妖精の指先20
 MTS

※この文章は巨人が小人を様々な手段で弄ぶ表現が含まれています。
 残酷な表現等が含まれますので、18歳未満の方は読まないで下さい。

 20.リーズの指先
 
 リーズとラウミィが妖精の世界に帰ってから、半年が過ぎた。
 ファフニーは、少しだけ出世した。
 きっかけは、リトルビルが死んだ事だった。
 『面倒な事があったら彼に任せろ』
 仲間内でも信頼の厚かった騎士、『百足のリトルビル』と言われた男である。
 だが、相手が彼より何十倍も大きな妖精の女では、さすがの彼にもどうにも出来なかった。
 竜の魔物の討伐に参加した彼は、他の騎士達と同様にラウミィの玩具になり、殺されてしまった。
 …確かに、ラウミィがこっちの世界に、もう顔を出したくないっていうのもわかりますね。
 あれから半年程過ぎたが、それでもラウミィがこの世界…特にファフニーの国…に残した傷跡は、小さくなかった。
 特に、ファフニーの仲間の騎士や騎士見習い達は、かなりの人数がラウミィの討伐に参加した後、彼女の暗い欲望を満足させてこの世から居なくなってしまった。
 …でも、ラウミィも一度はリーズに踏み潰されて報いは受けたんですから、これ以上恨んではいけませんよね。
 彼女は報いを受けたのだから、恨んだり、憎んだりしてはいけないと、ファフニー自身は納得している。
 だが、他の騎士やラウミィに知人を殺された者にとっては、彼女は許しがたい化け物だろう。
 そうした者達が、この国には何万人も居るはずだ。
 神話の時代に、人間を楽しみの為に玩具にして殺して回っていた妖精達が、人間の世界から姿を消す事にしたのは結果的に正しかったのかもしれない。
 こういう事は、時間の流れに解決してもらうしか、無いのかもしれない。
 どんな悪い思い出も、良い思い出も忘れてしまう程、長い時間が過ぎるのをしか…
 …でも、僕が覚えているうちに、帰って来て欲しいな。
 ファフニーは、半年前に友達になった妖精の女の子を思い出す。
 人間の20倍の大きさをした、巨大な少女の姿は今でも鮮明に思い出す事が出来る。
 踏み潰されそうになったり、食べられて殺されそうになったりと、悪い思い出も少なくない。
 でも、良い思い出も同じ位に多かった。
 「100年もしたら、忘れてしまうかもしれませんよ?
  人間は、弱いですから…」
 騎士の詰め所と言うには粗末な小屋で、ファフニーは呟いた。
 きっかけは、リトルビルが死んだ事だった。
 彼の部下で騎士見習いだったファフニーは、後を継いで正式に騎士になったのだ。
 フレッドは裏から色々と手を回して、ファフニーが何事も無かったかのように、元の生活に戻れるようにしてくれた。
 こういう時には、『七人の子供達』という、世界最大の魔道士協会の権力は役に立つものだ。
 リーズとラウミィが去ってから半年後、ファフニーは、そうして騎士としての日々を送っていた。
 今の彼の任務は、辺境の小さな村の治安維持である。
 半年前の事件の時に、ファフニーやリーズがフレッドと出会った村だ。
 フレッドが手を回した結果、その場所がファフニーの任地になっていた。
 城を追い出されて辺境の村へと左遷される形になったわけだが、騎士として出世する気のあまりないファフニーにとっては、悪い話では無かった。
 何より、この村の人はリーズの事を理解してくれている。リーズと一緒に過ごすには最高の場所だ。
 今の騎士の仕事は、それなりに忙しい。
 最近、見た事も無い魔物が、世界中に姿を多く現すようになっているからだ。
 『50メートル程の竜の魔物』
 とは言わないまでも、今まで見た事も無かった巨大な魔物が姿を現す事が増えているのだ。
 最初は、もしかして再び妖精が現れたのではと、ファフニーは不安に思った。
 だが、それらは妖精ほどに大きくは無く、強くも無く、美しくもなかった。
 ただの化け物だった。
 それらの魔物の対処に、ファフニーの国の騎士団は忙しい。
 ラウミィに主力の騎士達を、かなり虐殺されてしまった事も響いている。
 それでも、それは、ファフニーがファフニーとして対処できる範囲での事だった。
 彼は、新しい自分の立場に不満は無い。
 後は肝心のリーズさえ来てくれれば…
 もう、半年も過ぎたのだ。
 そろそろ帰って来て欲しいと、ファフニーは不安に思い始めていた。
 壁にかけてある、マリク製の黒いローブを眺めてみる。
 前に、一度だけ着てみた黒いローブ。それも、確かに自分の姿である。
 でも、やっぱり、自分に魔法使いは似合わないと思う。
 あれから、ファフニーはマリクの力も使った事は無い。
 1人の騎士として静かに暮らしていれば使う必要も無いし、人間には不必要な力だと思えた。
 そうして、その日も、いつものようにリーズの事ばかり考えながら、一日が終わろうとしていた。
 …あれ?
 机の上に置いたティーカップの中に注がれている紅茶の水面に波が立った。
 地面が揺れているのだろうか?
 小さな揺れだ。人間に感じる事が出来ない程度の。
 特に、ファフニーは気にしなかった。
 ドンドン!
 続いて、詰め所の入り口がノックされる音を聞いた。
 随分、荒っぽい音だ。
 何か急ぎの用事だろうか?しかし、それにしては声がしない。
 「誰ですか?」
 言いながら、ファフニーはドアの方まで歩いた。
 少し、普通じゃない雰囲気を感じる。
 用心の為に、剣に手をかけながらドアを開いた。
 彼の勘は間違っていなかった。
 だが、それは、彼の剣など何の役にも立たない状況だった。
 「ただいま!」
 外には、女の子が1人居た。
 聞き覚えのある声。
 「…遅かったですね」
 ファフニーは、目に涙が浮かんでしまう。
 ドアの外から、見覚えのある顔…いや、目が中を覗き込んでいた。
 彼女は顔を横にして、ドアを覗き込んでいる。
 その目の大きさが、ドアと同じ位あった。
 目の大きさから推定すると、身長は30メートル程になるだろうか?
 外に居るのは、この世界に存在するはずも無い、巨人の女の子だ。
 体の大きさに似合わない黒いローブを着ていて、魔法使いのようにも見える。
 ファフニーは握っていた剣を収めた。
 外に居る巨人の女の子に、小さな人間の剣など通用しない。
