妖精の指先
作.WEST(MTS)
※この文章は巨人が小人を様々な手段で弄ぶ表現が含まれています。
残酷な表現等が含まれますので、18歳未満の方は読まないで下さい。
1.古代妖精と少年
人間嫌いの偏屈な魔女が住むというダンジョン。
そこにやってきた見習い騎士の少年は、何とか魔女の所までたどりついた。目の前に、魔女の姿がある。
果たして、どんな人なんだろう?
緊張しながら、少年は魔女の顔を見る。
…きれいな顔だな。
少年は、フードの下から見えている魔女…いや、女の子の顔に見とれてしまった。
「何?
あたしの顔に何かついてるの?」
女の子は、フードに隠れた顔をきょとんとして、首を傾げる。黒ローブに身を包み、頭の半分位をフードで覆っている黒魔道士スタイルだったが、フードの下から見えている顔は、幼ない顔つきだ。16歳の少年から見ても、少し年下に見える。
「あ、いえ、思ってたより可愛い顔だったので…」
「ふふ、そう?
ありがとね」
少年が言うと、魔女はクスクスと含み笑いをした。
とある冒険のヒントを聞きに、魔女に会いに来た少年だったが、魔女の素性については全く情報が無かった。まさか、こんなにあどけない娘だったとは…
とても、ダンジョンの奥に一人で住んでいる変わり者の女のイメージではない。
ただ、何と言っても魔女である。今、見せているこの姿が、本当の姿だという保障は無い。
カワイイ顔に騙されては、いけない。と、少年は自分に言い聞かせた。彼女は、何百年もここに住んでいるという噂の魔女なのだ。
「うふふ、でも、君もカワイイよ。
…で、あたしに何のようかしら?
あたしの顔を見る為に来たんじゃないよね?」
椅子に座っている魔女は、自然と少年を見上げる形になって言った。
魔女の部屋は周囲に本棚があり、中央に書斎があった。これでもかと本が並んでいる部屋は、いかにも魔法使いの部屋であると少年は思う。ただ、部屋の広さが少しおかしいと、彼は思った。
部屋の大きさが、魔法使いの女の子が一人で本を読むにしては広すぎるのだ。100メートル四方はあるのではないだろうか。天井の高さも、上が見えない位に高い。何か、大きな集会所のような部屋であった。
「あなたに、魔物退治のヒントを聞いてくるように、騎士団で命令をされたのです。
お話を聞かせて頂けませんか?
貢物は持って参りましたが、足りないようでしたら、申しつけ下さい」
少年は、魔女に言った。使者の口舌として、考えてきた言葉だ。例え、自分よりも幼い女の子に見える相手でも、彼は迷わずに言った。
「あはは、上手に言えたね。
たくさん練習してきたの?」
魔女は少年の言葉を聞いて、微笑んだ。少年は、少し馬鹿にされた気がして、気分が悪かった。
「気難しい魔女だと聞いてましたし、大事な任務ですから…確かに練習してきました」
「そしたら、あたしが思ったより可愛い子だったから、ちょっと拍子抜けしちゃった?」
「いえ、そんな…でも、ちょっとは」
魔女に見つめられて、少年はつい本音を言ってしまった。
「そっかー。
…でも、これが私の本当の姿だと思うの?」
あたし、魔女だよ?と、彼女は少年に含み笑いをした。神秘的なイメージを演出しようとしているのだろうが、顔つきが幼いので、ふざけているようにしか見えなかった。
「人間でしたら…失礼ですが、そんなに若い姿なはずは無いのですが、妖精や神族の方でしたら、お若い姿でも不思議では無いので…」
少年は答える。確かに、妖精や神族であれば、百年や二百年など大した問題ではない。若い姿という事も十分にありえる。
「うふふ、そうだね。
確かにあたしは、妖精だよ。それも、古代種のね」
正解だよ。と魔女は言った。
「古代種の妖精さん…ですか。
まだ、この世界に居たんですね」
古代種の妖精。それが本当なら、ちょっと凄い事だ。少年は、興奮気味に言った。
今、この世界に残っている妖精よりも遥かに大きな力を持っていた古代種の妖精達は、遠い昔に人間の世界から自分達の世界へと帰ったとされている。
「うん。ちょっとすごいでしょ?
