妖精の指先15
WEST(MTS)作
※この文章は巨人が小人を様々な手段で弄ぶ表現が含まれています。
残酷な表現等が含まれますので、18歳未満の方は読まないで下さい。
15.リーズと空
世界を裏で牛耳ると言われる魔道士協会『七人の子供達』。
その創設者達の血を引き、幹部の一人であるフレッド。
世界に中心があるとすれば、間違いなく、その近くに居る男である。
彼は、横に居る少年に尋ねた。
「ファフニー…君に任せて良いか?」
希代の魔道士は、隣に居る少年の力を借りたかった。
近所の国の、一山幾らの見習い騎士の力を必要だと思った。
だが、ファフニーは首を振った。
「嫌ですよ…
あなたは先祖代々、リーズのファンなのでしょう?
自分で言えばいいじゃないですか」
フレッドの申し出を、しかしファフニーは拒否した。
「い、いや、今、世界で一番彼女と親しいのは君だろう。
だから君が聞くべきだ」
フレッドはファフニーに食い下がる。
2人とも、リーズに言いにくい事があった。
「だから、嫌ですって…」
ファフニーとフレッドは、ひそひそと、お互いに厄介ごとを押し付けようとしている。
そこは、人間サイズで考えれば、やや広めのテーブルだった。
ファフニーとフレッド、リーズの三人は席についていた。
男たち2人が並んでいて、リーズの席がテーブルを挟んで向かいにある。
「ねー、何、ひそひそ話してるの?
あたしの悪口でも言ってるんでしょ!」
男たちがこそこそと話しているので、リーズは面白くなかった。いつもの黒いローブに身を包んで、怒った顔を男達に見せる。
当たらずとも、遠からずである。
「い、いや、そんな事は無いぞ」
フレッドは、あわてて否定した。
「ふーん…」
リーズは不満そうな様子で彼を見つめる。
ファフニーを連れて、村に帰ってきた日の夜である。
3人は、テーブルに食事が並ぶのを待っていた。
フレッドから事情を聞いた村の人たちが食事を用意してくれるというので、3人は待っている所だった。
「さっき、君の事を助けてやった借りがあるだろう…借りを返そうとは思わないのか?」
「僕はリーズに助けてもらったんです…」
男たちのひそひそ話は続く。
「じゃあ、尚更、リーズの為に聞いておくんだ。
これで、また変な揉め事が起こって、村人と問題が起きたらどうする…」
「そ、それは…
そうですね、わかりました」
フレッドは賢い男である。
『リーズの為』
ファフニーが弱いキーワードを、彼と会ってから数時間のうちに見抜いていた。
「ちょっとぉ!
いい加減にしてよぉ!」
仲間外れにされたリーズが、テーブルを叩いて怒る。
ずーっと一人だけ仲間外れにされていたので、怒りたくもなるだろう。
「ご、ごめんなさい」
反射的にファフニーが謝った。
「ねー、何を話してたのよ?」
リーズが詰め寄る。
「いえ、リーズって、どれ位食べるのかなーって、話してました」
ファフニーは素直に答えた。
彼やフレッドより一回り小さな女の子が食べる量なら、別に疑問には思わない。聞く意味は無い。
だが、身長が30メートル程ある巨人の女の子の食事量というのは、どれ位になるだろうか?
リーズは古代妖精だから、本来の姿は、それ位の大きさになる。
「んー、1000年位、何も食べてなかったしね。
お腹空いたから、いっぱい食べるよ?」
「いえ、ですから…」
具体的な事を、ファフニーやフレッドは聞きたかった。
それに、食べるだけ食べたら、その後で出すものも出すのではないだろうか?
それが、どういう量になるのやら…
ファフニーやフレッドは、妖精の体の構造がわからなかった。
食べないなら食べないでも、リーズは1000年生きていたのだ。
何やら特殊な方法で、食べないでもエネルギーを集める事が妖精は出来るらしい。
そんな妖精達の食事や排泄行為については謎だった。
かつて、神話の時代、当時のフレッドもそういう話をした事が無かったから、長年の謎のままだったのだ。
今の世界でも、ファフニーやフレッドは、そういう話を女の子に尋ねるには、純朴すぎた。
どうも、リーズの周りには、そういう男ばかり集まるようだ。
食事や排泄の事で、村人との間につまらない揉め事が起こりはしないか、2人は心配だった。
「あ、大丈夫だよ?間違えて人を食べたりしないから。
あと、村中食べたりとか、そんなにいっぱい食べたりもしないよ。
大丈夫!幾らお腹が空いてても、そんなに食べないってば!」
ファフニーやフレッドの心配を、リーズは半分位、理解した。
どちらかというと、2人の心配は食べる事よりも、その後の出す事の方だったのだが…
「そ、それなら良いですけど…」
ファフニーは言葉を濁す。
女の子にトイレの量や内容を聞いた事など無いし、多分、一生聞く事なんて無いと思っていたけれど、どうしよう…
まさか、こんな事で悩む事になるとは、ファフニーは思っていなかった。
やがて、料理が運ばれてくる。
すると、ファフニーは、そちらに目を奪われてしまった。
焼きたてのパン。
調理した肉と野菜。
村の外れで取れた野生の果物。
街のレストランで出る、最高級の料理には及ばないが、手作りの料理が並べられた。
ファフニーもリーズも、言葉を無くして料理に目が行ってしまう。
フレッドはともかく、2人は空腹だった。
だが、ファフニーは手を付けない。
リーズの事が気になる。
…本当に、リーズは食べられるのかな?
いくら、お腹が空いていても、彼女が手を付ける前に、先に料理を食べる気にはなれなかった。
フレッドもリーズを見ている。2人の男の視線をリーズは感じる。
「…美味しそうだね」
青ざめた顔で、リーズは言った。
人間程じゃないけど。という言葉は飲み込んでおく。
…あーあ、やっぱり辛いな。
食べるという事を考えると、手のひらに汗が滲んできてしまった。背筋が寒い。
「無理しなくても、いいですよ…」
見かねて、ファフニーが言った。
「んーん、食べるよ…お腹空いたし…」
リーズは、ファフニーに声をかけてもらうと、少し楽になった。
お腹が空いている事は間違いなかった。
でも、どうしても一部の料理だけは、体が受け付けそうになかった。
「これって…小さな生き物を切ったり焼いたりした物なんでしょ?
