーズは僕をからかって、馬鹿っぽい笑顔を浮かべたりして、お尻を振っている。それで、たまに思い出したみたいに、足元のトロルを踏み潰すんだ。
 ごくり。
 と、唾を飲み込んで、ファフニーの目はリーズのお尻に釘付けになっていた。リーズがふざけて、自分の反応を楽しんでいるのはわかっていても、目が離せなかった。
 彼から見ると、何だか高い所で、大きな物が左右に揺れているという感じでは、あった。丸いラインをした、女の子のお尻が揺れてるんだけど、そんな高い所で、幅が5メートルもあるような、お尻を振られても困る。…可愛いけど。
 僕の事を馬鹿にしてるんだ、リーズは。悔しい気持ちも、あった。
 でも、心臓が高鳴った。
 初めて顔を見た時に、『可愛いな』って思った女の子がそういう卑猥な事をしているのだ。16歳の少年にとっては、反則に等しい行為だった。彼女の大きさは、ともかくとして…
 「そんなお尻、ずるいよ…」
 リーズに聞こえないように、ファフニーは小さな声でつぶやいた。
 彼の心臓は、先程、リーズの革靴の裏に張り付いたトロルの残骸を見た時より、高鳴っていた。頭に焼き付いていたトロルの無残な欠片も、リーズのはしたない姿で上書きされてしまった。夢に見るような頭に焼きつく光景としては、後者の方が、まだマシだろう。そういう意味では、ファフニーは運が良かったのかも知れない。
 リーズの足元では、未だにトロル達が棍棒を振り上げ、リーズの革靴を殴っている。まだ、戦う気力を失っていないトロル達は、本当にすごいな。とファフニーは思った。
 だって、自分達が一生懸命に攻撃している頭の上の方で、相手は攻撃されてるいるのを全然無視して、笑顔でお尻を振ってるんだよ?しかも、それが女の子だ…
 僕がトロルの立場だったら、悔しくて、泣いてるんじゃないかな?僕、結構泣くし…と、ファフニーはトロルに少し同情した。
 少なくとも、リーズの行為は、戦う相手に対する礼儀、相手を尊重する事にうるさい騎士団では、絶対やっちゃいけない行為だ。
 …でも、リーズには関係無いんだね、そういうの。
 彼女を見ていたら、なんだか、剣とか振り回して、真面目に戦うのが馬鹿馬鹿しくなってきた…
 リーズは、そんなファフニーの様子を上から見ている。
 よしよし、ファフニー、あたしの事、じーっと見てるね?
 …じゃ、頭悪い子みたいだけど、もうちょっとだけ。
 「んー、ファフニー?」
 リーズは言った。
 「なんか、気分いいからさ、ローブも脱いであげよっかぁ?
  ね、見たいんでしょ?」
 顔を真っ赤にしているファフニーを勝ち誇ったように見下ろして、リーズは言った。
 「もう!からかわないで下さい!」
 ファフニーは、せめて不機嫌そうに叫んで、そっぽを向いた。
 リーズに体をおもちゃにされるのは、まあ、少しは仕方ないとは思う。
 でも、男の子としての心までおもちゃにされるのは、悔しかった。それでも、頭にはリーズのお尻が焼きついている…
 「えへへ、あたしの勝ちだね!
  そんな事するわけないでしょ?変な子じゃあるまいし。
  …じゃ、いい加減、馬鹿みたいだから、終わらせちゃうね」 
 ファフニーが自分の思うようになったから、リーズは満足した。いくら相手がちっちゃいファフニーでも、そろそろ馬鹿みたいで、恥ずかしい気持ちも出てきた。
 「何が勝ちなんだか、意味がわからないです…」
 小さな声ですねてみたけれど、ファフニーは、何となく負けたような気分だった。
 ずしん。ずしん。ずしん。
 と、三回、地面が揺れた。
 先程までトロルに好きに殴らせていたリーズの革靴が高く舞い、三回、地面に落ち、トロル達を適当に踏み潰したのだ。
 もう、辺りに立っているトロルは居ない。
 …ほんとに、呆気ないな。
 踏み潰されたトロル達が6匹、辺りに転がっている。
 リーズって、10分間あれば、小さな街を一つ位なら壊せるんじゃないのかな?
 僕が思ってるより、リーズって強いのかもしれない。
 まあ、リーズがそんな事するわけないし、竜の魔物と戦ってもらうわけだから、彼女がいくら強くても困る事は無いのだけれども。
 でも、なんだかなー…
 と、ファフニーは、お尻を振ってみせたリーズの事ばかり考えていた。
 何考えてるんだろう、リーズって…?
 妖精の女の子が考える事は、ファフニーにはよくわからなかった。