 でも、そもそも剣など必要無い。
 言葉も無く、ドアの間から、女の子の指が入ってきた。
 ファフニーは、ドアに近づきすぎた事を後悔した。あっという間に、自分の身長ほどもある指に摘み上げられる。
 「もう、大変だったよ…
  みんなに怒られちゃったの!」
 ドアの外に跪くようにして座り込んでいるリーズは、当然の事のようにファフニーを摘み上げると、この半年の出来事を話した。
 妖精の世界に帰った彼女は、とにかく、仲間達に怒られっぱなしだったという。
 ワガママを言って人間の世界に残った事、ラウミィの羽根をむしり取ってしまった事、無茶な力の使い方をして死にかけている事。
 怒られるテーマは、幾らでもあった。
 「でもね、王様に見てもらったらね、あたし、まだしばらくは大丈夫だって言われたよ!」
 やっとファフニーに会えたから、リーズは嬉しそうだ。
 「100年位なら、まだ大丈夫みたい。
  えへへ、ファフニーと、どっちが長生き出来るかな?」
 多分、同じ位だろう。ファフニーと同じだけ生きられるなら、リーズは満足だ。
 そうして、ファフニーを摘み上げて一方的に話をしたリーズは、そのまま村の外へと歩き出す。
 地元の村人を踏んづけたりしないように、注意しながら歩く。
 「ラウミィは、一緒じゃないんですか?」
 ファフニーは、もう1人の妖精の事を尋ねる。
 「うん、羽根が治るまでは、誰にも会いたくないって言ってたよ。
  まあ、気持ちはわかるけど…」
 妖精にとって、背中に広げる羽根がとても大事な物である事はファフニーも聞いている。
 「どれ位かかるんでしょう?」
 「羽根を取られた妖精なんて居ないから、わかんないよ…」
 少しリーズは寂しそうだ。
 だが、今はそれ所ではない。
 「ファフニー…やっぱりちっちゃいね」
 リーズは、ファフニーを顔の前まで持ってきて、じーっと観察する。
 今は、目の前に居るファフニーの事で頭がいっぱいだ。
 「そんなに、じろじろ見ないで下さいよ」
 ファフニーは、彼女の大きな瞳で見つめられると少し恥ずかしい。
 「んー、いいじゃない、別に。
  …うふふ、食べたりしないから大丈夫よ?」
 言いながら口を開けて、ファフニーの顔に舌を伸ばした。
 我慢できず、一度だけ、舌の先で彼の顔を舐めた。
 「こ、こら、まだ村の中だし、人が見てますし…」
 耐え難い快感に抵抗しながら、ファフニーは言った。
 人間を魅了する、妖精の舌の力は、人間を狂わせてしまう。
 「あー、ファフニー、忘れてるね?
  そういう風に言われると、あたしがどういう風に思うのか」
 だめだと言われると、余計にやりたくなってしまう。それが子供だ。
 色々辛い事や楽しい事を経験したリーズだが、まだまだ幼さを残している。
 彼女は摘み上げたファフニーを、今度は服越しに舐め回した。
 村の外へは、後数歩だろうか?
 リーズは周りの目を気にしていない。
 「こ、この…」
 人を馬鹿にした笑顔と共に近づいてくる舌に、ファフニーは抵抗しようとする。
 小さな生き物の無駄な抵抗を前にして、ますます、リーズが嬉しそうな顔をした。
 「えへへ、久しぶりに力比べしてみる?」
 ファフニーの胴回り程の太さがある指を、彼に押し付けた。
 結果は最初からわかっている。
 でも、ファフニーは彼女の指に抱きつくように手を回して、その指を振り払おうとしてみた。
 びくともしない。
 「ファフニー、真面目にやってるの?
  そんな弱かったっけ??」
 もうちょっと抵抗してくれないと、リーズはつまらない。
 ぐりぐりと、指を彼に押し付けた。
 「や、やめて下さい…」
 悲鳴と共に、命の危険を本能的に感じたファフニーの抵抗が強くなった。
 …うんうん。こうでないとね。
 久しぶりに玩具にする、ファフニー。そして、その中に残っているマリク…
 手のひらにある小さな生き物の感触を、リーズは楽しんだ。
 …そういえば、こういう子だったっけか。
 久しぶりに、ファフニーはリーズの性癖を実感した。こんな風に人形遊びの玩具にされる姿を、人には見られたくない…
 リーズの指先は、いつまでもファフニーを弄び続けた。
 でも、彼女の指先は、決して彼の事を潰したりはしない。
 いつまでも、いつまでも、リーズはファフニーと一緒に遊ぶ。
 彼を逃がす事も無く、潰してしまう事も無く…
 村の外へ出て、しばらく歩くと、もう誰も居なかった。
 騎士見習いから騎士になった少年と、妖精の世界から帰ってきた女の子は2人きりになる。
 2人の邪魔をするものは、何も無かった。
 ファフニーとリーズは、しばらく2人の世界に浸った。
 リーズにとっては、ずっと待ち望んでいた事。ファフニーにとっては、それなりに覚悟していた事である。
 いつまでも、いつまでも、リーズの指が、手のひらに乗せたファフニーを玩具にする。
 どんなに力を入れても全く動じないリーズの指に、ファフニーは懐かしさと悔しさ、嬉しさや寂しさ等、色々な事を感じた。
 やがて遊び疲れた時、リーズは手のひらの上でぐったりしている小さな生き物に言った。
 「ねえ、今度、フレッドに会いに行こうよ!」
 ファフニーは、ぐったりしているが、リーズは元気だ。
 「そうですね…」
 リーズの手のひらに身を任せて、ファフニーは寝転んでいる。
 フレッドに会いに行く事を断る理由は、もちろん彼には無い。
 リーズが帰ってきた事を、真っ先に伝えなくてはならない人物だ。
 2人にとって、大事な友達である。
 もちろん、この時点では、ファフニーもリーズも、思いもしなかった。
 最近、この世界に姿を現すようになった見知らぬ魔物達。
 その件に巻き込まれたフレッドが、ファフニーとリーズが訪ねて行った時には、この世界から永遠に居なくなっている事を…
 だが、それは、また別の話だ。
 「…じゃ、一休みしたし、もうちょっと遊ぼうね?」
 「え…まだ終わらないんですか?」
 自分を見下ろすリーズの笑顔が、ファフニーは少し怖かった。
 「えへへ、だめだよ?
  ファフニー、好きなだけ玩具にしていいって、言ってたじゃない」
 言ったような、言わなかったような…
 再び自分に伸びてくる巨大な指に、今度は何をされるのだろうかと、ファフニーは、ため息をついた。
 