これだけは…ちょっと無理かな」
肉料理だけは、それを見る目が青ざめていた。
「動物は、やっぱり抵抗ありますか?」
「うん…
2人には悪いけど、人間とおんなじに見えるな…
どっちも、おんなじ、ちっちゃな生き物だよ、悪いけど…」
さすがに言いづらくて、ファフニーから目を逸らした。
なるほど…
リーズの言っている事は、ファフニーにもフレッドにも理解できた。
妖精に限った話ではない。
人間だって、自分達より小さな一部の動物を、食料として扱うのは同じだ。
リーズ達にとっては、人間も動物も、自分達より小さな食料という意味では大差が無いという事だ。
それ程、難しい話では無い。
「単なる好き嫌いの問題だろう?気にするな…
食べたくなければ食べなければいい。それだけの話だ」
2人が暗い雰囲気になっていたので、フレッドが言った。
「そうですよ、僕もタマネギ嫌いだし」
「タマネギって、どれ?」
ファフニーの言葉に、リーズが首を傾げる。聞いた事の無い単語だ。1000年前には無かった食べ物だ。
これです。と、肉料理の付け合せに炒められたタマネギを、ファフニーがフォークで示した。
「ふーん…」
リーズは興味深そうに眺めた。
フォークを突き立てて、口元に運んでみた。
ごく自然に、それが行われた。
少し舐めてみた後、口の中に入れて歯を立てる。
炒められて柔らかくなったタマネギの甘さと、味付けの塩分を含んだソースの味が口の中に広がる。
噛み砕いた。
食べた。
リーズが食事を取る様子を、ファフニーとフレッドはじーっと見つめていた。
「そんなに見ないでよ…
君達も食べて欲しいの?」
あんまり男達に見つめられると、リーズは恥ずかしかった。
でも、お腹が空いていたから、食べた。
1000年ほど食事をしていないリーズは、やはりお腹が空いていた。
リーズが食べ始めたので、ファフニーも安心して、食べる気になった。
彼もラウミィに監禁されている間、ろくに食事を取らせてもらえなかったので、目の前の手作り料理の山は魅力的だった。
テーブルの上の料理が、どんどん消えていった。
しばらくして、リーズが言った。
「ごちそうさまでした!
…て、食べ終わったら言うんだよね」
ナイフやフォークをテーブルに置いた。
満足そうだ。
だが、ファフニーやフレッドには疑問だった。
「あれ?もう食べないんですか?」
ファフニーは、まだ食べながらリーズに言った。
リーズが食べた量は、特筆する事が無い位に普通の人間の食事量だった。
「食べられないよ、そんなに…」
リーズが苦しそうにしている。
今の彼女の体や、お腹の大きさからすれば、不思議な量では無いが。
「そんなので、大きくなった時に、お腹空きませんか?」
リーズの本当の大きさを考えると、おやつとも言えない少量に思えた。
「…あ、大きくなってご飯食べた方が良いのかな?」
リーズが、首を傾げている。
確かに、食べるなら、元の姿に戻って食べた方が良い様な気もする…
ファフニーも、一緒に首を傾げる。
「…ねぇ、まだ食べる物、残ってる?」
「山ほどあるぞ」
恥ずかしそうに尋ねるリーズに、フレッドが苦笑した。
何十人かの人間が宴会をやるような量の食事が、リーズのために用意されていた。
まだまだ、料理は残っている。
「…じゃ、大きくなって、全部食べちゃってもいいかな?
ちょっとご飯食べたら、元気出てきちゃった」
先ほどまで、死にかけていた妖精の女の子は、少し食べただけで元気を取り戻しつつあるようだ。
「ああ、もちろんだ」
断る理由は無い。リーズの為に用意した料理だ。
3人は外に出る。
お手伝いの村人の皆さんが、料理を外に運んでくれた。
「あ…別に、盛り付けとかしなくていいよ?
でも、お肉だけ別にしといてくれると、嬉しいな…」
丁寧に食事を盛り付けようとしてくれる村人の皆さんに、リーズは声をかけた。
そんなの、いちいち必要無い。ただ、肉だけは除いておいて欲しかった。
言われるままに、お手伝いの村人の皆さんは動いてくれた。
気のいい人たちである。
一週間ほど前、フレッドに連れられて村に転がり込んでから、リーズは村人達にとても世話になっていた。
フレッドの取り成しもあったのだろうが、村人達は素直に彼女に同情してくれた。
今日も、フレッドに事情を聞いて、お手伝いの村人の皆さんが集まっている。
そんな彼や彼女らも、これから繰り広げられるであろう光景には、興味に加えて少しの恐怖があった。
黒いローブを着た小さな女の子が巨大化して、料理を一気に食べるらしい。
そんなの、滅多に見られるものじゃない。
野次馬も集まってきた。
…あれ?何か人が増えてきたような?
リーズは、あまり気にしない。
「じゃあ、大きくなるねー」
と、無邪気に言った。
薄い光が辺りを包んだ。
「あ、やっぱり、大きくなって正解かも」
女の声は上の方からした。
「お腹空いたなー…やっぱり」
リーズは自分を見上げている、小さな生き物の群れに恥ずかしそうに微笑んだ。
「さ、好きなだけ食べていいですよ?」
元の大きさに戻ったリーズを見上げて、ファフニーは言った。
「うん!」
舌なめずりをしながら、リーズは頷いた。
村人達は、巨人の女の子を見上げている。
大きくなるとわかっていたのだが、こうしてみると確かに巨人だ。自分達を簡単に踏み潰せる、その大きさを目の当たりにして、少し逃げ腰になってしまう。
彼女の食べる対象に、自分達が入っているような錯覚を感じてしまった
リーズが屈み込む。空から巨大な手が降りてくるのを、小さな人間達は見た。
その巨大な手は、料理の山を皿ごと摘み上げて、口元で傾けて一気に口に放り込んだ。
何十人かの人間が食べる量が、一瞬で口の中に消えた。
それから、スープが入った鍋をそのまま摘むと、それも一気に飲み干した。
パンも皿ごと持ち上げて、何十個もまとめて食べてしまう。
こんな食べ方があるだろうか?
リーズにとっては、小さな皿や入れ物を摘み上げて食べているだけだが、足元で見ている小さな生き物達は巨人の食事に圧倒された。
空から振ってくる手が、次々に料理を大きな器ごと摘んで、食べてしまう。
その手が自分の方に伸びてくるのではないだろうか?
どうしても、そう考えてしまう。
自分達は、おやつに丁度良い大きさではないか。
ファフニーやフレッドでも、少し怖くなってしまった。
そして、それは現実の物となってしまった。
あっという間に料理を食べつくしたリーズの手は、足元でぼーっと見上げていたファフニーに伸びてきた。
「こ、こら、やめて下さい!」
抗議の声も虚しく、おやつのお菓子でも摘むかのように、ファフニーはリーズに摘み上げられた。
「ねぇ、まだ食べたりないよぉ。
ファフニーも食べていい?」
ファフニーを口元に運んで、にっこり微笑んで舌なめずりをした。
彼が美味しいそうに見えるのは、本当の事だ。
「だ、だめですよ、今は!
村人の皆さんも見てますよ!」
リーズがふざけているのは、わかる。
だが、村人の皆さんが大勢見ているときに、この悪ふざけは冗談じゃ済まない。
ファフニーは本気でリーズに抗議した。
足元では、村人の皆さんが青ざめた顔をしている。ちょっと、引いている。
「あ、そ、そうだよね」
そういえば、2人きりじゃないんだ、今は。
時と場合が悪すぎる…
さすがにのリーズも、人目を気にして悪ふざけをやめ、あわてて彼を地面に降ろした。
「え、えへへ、冗談ですからね?