どうする?あたしの本当の姿、見てみたい?」
魔女は言った。噂話を友達にも教えてあげたくて仕方ない。そんな女の子の顔をしている。
「見せて頂けますか?」
少し嫌な予感がするが、魔女の機嫌を取らなくては、任務が達成できない。少年は魔女に言った。
「うふふ、本当にいいの?
君、びっくりして死んじゃうかもよ」
女の子は言った。
「はい、お願いします。
…そう言われると、ちょっと、怖い気もしますけど」
少年は、そう言うしかなかった。
「ふふ、素直だね。君は」
魔女が言った。
すると、次の瞬間、魔女の体が光に包まれた。少年は目を閉じる。
次に少年が目を開いた時、魔女が居た場所には大きな黒い布が広がっていた。
また、地面の辺りに、少年の体よりもふた周り位大きな革の塊が2つあり、大きな黒い布は、それを隠すように遥か上まで広がっていた。こんな大きな物は、ついさっきまで部屋のどこにも無かったのだが…
だが、少年はすぐに気づいた。これは、女物の革靴と、魔道士の黒ローブの形をしている、と。
その、可愛らしい装飾が施された女の子が履く靴と、魔道士が纏うローブは、先程まで魔女が履き、纏っていた物と同じに見えた。ただ、その大きさが数十倍になっていたが。
少年は、自分の体よりも大きい女の靴を少しの間見つめた後、もしかして…と、青ざめながら上をを見上げた。
女の靴があって、ローブがある。という事は、それに見合うサイズの女が、靴を履き、ローブを着ているはずだ。ローブは遥か高くまで続いている…
遥か上の方で、ローブは途切れていた。
一番最初に、『きれいな顔だな』と、少年が見とれた顔が、上の方から少年を覗き込んでいた。
可愛い、女の子の顔だ。
女の子は膝に両手を付いて腰をかがめ、中腰気味に足元の小さな生き物を見ている。真下を向いている顔が、上を見上げた小さな生き物…少年からはよく見えた。
「どう?
これでも、あたしって可愛い?」
女の子の瞳は、少年の顔と同じ位の大きさだ。彼を見下ろした女の子は、その目を細めて笑った。少年は、ローブに隠れた彼女の体に見とれていた。
ゆったりしたローブなので、女の子の体のラインはよくわからないが、おそらくローブの下には、そのサイズに似合った体が隠れているのだろうと少年は思う。身長は30メートル位はあるだろうか。彼女は、先程の20倍程の大きさになっていた。
目の前に…巨人が居る。
身長30メートルの、女の子の巨人だ。にやにやと笑って、僕の事を見下ろしている。
剣を抜いて戦う準備をした方が良いのだろうか?
意図のわからない笑顔を見せる女の子から目を逸らす事が出来ず、少年は考えた。
剣を抜いたら、どうなるだろう?
少年は、剣の腕にはそれなりに自信がある。持っている剣も、騎士団でこの任務の為に与えられた、それなりの魔剣だ。
女の子に切りかかったらどうなるだろう?
…多分、女の子は、呆れて大笑いするだろう。アリが人間の女の子に挑むようなものだ。
女の子は、剣を構えた僕の上に、躊躇無く革靴を履いた足を下ろすだろう。虫けらを踏み潰すように。そして、僕は虫けらのように潰されるんだ。
色々な事が少年の頭に浮かんだ。
身長30メートル程の女の子に見下ろされて、彼は戸惑っていた。
大きすぎるよ。
こんなの、反則じゃないか…
何も出来ず、言えず、ただ、呆然と女の子を見上げていた。
「こら!何か返事しなよ」
何も言わない少年の様子に、女の子は怒ったように言った。本気で怒っているわけではないようで、わざとらしく口を尖らしている。半分はふざけているのだろう。
「さっきまでの元気は、どこにいったの?」
女の子は、少年に声をかけながら、彼の事を軽く蹴ろうとした。革靴を履いた女の子の右足が地面を離れ、少年の方へと向かう。
自分の体より大きな女の靴が自分に向かってきた。少年はとっさに腕を前に出して防ごうとするが、女の子の靴の勢いは全く弱まらない。
女の子の巨大な革靴は少年を5メートル程吹き飛ばした。紙くずでも蹴ったかのように、軽い感触を、女の子は革靴越しに、足のつま先で感じた。
紙くずのように蹴飛ばされた少年は、地面に叩きつけられる。頭を打ってしまい、すぐには立てなかった。
「あ、ごめん。
手加減したんだけど痛かった?