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( ̄_ ̄)ノあ( ̄_ ̄)ノと( ̄_ ̄)ノが( ̄_ ̄)ノき

 というわけで、妖精の指先は、ひとまず終了です。
 完成度という点では、それ程高くない作品でした。細かな文章表現、誤字脱字等、かなり修正点は多いなーと思っています。チェックしてませんが、文節の番号も、多分どこかで間違っているでしょう。最後が18という事は、無いと思うのです…
 まあ、それでも、最後まで読んでくれた方、おつかれ様です。
 思えば、無駄に長編になってしまいました。
 妖精の指先は、最初は軽いサイズフェチ話を書こうかと思っていたのですが、途中から脳内のスイッチが切り替わって何でもあり状態になってしまいました。
 掲示板にレスをしてくれる人の層が、段々変わってるのを感じて、ちょっと面白かったです。
 一話目を書いた時点では、フレッドやラウミィの事は何も考えていなかったのですが、気づけば、あの2人無しでは指先は成り立たなくなりました。
 特にフレッドは、4話目を書いた時点では、過去の話でマリクの弟としてチョイ役で出る事しか考えていなかったのですが、不思議なものです。
 今後は、もうちょっと完成度を高めた話を公開していきたいなーと思っています。
 ともかく、お付き合い下さって、ありがとうございました。

 ( ̄_ ̄)ノ では、妖精の指先〜第二部〜(仮名)でお会いしましょう?


 最後になりますが、アプロダの管理人さん、場所を貸していただいてありがとうございました。
 作品を置いておくのに、とても良い場所でした。感謝しています。
 では…