人間を食べたりしませんからね、本当に」
笑って誤魔化そうとした。
ファフニーとフレッドが必死にフォローしてくれたので、一応、冗談で済んだようだ…
そうして何十人分かの料理を食べたリーズは満足して、小さな姿に戻った。
そんな風に、夕食の時間は過ぎていった。
夕食の後、村人の皆さんは後片付けもしてくれた。ファフニーも何となく後片付けを手伝う。
ファフニーが居ない隙に、リーズがこっそりフレッドに尋ねた。
「ねー、フレッド、ちょっと、ファフニーに内緒で頼みたい事があるんだけど…」
ひそひそと、無茶な頼み事をフレッドに伝えた。
話を聞き終えたフレッドは苦笑いをしたが、
「まあ…何とかしよう」
彼女のお願いを、断れなかった。
それから、ファフニーは家を出た。
フレッドは彼のために、空き家を一軒用意した。
今日の所は、一人でゆっくり寝たいだろうという、フレッドの心遣いだった。
一週間、ラウミィに捕らわれて辛い監禁生活を強いられていたファフニーは、確かに一人でゆっくりしたいという気持ちがあった。
リーズとフレッドに送られて、ファフニーは村外れの空き家に案内される。
少し古いが、しっかりとした木の建物のようだ。
「じゃ、明日の朝、起こしに来るね!」
別れ際にリーズはファフニーの手をしっかりと握って、微笑んだ。
…あれ?
その笑顔に、ファフニーは少しだけ違和感を覚えた。
だが、あまり気にせず、空き家に入った。
今は空き家だが、畑を荒らす動物や盗賊が多い時期には、たまに、見張りの者が寝泊りする為に使われる小屋である。
4メートル四方程の、小さな家だ。台所と寝室がかろうじて別れているだけで、あまり長く住む気にはなれない家だったが、一夜の宿としては十分だった。
静かに、ゆっくりと休む事は出来る。
薄暗いランプに照らされた部屋で一人になると、ファフニーは、すぐに眠くなってきた。熱い湯で体を拭いてから、寝室へと行った。
柔らかそうな布団が乗ったベッドがある。小さな窓にはカーテンがかけられていた。
体を拭いて、服を着て、こうしてベッド眠るのは随分久しぶりな気がした。
心地良い。
このまま、安心して眠って良いのだ。
家ごと踏み潰される心配も無い。
朝になっても、ラウミィの恐ろしい笑顔が起こしに来るわけでも無いのだ。
…明日は、リーズと色々話そう。
ファフニーは目を閉じる。
リーズと話したい事、話さなければならない事は沢山あった。
色々な事が頭に浮かび、やがて、彼は眠りについた。
安らかな眠り。
誰にも妨げられず、朝まで続く。
日が昇ると、カーテンの隙間から朝日が差し込んできた。
優しい光でファフニーは目を覚ました。
でも、布団から出る気にならなかった。
頭がぼーっとする。疲れが残っているせいか、何となく寝覚めが良くない。
今日は、リーズが起こしに来てくれるって言っていた。
このまま、彼女が来てくれるまで寝ていようかな。
ファフニーはベッドから出ない。
優しく起こしに来てくれる黒ローブの女の子の姿…
想像すると、ドキドキしてしまう。
布団の中で目を閉じて待った。
やがて、彼女の足音が聞こえた。
ずしーん。
何か大きな物が、小屋の近くにでも落下してきたような音だ。
カラカラと、振動で窓ガラスが揺れる音がした。
…ちょっと待ってよ。
ファフニーは、思わず布団に潜り込んだ。
起こしに来るって言ってたけど…朝からコレなの?
これじゃ、ラウミィと一緒だよ…
ファフニーは、ため息をついた。
リーズらしいと言えば、リーズらしいけど…
窓の外が暗くなった気がした。
何か大きな影が、窓を覆っている。
カーテンを通過してくる光の量が、明らかに減っている。
「ファフニー!
朝だよ!」
リーズの声がした。
カラカラ。
人間のとは思えない大声にガラス窓が揺れていた。
耳がキーンとする。目覚ましにしても、大声過ぎる。
…そういえば、昨日の夜のリーズの笑い方って、僕で遊ぶ時の遊び方を考えてる時の笑い方だったね。
ファフニーは思い出して、ため息をついた。
着替えるから、ちょっと待ってて下さいね。
と、ファフニーは返事をしようとした。
だが…
「さ!
行くよ!」
ガシャーン!
窓ガラスが叩き割られる音がした。
カーテンを通り越して、丸太のように太くて長い物が部屋に入ってきた。
リーズの人差し指だ。
指で突いて、窓ガラスを突き破ったようだ。
「…あれ、手が入らないや。
ちっちゃな窓だなぁ」
手のひらを部屋の中まで入れようとしているようだが、彼女の手は窓枠に比べて太いので、引っかかってしまっているようだ。
仕方ないから、指先だけを伸ばして部屋に入れる。
「ねー、どこー?」
リーズが困ったように言いながら、指先を部屋中に這い回らせる。
ファフニーにとっては幸いな事に、ベッドが窓から離れた所にあったから、指が届かないようだ。
多分、リーズはファフニーの事を捕まえて、引きずり出すつもりなんだろう。
…もし、窓のすぐ前にベッドがあったら、どうするつもりだったんだろう、この子は?
窓ガラスを突き破ってくる勢いで、ガラスの破片ごと、そのまま彼女の指に押されてたりしたら…
ちょっと、冗談じゃ済まない気がした。
やっている事が、ラウミィより悪質な気もする。
リーズの無邪気な荒っぽさに、ファフニーは少し腹が立った。
そんなに僕に遊んで欲しいなら…たまには徹底的に付き合ってあげようかな?
ファフニーは枕元に置いてあった剣に手を伸ばした。
枕もとの剣は、騎士のたしなみである。
それなりの魔法の剣だった。
ラウミィにさらわれた時に落としてしまったものを、リーズとフレッドが回収しておいてくれたのだ。
…ふふ、リーズが大きいのも、逆に面白い時があるよね。
部屋の中で、自分の事を探して、おろおろと、さ迷っている人差し指。
まるで、大蛇か何かのようだ。
僕の事なんか、簡単に捻り潰せる、ずるくて大きな指だ。
…でも、僕にはリーズの指が見えるけど、リーズは僕の事が見えないんだよね。
どんなに大きくて強くても、リーズの指は、僕の居場所がわからない。
ファフニーは、タイミングを計って、彼女の指が部屋の反対に向かって動いている隙を狙った。
思いっきり剣を振りかぶって、彼女の人差し指に振り下ろした。
分厚くて弾力がある肉の塊。
彼の剣は、傷一つ付けられずに、弾かれた。
「きゃ!今、何かしたでしょ!」
びっくりしたように、リーズの指が動きを止めて、一瞬跳ね上がった。
痛くは無いが、剣が触れた事は、わかる。
「全く、いつもいつも…
せっかく、久しぶりだっていうのに、僕も怒りますよ。
捕まえられるもんなら、捕まえてみて下さい!」
可愛らしく悲鳴を上げるリーズに、ファフニーは言った。
大きくなったリーズで遊べるチャンスなんて、滅多にあるもんじゃない。
「ふーん…
あはは、面白いね!