でも、あたしが質問したのに、返事しないで黙ってる君が悪いんだよ?」
女の子はかがみこんで、倒れている少年の事を見ている。
不思議そうに、少年の事を見ていた。そこに、少年を傷つけた事に対する謝罪の気持ちは、全く感じられない。
少年は自分の事を見ている女の子の目を、人間を見ている目と思えなかった。人形のように命が無い物か、虫のように命があっても無視されるような、そうした者を見ているような目だと思った。
…この女の子は、僕の事を人間として見ていないのか?そう考えると生きた心地がしなかった。
「僕が…失礼な事を言ってるから、怒ってるんですか?
すいません、許してください…」
死にたくない。この女の子に虫けらのように踏み潰されるのは、嫌だ。少年は女の子に、すがるように言った。
「もう!誰もそんな事は聞いてないよ!」
今度はあからさまに不機嫌そうに言うと、女の子は地面に倒れている少年に人差し指を伸ばした
女の子の細い指は、少年の胴よりも太い。女の子の指は少年に触れると、そのまま彼を地面に押し倒した。
ぐりぐり。
少年は、女の子の指によって地面に押し付けられる。
ぐりぐり。
女の子の指が、少年の体の上で、彼を地面にすりつけるように動いた。
潰される。嫌だ、こんな所で、虫けらみたいに潰されるのは嫌だ。死にたくない。
少年は両手で女の子の指を掴んで、どけようとした。体中の力をこめた。だが、女の子の指は、びくともしない。少年を地面に押し付ける細い指は、太い柱のような重圧だった。地面に押し付けられて、少年は呼吸が出来なかった。
「…いいよ。じゃ、先にあたしが答えてあげる。
あたし、別に、何にも怒ってないよ?」
女の子は口を尖らせて言った。怒っているようだ。
「あーあ、可愛いって言われて怒る女の子って…あんまり居ないと思うんだけどなー?」
ぐりぐり。
不満そうに言いながら、女の子は、さらに指先に力を込めた。
ぐりぐり。
女の子が少しだけ込めた、その力は、少年の体が耐えられる限界を越えた。
ぽきぽき。
何かが折れる音を女の子は指先で感じた。少年の肋骨が何本か折れた音だ。
「あぁぁぁ!」
少年が悲鳴を上げた。
…あれ?何だろ、今の音?
ぐりぐり。
女の子は、指先で少年の体を撫でて、様子を探った。折れた肋骨が、少年の体の中で揺さぶられる。少年には、耐えられる痛みではなかった。
ぐりぐり。
…あれ?何か、手ごたえが無くなって、柔らかくなったような?
肋骨が折れた少年の胴を、女の子の指が這い続けた。
「お、お願い…やめて…」
少年は悲鳴を上げる力もなく、弱々しく女の子の指にすがりつくようにしながら言った。
「…どうしたの?情けない顔して。
そんなに痛いの?
えへへ、それじゃ、苦しまないように、一気に潰してあげよっか?」
少年の弱々しい様子を見て、女の子がにやにやと笑いながら、一度、少年から指を離す。少年はようやく呼吸が出来るようになったが、息をする度に、折れた肋骨の痛みが伝わってきた。
ふざけたように言う、女の子の言葉が、死刑宣告のように聞こえた。
「…もしかして、骨でも折れちゃったの?」
苦しそうにしている少年に、女の子は首を傾げながら、再び指を近づける。
今度こそ…潰される。
「うわぁぁぁぁ!」
少年は絶叫した。
女の子の指は、先程と同じく、少年の体に近づいてくる。
…ひどい。あんまりだ。
僕は、おもちゃの人形か、虫けらなのか?