いいよ。捕まえちゃうから!」
予想外のファフニーの反応。
それは、リーズを楽しませた。
彼女は手探りでファフニーを捕まえてしまおうと、部屋の中に差し込んだ人差し指を這わす。
だが、この遊びはファフニーの方が有利だった。
リーズはファフニーの事が見えない上に、人差し指だけでは部屋の隅々まで届かなかったからだ。
ファフニーは安全な部屋の隅で様子を伺って、一瞬の隙に飛び出して、リーズの指に思いっきり斬りつける。斬りつけたら、また戻る。
それを繰り返す。
彼が飛び出してくる気配はリーズの耳に届いたが、彼の俊敏な動きについていけなかった。
…ふふん、どうせ僕が何をやっても無駄だから、どんなに本気で斬ってもいいわけですよね。
思いっきり、何度もリーズの指を斬りつけた。
何度も、何度も。
いつも玩具にされている不満を、全てぶつける。
ちょっと快感だ。
こんな遊びは、相手がリーズじゃないと出来ない。
普通の女の子にこんな事をしたら、殺人犯になってしまう。
自分の剣など全く寄せ付けないリーズの指が、今は楽しかった。
リーズはファフニーの遊びで、何回も指を小さな力で小突かれた。
別に痛くは無いが、チクチクと繰り返されると、段々と腹が立ってくる。
「もー、ずるいよファフニー!
部屋の隅っこに隠れてるんでしょう!」
部屋の隅まで手が届かない事にはリーズも気づいていたから、ファフニーに文句を言った。
イライラと、部屋の床を指で叩く。床に穴が開きそうだ。
「ふふん、知りませんね?
何の事ですか?」
リーズの指が届かない、部屋の隅っこの方で、ファフニーは笑いを堪えられない。
どんなに大きくて強いリーズの指を、僕を捕まえる事は出来ない。
今は、リーズが僕を玩具にするんじゃなくて、僕がリーズを玩具にしているんだ。
…ふふ、いつも玩具にされるばっかりじゃないですよ、僕だって。
リーズを翻弄している事が、ファフニーは楽しかった。
こんな大きな女の子を玩具にして弄ぶなんて、初めての経験かもしれない。
「うー…どこよぉ!」
リーズの悔しそうな声。
それが、心地良い。
なるほど。
強い相手を玩具にして遊ぶのって、結構楽しいな…
ファフニーは、リーズの気持ちが少しわかった気がした。リーズも、確か『ファフニーが強いから玩具にしたい』って、言っていた。
それから、部屋の中を探っていたリーズの人差し指が、窓の方まで戻った。
窓から生えた彼女の指が、壁に絡み付く。
あれ、何をするつもりなんだろう?
諦めたわけでは、なさそうだ。
近づかないようにして、ファフニーは様子を伺う。
少し、彼女の指が震えている。力を入れているようだ。
みしみし。
壁が揺れるような音をファフニーは聞いた。
「ちょ、ちょっと何してるんですか?
ここは人の家ですよ!」
調子に乗って忘れていたが、ここは村人の家だ。
そもそも、窓ガラスを叩き割った時点で、かなり問題だ。
だが、リーズは構わずに壁を触る指に力を入れる。どうやら、中と外から指で挟んでいるようだ。
「えへへ、そもそも、壁が邪魔だよね?」
可愛らしい声。
バキバキ。
嫌な音と共に、窓枠の所から、壁が割れた。
紙でもちぎるかのように、家の壁がリーズの指で引き裂かれる。
「うふふ、見つけたよ?」
引き裂かれた壁の向こうに、笑顔が見えた。
顔の全部が見えない。
微笑む目線と、その周りだけが見えた。
「えへへ、これなら、奥まで手が届いちゃうよ?」
壁を引き裂いて広くしたから、手も入るようになった。
…どうせなら、壁を一面、全部剥がしちゃった方が早いかな?
再び、壁を指で摘むリーズ。
これは…不味い。
ファフニーは、あわてて寝室を出て、玄関に繋がる台所の方へと逃げ出した。
「あー!逃げるのはずるいよ!
それ、ルール違反だよ?」
「壁を壊しちゃう方がルール違反です!」
部屋を挟んで言い争う2人。
隣の部屋に逃げ込む事が、壁を摘んで引き裂くような巨人の女の子を相手に意味があるとも思えないが、ファフニーも意地になっていた。
「ふん、知らないよ?
逃げる方がルール違反だもん。
さっさと出てきた方がいいよ?」
リーズが小馬鹿にするように言った。
自分が有利になった事がわかる。
なんだかんだ言っても、その気になれば、強いのは自分の方だ。
こんな、自分の足のサイズと同じ位の小さな小屋は、それこそ玩具のようなものである。
そう考えると余裕が出てきた。
ファフニーは狭い台所に逃げてきたものの、特に良い考えは無かった。
みしみし。
また、壁がきしむ嫌な音がした。
どうしよう、また壁が壊されちゃう…
こんな無茶苦茶に壁を壊されたら、そのうち、家ごと崩れちゃうんじゃないだろうか?
限度を考えないリーズの事が怖くなってきた。
だが、壁が壊される事は無かった。
みしみし。
変わりに、建物全体が嫌な音を立てた。
パラパラ。
天井から、何か粉のような物が振ってきた。
見上げてみる。
天井が歪んでいるのが、一目見てわかった。歪んだ拍子に、天井が一部、崩れている。
よく見ると、小屋全体が縦方向に歪んでいるようだ。
建物が、上から強い力を加えられているのである。
多分、重い物が建物の上に載っている。
「ほら、ファフニーちゃん?
いつまでそこに隠れてるの?
出てきた方が良いと思うけどなー、あたし」
自分が何をしているのか、リーズは言わない。
甘ったるい、猫撫で声でファフニーに言った。
相手を追い詰めると、そういう声になってしまう。
その方が効果的であると、昔、仲の良かった魔法使いのお姉さんに教えてもらったからだ。
…リーズめ、足で小屋の屋根を踏んづけてるのかな?
ファフニーは、怖くなってきた。
さっきまでの、ちょっとした優越感は吹き飛んでしまった。
よく考えてみれば、リーズが本気になったら、こんな小屋なんて紙で出来た人形の家みたいなものなのだ…
「わかりましたよ。出て行けば良いんでしょ…」
間違えて家ごと潰されては、たまらない…
渋々、ファフニーは寝室のドアに手をかけた。
ここを開けたら、どうなるんだろう…
ため息をついた。
僕はリーズを玩具にしたんだ。
きっと、いっぱい仕返しをされるんだろうな。
段々、怖くなってきた。
…まあ、殺される事は無いですよね。リーズが間違えなきゃ。
あくまで遊んでるだけですよね。と、自分を慰めようとする。
ファフニーはドアを開けた。
「うわ!」
思わず、悲鳴を上げた。
壁からリーズの顔…らしきものが覗いていた。
一瞬、よくわからなかった。
形がおかしい。
口、鼻、目…
その順番で、上から並んでいる。
上下が逆さまだ。
壁から覗くリーズの顔は、何故か逆さまだった。
「どうしたの?」
異常に怯えているファフニーの様子に、リーズの方が驚いた。
リーズは両膝をつきながら、小屋の上に腰を下ろしていたのだ。
体重をかけて座ったら、もちろん小屋が潰れてしまうから、両膝で体を支えるようにしている。
さっきは、跨った小屋に少しだけ体重をかけて揺らしてみたのだ。
今、リーズは、四つん這いになるように手を突いて、自分の股に挟んだ小屋の中を、顔を逆さまにして覗き込んでいた。
いきなり上下逆さまの顔だけを見たファフニーは、一瞬言葉を失ってしまった。
「さ、逃げられる?」
…うふふ、逃がさないもんね。
リーズは言いながら、ゆっくりとファフニーに向かって手を伸ばす。
ファフニーが隣の部屋に隠れている間に、壁の一面をすっかり引き裂いておいた。
これなら、リーズはファフニーの小さな姿を見ながら、余裕を持って手を伸ばす事が出来る。
…絶対、反則だよ、これ。
壁だった場所が、すっかり空洞になっている。もはや、これは部屋ではない。
ファフニーは一応、壁を伝って、部屋の隅まで逃げてみた。
にやにや笑うリーズの目が見ている。
逃げられるはずが無い。
「えへへ、逃げるところ無くなっちゃうよ?」
部屋の角まで逃げたファフニー。
リーズの手のひらが、壁の2辺を結んで三角形を作った。
彼女の手が近づき、三角形が狭まっていった。
「降参です…」
ファフニーは、小さく言った。
逃げ場は無かった。
「えー、もう諦めちゃうの?
さっきまで、あたしの指を元気に剣で叩いてたのに?」
リーズがにやにやと笑っている。
「ほら、もっとやってみせてよ?
ちゃんと抵抗しないと、思いっきり、にぎにぎしちゃうよ?」
手を握りしめる素振りをしてみる。
彼女が手を握り締めると、ぎりぎりと、手のひらが擦れる音がした。
ファフニーの剣が何の役にも立たない事は、リーズもよく知っている。何回思いっきり叩かれても、痛くもかゆくもない。
そんな彼女の見世物になりながら、無駄に剣を振るうのは、ファフニーは恥ずかしかった。
「はいはい…抵抗すればいいんですね?」
それでも、無気力に剣を振ってみた。
そうしないと、思いっきり、にぎにぎされてしまう…
ゆっくり近づくリーズの手のひら。
ファフニーの剣が当たると、表面が少し波打った。
それだけだった。
「ほらほらー、真面目にやらないと、すぐ捕まえちゃうよ?」
彼女の手のひらは、新しく部屋を支える壁のようだった。
…やっぱり、ラウミィと大して変わらないな。
自分の事を嘲笑いながら手を伸ばしてくるリーズを見ていると、彼女もラウミィも紙一重なんだなーと実感した。
圧倒的な大きさ。
圧倒的な力。
人間を玩具にして楽しむ。
…でも、一番大事な所が違うからね、リーズは。
ファフニーは、何度もリーズの手のひらに剣を振り、やがて、彼女の手の中に捕らわれた。
顔まですっぽりと、彼女の柔らかい手に捕らえられてしまい、何も見えない。
…えへへ、ちょっと調子に乗りすぎたんじゃないかな、ファフニー?
やっと、リーズはファフニーを捕まえた。
「あれー?
虫けらでも、手の中に居るかなー?」
にぎにぎ。
わざとらしく、手を握り締めた。
「や、やめて下さい…」
ファフニーは元気が無い。
「そういえば、さっきから、あたしの指を剣でツンツンしてくる、うっとおしい虫けらが居たっけなぁ?
えへへ、虫けらは、潰した方が良いよね」
リーズは手を握って遊ぶ。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
調子に乗って、ごめんなさい。
彼女に握り締められて、ファフニーは謝った。
それから、リーズは彼を家から引きずり出した。
「えへへ、あたしの勝ちだね?」
勝ち誇ったように、声をかける。
小屋に跨った体を起こして、彼を顔の前まで運んでくると、手のひらを開いた。
無邪気に勝ち誇る微笑みを、彼に見せつけた。
何も悪い事をしたという意識の無い、妖精の微笑だった。
結局、こうなるわけだ。
…て、ちょっと待って下さい。
急に、ファフニーは正気に戻った。
リーズと調子に乗って遊んでいた時は、忘れていた。
彼女が壁を引きちぎってしまった家は、空き家とはいえ、村の小屋である。
こんな事をして、後でどうなるか…
フォローをどうするか、ファフニーは考え始める。
だが、
「わー、すごいぞー!」
「圧倒的だー!」
いくつもの、興奮したような声を、ファフニーは聞いた。
リーズが小屋を破壊している音を聞いたのか、光景を見かけたのだろうか?
周りに村人が集まっているようだ。
「リーズ!やり過ぎです!怒られますよ!」
確かに、先にからかったのは自分だけれども…
村の家を壊してしまっては、不味い。
そういう事をするから、妖精と人間の間の溝は埋まらない。
リーズの手のひらの上で、彼女に怒った。
が、首をかしげた。
地上で騒いでいる村人の声が、どうにも怒りの声に聞こえなかった。
それは、リーズを褒める、歓声のように聞こえた。
「えへへ、大丈夫だよ。
ちゃんと、昨日、おうちを一軒壊したいってフレッドに言って、許してもらったもん。
そうしたら、面白そうだから村の人達も見に来たいって言うから、こっそり見ててもらったの」
リーズの声は誇らしげだ。
なるほど、リーズみたいな女の子が小屋を玩具にして壊す光景など滅多に見られるものではない。
見世物としては刺激的かもしれないが…
…昨日から、計画済みだったの?これ?
リーズもフレッドも村人の皆さんも、どれだけ暇なのだろう?
「馬鹿なんですか?
リーズとフレッドと、村人の皆さんは…」
ため息をついた。
「でも、みんな、優しいよね…」
「…そうですね」
それでも、リーズの言葉に、ファフニーは頷いた。
「じゃあ、おうち壊しちゃうから、ファフニーも見ててね?」
リーズは呆れているファフニーを地面に下ろした。
そこで、ファフニーは今日初めて、リーズの全身を見る事が出来た。
部屋の中に居る時は、彼女の顔が断片的にしか見えなかったし、さっきまでは顔の前まで運ばれていたから、全身像がわからなかった。
でも、改めて距離を置いて見上げてみると、そこには妖精が居た。
少し細い目と尖った耳。
さっきまでは、距離が近すぎてよくわからなかったが、それは妖精の姿だった。
服も、いつもの黒ローブでは無かった。
胸と腰の辺りを薄い下着のような布で覆っているだけの軽装だった。
1000年前、まだ元気だったリーズが、気ままに世界を飛び回っていた頃の妖精の姿である。
ローブを着ていないリーズを見るのは、ファフニーは初めてだ。
目が離せない。
彼女の体のラインを眺めてしまう。
白くて綺麗な肌の色。
丸くて柔らかい体のラインは、女の子の体だった。
小屋に跨っている彼女のぷにぷにとした太ももは、人間が10人位、まとめて膝枕出来そうだ。
刺激が強い光景だった。
「一気に、潰しちゃうよー!」
リーズは陽気に言うと、跨っている小屋に体重をかけた。
一瞬で、彼女の腰が沈んでいく。
がらがら。
彼女のお尻の下で、小屋は呆気なく建物としての形を失い、崩れ去った。
周りでは、見た事の無い光景に村人達が歓声を上げていた。
現金なものである。
自分達に危害を加えない事さえわかっていれば、リーズは多少大きいけれど、可愛い姿をしている。
そんな彼女が圧倒的な力を振るうシーンを、刺激の少ない生活を送っている村人は見世物として喜んでいた。
はぁ…全く。
一人、ファフニーが冷めていた。
「じゃ、みんな、ちょっと離れててね、お尻、はたくから」
リーズは言った。
足元の小さな生き物達は、言われるままに離れた。
彼らが十分に離れたのを確認すると、リーズは腰を浮かせ、お尻をはたいて、埃でも払うように、そこに纏わりついた小屋の残骸を落とした。
彼女のお尻に張り付いていた瓦礫が、音を立てて地面に降り注いだ。
確かに、近くに居たら危ない。
綺麗になった所で、リーズは再びファフニーに手を伸ばした。
「さ、乗ってよ!」
今度は、彼を摘み上げたりしない。
手のひらを開いて、満面の笑顔と共に彼に差し出す。
彼女なりに気を使っている時のやり方だ。
そういう笑顔を見せられては、ファフニーは彼女の手のひらに乗るしかない。
「おつかれー、面白かったぞー!」
「兄ちゃん!リーズちゃんを大切になー!」
村人達が歓声を送っている。
短い馬鹿騒ぎの終わりが来た事を、観客達は理解していた。
ファフニーは、もう一度ため息をついて、リーズの手に乗った。
リーズは彼を手に乗せると、胸元まで運んだ。
「じゃ、とりあえず行こうね!」
どこへ?
とは、ファフニーは聞かずに微笑んだ。
リーズは立ち上がる。
「見て?
羽根も、また広げられるようになったんだよ!」
彼女は自慢気に言った。
光で出来た羽根、蝶のような羽根が、彼女の肩から腰の辺りまで広がった。
ラウミィと同じ姿だと、ファフニーは思った。
…綺麗だな。
素直に見とれてしまった。リーズが相手だから、素直に綺麗な事を認める。
ふわっと、リーズの体が空に浮き始めた。
光で出来た羽根が、羽ばたいている。羽ばたいているが、光は風を起こさない。
足元にいる村人に手を振りながら、リーズはファフニーを連れて空へと舞い上がっていった。
「元気になったんですね?」
「うん…お腹空いてただけだったからね。
1日中は、やっぱり無理だけど、結構長い間、元の姿にも戻れるよ。
2時間か3時間か…ね」
「良かったですね…」
元気になったリーズを見ていて、ファフニーは嬉しかった。
…でも、それだけ長い時間、元の姿で居られるなら、僕はますます必要無いね。
少し寂しかった。
だけど、わざわざ、昔の妖精の姿を自分に見せてくれる彼女の事が可愛いと思った。
空へ、空へ。
リーズは何も言わずにファフニーを抱えて飛んでいった。
地面が遠くなっていく。
ファフニーは、リーズの手のひらの中で、しっかりと指に捕まっていた。
「これ位で良いかな?」
しばらくして、上昇は止まった。
リーズはファフニーを包む手のひらを開く。
「ファフニーは飛べないんだから…落ちちゃダメだよ?」
心配そうに言った。
言われなくても、ファフニーも落ちるつもりは無かった。
緑色の草原が続いている。
遠くの方に山が見えた。高い山でも、下の方に見えた。
何千メートルかの空に、リーズとファフニーは居た。
地面って緑色なんだなーという事を、ファフニーは理解した。
「いつも言ってるでしょ?
ファフニーは小さすぎて可愛いって」
リーズが口を開く。
何が言いたいんだろう?
彼女の言葉に、ファフニーは首を傾げる。
「こうやって飛ぶの、前は好きだったの…
どこまでも遠くが見えるのって、凄いって思わない?」
「そうですね…
随分と、広いですね、世界は」
確かにリーズの言う通りだ。高い所から周りを見渡すのって凄いと思った。
どこまでも、世界が続いている。
自分の事を、とても小さく感じた。
「なるほど、リーズもそんなに大きいわけじゃないかもしれませんね…」
「うん、ファフニーが小さすぎるんだよ」
2人で、空から地面を眺めてみた。
高すぎるから、鳥も飛んでいない。
ファフニーはリーズの手のひらから体を乗り出して、地上を眺めている。
リーズは、そんな手のひらの上のファフニーと地上を交互に見ている。
どこまでも遠くを、2人で眺めてみる。
「でも、あたし、ファフニーよりは大きいけどね?」
リーズは言いながら、手のひらの上のファフニーを指で転がし始めた。
いつもの事だが、今日は特に手のひらから落とされるわけにいかないから、ファフニーは彼女の指にしがみつく様にする。
リーズは、ファフニーの事を微笑みながら見つめる。
馬鹿にしたり、見下したりする目線ではない。
「あたし、この羽根も…こんな風に広げる事って、もう出来ないと思ってた…
ほんとに…ありがとうね?
全部、ファフニーのおかげだよ…」
小さな声で、恥ずかしそうに言った。
ファフニーに一番言いたかったことを、彼を指で転がしながら言った。
…今更、そんなに恥ずかしがらなくてもいいのにな。
リーズに転がされながら、ファフニーは微笑んだ。
「でも…これから、どうしよう?」
ファフニーを弄ぶリーズの手が止まった。ファフニーは、そのまま彼女の手のひらに寝転んでいる。
「それでも、ラウミィちゃんには勝てそうに無いよ…」
あくまでも、餓死寸前の状態から立ち直っただけである。
相手は何の躊躇も無く、栄養たっぷりの食事を毎日取っているのだ。
やはり、まだ力の差があるのは明白だ。
「フレッドが居るじゃないですか。
あの人なら…逆にリーズが居なくても、何とかするんじゃないかと思いますよ…
昨日は、リーズやラウミィみたいに大きな相手と会うのは初めてだから戸惑ってたみたいですけど…
あの人は、やっぱり違うと思います。
人間とも、リーズ達妖精と比べても、何か違う気がします…」
「うん、それは、そうなんだけど…」
実際、神話の時代のフレッドは、それこそラウミィすら圧倒する力を最終的には持っていた。
今の時代のフレッドも、昨日、ラウミィと相対した時、その片鱗は見せてくれた。
彼の力を借りれば、例えラウミィが相手でも有利だと思える。
だが、リーズは、それを否定する。
「妖精と人間がケンカするのは、だめだよ…」
彼女は首を振った。
そういう光景をリーズは見たくなかった。
昨日のようにフレッドとラウミィが争う様子、自分の友達同士が、お互いを憎みあって殺そうとする様子を、二度と見たくは無かった。
人間と妖精は…争ってはいけない。
妖精は人間をゴミのように扱わないっていう事を1000年も前に決めたのだ。
何より、フレッドとラウミィが争ったら、それが、また新しい揉め事の始まりになってしまうかもしれない。
そうして悩んでいるリーズの顔が、妖精の顔にも、人間の女の子の顔にも、どっちにもファフニーには見えた。
「だから、ラウミィちゃんは…やっぱり、あたしが何とかするよ」
彼女は言ったが、震えている。
彼女の手のひらの上に居るファフニーには、それがわかった。
自分より力があるラウミィの事が怖いのだろう。
「リーズ…一人で背負い込みたいんですか?」
「一人で背負うのなんか、嫌だよ…一緒に居てよ、ファフニー?」
リーズは、あわててファフニーに言った。
「もちろん、一緒に居ますよ。ずっと…」
怯えているリーズに、ファフニーは言った。
「その事は、後でフレッドとも話してみて、それで決めましょう。」
「うん…そうだね」
ファフニーの言葉にリーズは頷いた。
これは、2人だけで決めて良い話では無い。
「…ねえ、また、戦い方を教えてよ。
剣は…あたし持てないからダメだったけど…何かあるでしょ?」
手のひらの上の小さな生き物には、色々と教えて欲しかった。
戦い方だけじゃない。
教えて欲しい事は、全てだ。
いつも、そうしてファフニーを頼っている自分には気づいている。もう、この小さな生き物を、二度と手放したくは無い。
小さくて、いつも玩具にして遊んでいる生き物に、自分は頼りきっているのだ。
彼が敵わない大きな相手を踏み潰す位しか、自分は役に立ってない…
「ふふ、そうですね」
大きな顔をして困っているリーズは、可愛い。ファフニーは微笑んだ。
「何かあるんでしょ?
素手で戦うやり方って」
リーズはファフニーに尋ねた。
同じ位の体の大きさで、彼に手取り足取り教えてもらう事も楽しそうだと思う。
「でも、僕なんかが教える事は無いですよ?」
ファフニーは照れたように首を振った。
「マリク達に教えてもらった魔法があるじゃないですか、リーズには。
それに、フレッドの魔法だって効かなかったローブも…
だから、魔法の争いをすれば良いんですよ」
「あ…なるほど」
言われてみれば、そうだ。
人間の魔法の技術を、マリクやフレッドたちに色々教えてもらった。
魔法を使う事なら、リーズは他のどの妖精にも負けない自信がある。回復魔法の技も、妖精の中ではリーズだけの技なのだ。
それに、魔法を受け付けないマリクのローブの力は、昨日見たばかりだ。
全く、ファフニーの言う通りだ。
魔法での争いになれば、例え相手がラウミィでも…
リーズは嬉しそうに、ファフニーに指を伸ばして転がした。
「えへへ、教えてくれたじゃないのよ、戦い方」
やっぱり、ファフニーはすごいなーと思った。
少なくとも、自分よりは頭が良い。
「ちっちゃいけど、偉いね」
なでなで。
愛おしくて我慢できないから、撫でてしまう。
そうすると、手のひらの上の小さな生き物の手触りを感じる。
彼の体の形が、自分と異なっている事が伝わってくる。
少し、彼の胸の辺りを押してみた。
硬くて引き締まった、男の体。
昨日は、自分の事をおんぶして村まで連れて行ってくれたよね…
体の大きさが同じ位だと、自分にはそんな事は出来ない。
ファフニーの…男の子の体の作りが自分と違う事は、よくわかる。
妖精と人間。
女の子と男の子。
やっぱり、自分とファフニーは違う生き物だ。
「リーズ、痛いですよ…」
ファフニーが苦しそうに言った。
ぐりぐりと、彼女の細い指が体を押してくる。
ファフニーにとっては、胴体よりも太い指だ。
「えへへ、痛くないように、一気に潰してあげよっか?」
からかわずには、いられない。
たくましいけど、小さくてカワイイ男の子の体。
本当に潰してみたくなってしまう。
…簡単に潰れちゃうんだろうな、あたしが力を入れたら。
男の子の体を玩具にすると、ドキドキした。
「何で潰すんですか…」
リーズの脈絡の無い言葉を聞くと、彼女と一緒に居る事を実感するファフニーだった。
…でも、ちょっと辛いかな、さすがに。
以前と違って、10分の時間制限が、これからは無いのだ。
一日中は続かないとはいえ、結構長い間、リーズは大きな姿で居られる。
ずっと玩具にされると…ちょっと苦しい。
自分の胸を覆う、力強いけどカワイイ、リーズの指を、ファフニーは軽く叩いてみた。
びくともしない、リーズの強さだけを感じた。
このまま、何時間も玩具にされるのかな?
まあ、久しぶりだし、別に良いか…
ファフニーは諦めた。
空の上で、2人きりである。
「…あ、そろそろ降りようか?」
でも、リーズは言った。
「え、もう終わりですか?」
拍子抜けした。
ちょっとつまらない。
ずっと玩具にされるのは辛いけど、もう少し玩具にされていたかった。他の誰でもない、リーズの手で…
「う、うん。
トイレに行きたくなっちゃったの…
昨日、いっぱい食べちゃったから、村の中じゃ出来ないしね…」
リーズが恥ずかしそうにしている。
「そ、そうですか…」
やっぱり、トイレとかも行くんだ。昨日、聞きそびれた事だ。
「覗いたらだめだよ?
そんな事したら、流して埋めちゃうからね…」
何で流して、何で埋めるんだろう?
「絶対見ません」
ファフニーは心に誓った。
リーズはファフニーを抱えたまま、村へと降りていく。
「でも、食べる量が多いと不便ですね…」
実際、困ったものだとファフニーは思う。トイレの事を考えると、大きな街には住めそうに無い…
「だ、大丈夫だよ。
今回は1000年振りだから、ちょっと食べ過ぎただけだもん。
本当は、そんなに食べないから」
「そうなんですか?」
「うん。リンゴ一個位でも、たまに食べれば平気だよ?
…生きているだけならね」
「なるほど…」
話しているうちに、地面が近づく。
ずしーん。
地震を起こしながら、地面に舞い降りる。
「もうちょっと、静かに降りられないんですか?」
「ご、ごめんなさい。飛ぶの久しぶりだから…」
申し訳なさそうに言いながら、リーズはファフニーを乗せた手のひらを地面に置いた。
それから、もう一度、光で出来た羽根を広げると、どこへともなく飛んで行った。
人に見られない所まで…
ファフニーは一人になった。
やる事が無いから村を見渡してみると、村人は、特にリーズの素行を気にしてはいないようだ。
リーズが派手に地震を起こして降り立ち、また飛び去っても、村人は大して気にせず、そのまま村人の生活を続けている。
自分がリーズの側に居なかった一週間の間に、彼女はこの村にかなり馴染んでいるようである。
瀕死の彼女の世話をしてくれたのは、ここの村人達に他ならない。
フレッドが村人達に上手に説明してくれた事もあるのだろうが、やはり、リーズ本人の人徳だろう。
…この調子で、何とかならないものかな?
ファフニーは考える。
人間が元の姿になったリーズを見たら、最初は大きくてびっくりするかも知れないけど、誰かがフォローしてあげて、彼女がどんな子か判れば、大きな揉め事にはならないはずだ。
彼女が人間の世界に留まって、世界に馴染む事は、困難ではあるけれど難しすぎる事も無いはずだ。
…まあ、僕を玩具にするのと同じ調子で、他の人間にも接したら不味いだろうけど。
ファフニーは苦笑してしまった。
リーズの玩具になれるのは、多分、僕だけだよね。
そんな関係でも、良いんじゃないかと今は思う。
好きな人を玩具にしたがる彼女の性癖は、よくわかっていた。
ファフニーはリーズの行く末を考える。
この世界に留まり続けるのか?
妖精の世界に帰るのか?
リーズは、まだ少し悩んでいるように思える。
でも、ラウミィの事が解決したら、リーズにはこのまま、この世界に留まっていて欲しい。
その為の障害は、僕が何とかするから…
彼女がファフニーを手のひらに乗せておきたいのと同様に、彼もリーズと離れる事を望んではいなかった。
いつか、玩具にされている時に間違えて潰されてしまうかもしれないけれど、それでもいいやと、ファフニーは考えるようになっていた。
それから、その日は、ファフニーもリーズも村でゆっくりと休んだ。
翌日。
2人は、フレッドと話をする事にした。
一夜明けて、リーズはいつもの黒ローブを着て、ファフニーとフレッドの前に現れていた。
「俺に…手は出すなと言うのだな?」
リーズの話を聞き終えたフレッドは、すぐには返事は出来ないという風に頷いた。
『ラウミィとは自分が決着を着けるから、人間は手を出さないで欲しい』
そんなリーズの願いを、フレッドは受け止めたが対処に困る。
「リーズ…
人間の世界の話を、一つ聞いてくれるか?」
フレッドは例え話を始めた。
リーズは黙って頷く。
「あなた達には理解できないかも知れないが、人間は縄張り意識が強いんだ。
『国』っていう集まりを作って、その中で勝手にルールを作って暮らしてる」
「うん…色んな国があるんだよね?
何で、同じ生き物なのに、そんな風に分かれてるのか、あたしにはわかんないけど…」
真面目な顔で、リーズはフレッドの話を聞いている。ファフニーは見守っている。
「そうだ。
それで、例えば、よその国から人間がやってきて、俺の国で何か悪い事をした時は、どうすると思う?
悪い事をした奴は、よその国のルールで怒られるのか、俺の国のルールで怒られるのか、どっちだと思う?」
「ん…わかんないな。
でも…悪い事をした場所で、そこの人に怒られるんじゃないかな?そういう時は。
あたし達も、友達の所で遊んでる時に悪い事したら、そこで怒られるもの」
リーズは考えながら、返事をする。頭を使うのは、ひさしぶりだ。
「なるほど。
俺達も、リーズ達と同じ風に考える。
…どう思う?
ラウミィは妖精の世界の住人だが、この世界で悪い事をしたんだぞ?
それなら、誰に怒られるべきだと思う?」
フレッドはリーズに怒っているわけでは無い。彼女を責めるつもりもない。
リーズが泣かないように、優しく諭すように言った。
「ん…それは…」
リーズは言葉に詰まる。
人間を散々玩具にして虐殺したんだから、人間に怒られるのは当然だと思ってしまった。
「でも、妖精と人間が争っちゃだめだよ…」
自信が無さそうに言った。
少しの沈黙。
ファフニーは何か言おうかと思ったが、ここは黙っている事にした。フレッドはリーズを虐めているわけではないのだから、口を出すのは過保護だと思った。
「そうだな…
それも間違ってない。
もし、俺が…ラウミィを殺しでもしたら…
それこそ、また妖精と人間の間で揉め事になってしまうかも知れないな」
「それは嫌だよ…」
リーズの言いたい事をフレッドも理解しているようだ。
「でも、どうしたら良いの?
フレッドの言う事も間違って無いよね…」
結局、誰がラウミィの事を怒れば良いのだろう?
リーズは判らなくなってしまった。
多分、フレッドの方が正しい。
人間の世界で人間を虐めたんだから、人間に怒られるべきだ。
でも、妖精が、それを認めてくれるだろうか?
妖精は別に悪魔ではない。
もし、フレッドがラウミィを殺してしまっても、神話の時代ならともかく、今ならば、ほとんどの仲間は理解してくれるはずだ。でも、全員が理解してくれるとは限らない。
ラウミィと特に親しい友達が、仕返しに人間の世界にやってくる事は考えられる。
その連鎖は、いつまでも続いてしまうのではないだろうか?
そんな事を繰り返すうちに、最後には人間の世界は妖精達に踏み潰されてしまうのではないか?
「俺にも、どっちが正しいのかわからない」
フレッドも首を振った。ファフニーも同感だった。
多分、フレッドの方が正しい。正しいが、それが妖精達に通じるかという事だった。
「そうだな…
俺は、リーズがそこまで言うなら、リーズに任せたいと思う。
別に、俺は人間の世界の代表でも何でも無いが、今のリーズは妖精の世界の代表だしな。
妖精の世界の代表者が約束してくれるなら、それを尊重したい。
あの女が…これ以上、人間を虐げないようにすると約束してくれるか?」
フレッドは、少しからかうように微笑んだ。
「代表って…でも、そうだよね、確かに」
リーズは頷いた。
今、この世界にラウミィ以外の妖精は、リーズしか居ない。
「ファフニー、それで良いか?」
フレッドはファフニーに話を振った。
「僕なんかの意見が必要ですか?」
無力な僕の言葉を聞いてどうするんですか?
自嘲気味にファフニーは言った。
「意見も何も…君が、この冒険のリーダーだろう?」
フレッドはファフニーに微笑む。
「リーズを隠れ家から連れ出して、ここまで導いたのは誰だ?
俺とリーズを会わせてくれたのは誰だ?
彼女の心の傷を癒して、食事が取れるようにしてやったのは誰だというのだ?」
「いや、リーズの心を慰めたのは、僕だけじゃないかと…」
ファフニーは、恥ずかしそうに首を振りながら考える。
自分をリーダーとか、そういう風に考えた事は無かったので、戸惑った。
「そうだね…
ファフニーが良いって言ってくれないと、決められないよね。
ちっちゃいけど、頑張ってくれたもんね。ちっちゃいけど!」
リーズもファフニーの方を見た。
彼の頬を指で突く。
今は、彼の頬しか突けない。
同じ位の大きさのファフニーを突くのも、結構楽しい。思いっきり突いても、彼が死んでしまわないのがありがたい。
「そんな、ちっちゃいって強調しないで下さい…
でも…2人の気持ちはわかりました。
今回は、リーズに任せるという事で良いですね?
ただ…リーズが殺されそうになったら、僕は黙って見ている自信は無いですよ?それはフレッドも一緒ですよね?」
ファフニーは静かに言った。
力という点では、自分はリーズやフレッドに比べて、大きく劣っている。
それでも、そんな自分を2人が信頼してくれている事が嬉しかった。
自分の役割が、導く者…リーダー…であるなら、それを貫こうと思った。
「うん、それで行こう!」
「依存は無い」
リーズとフレッドはファフニーに答える。
話はまとまった。
ラウミィの居場所はわかっている。
この村からは、近所だ。
明日にでも、彼女の住処に行く事が出来るだろう。
見習い騎士の少年と妖精、それに赤ローブの魔法使いを加えて3人になった一行は、村を離れた。
何をするべきか?
どこへ行くべきか?
全て、はっきりしている。
一つの決着は、目の前まで迫っていた…