…違う。僕は人間だ。
人の命を何だと思ってるんだ?この女の子は。
少年は悔しさと痛み、恐怖が混じった感情で、涙を抑える事が出来ず、泣きながら手足をバタバタと振って暴れた。
立ち上がる力は残っていない。
虫けらが、必死に潰されないようにと足掻いているようなものだった。
「…何それ。
そんなに、あたしが怖い?」
女の子が言った。しらけたような、がっかりしたような口調だ。彼女の指は少年に触る、2メートル位上で止まった。
ひとまず女の子の指が止まったので、少年は暴れるのをやめて、少し意識を失いかけながら、彼女の指を見上げた。
大きい指。僕を簡単に潰せる、怖い指だ。
…だけど、白くて細くて、きれいだな。
少年は、そういう風に思った。今、自分を潰そうとしている指だが、それでも、大きさを別にすれば、可愛い女の子の指だと思った。
「あーあ、ほんとに潰しちゃおうかな?」
再び、女の子の指が動き出した。ゆっくりと、少年の体に近づく。
少年は、もう抵抗するのをやめた。
思えば、幸運かもしれない。
仲間の騎士見習いの中には、竜の魔物の討伐軍に同行して、本当に虫けらのように殺されてしまった者も少なくない。それに比べれば、可愛い女の子の指で潰されるんだから…
諦めた気持ちで、少年は静かに泣きながら、女の子の指を見つめる。やがて、少年のすぐ上まで近づいた彼女の指先は、彼の視界を全て覆った。
女の子の指が、薄い光を放つ。少年は考えるのやめて、目を閉じた。少年の体が光に包まれた。
「…さ、あたしに潰されないうちに、おうちに帰った方がいいんじゃない?」
少年は、女の子の不機嫌そうな声を聞いた。
「言っとくけど、あたしの事は絶対内緒だよ。
もし、ちくったら、君の事、踏み潰しに行くからね?」
低い声で女の子が言うのを聞いて、少年は目を開けた。
「僕の事…治してくれたんですか?」
先程、女の子の指から放たれ、少年の体を包んだ光は回復魔法の光だったのだろう。少年の体は大分楽になっていた。よろよろとだが、彼は立ち上がりながら言った。
女の子は少年には答えずに、背を向けて座り込んだ。
片膝を立てて、うつむきながら、ほおづえをついている。
…このまま帰ったら、多分、ずっと後悔する。
少年は、女の子に言われた通りに帰ってしまおうとは思わなかった。
とりあえず、女の子の正面に回ろう。
「あの…少しだけ話を聞いてもらえませんか?」
少年は、何十メートルか走って、女の子の正面に回りこみながら言った。
「…なによ?」
女の子は、じろりと少年をにらみつけて言った。少年に、何の興味も持っていないような目だった。
「あなたは、やっぱり可愛いです…」
少年は、女の子の目を見つめ返して言った。みるみるうちに、女の子の顔が怒りで歪み始めた。
「…なに?なんなのよ!」
物凄い声で、女の子は怒鳴った。
ほおづえをついていた手を振り上げると、そのまま握りしめて、少年の方に叩きつけてきた。
本気で、少年の事を叩き潰してしまおうという気持ちもあったのかもしれない。
どーん。
女の子の拳は、少年のすぐ近くに振り下ろされ、少年は地面の揺れで、倒れそうになった。
「今更、そんなこと言って!
可愛い?あたしの事、怖いんでしょ?
しらじらしい!あたしの事、馬鹿にしてるの?
あたし、そんなに馬鹿に見える!?」
ものすごい剣幕で、女の子は一気に言った。
怒りに任せた声が空気を震わせて、その風で少年は飛ばされそうになった。急に大声を聞いたため、耳が、キーンとする。
「いえ、そうじゃなくて、聞いてください!」
少年は言った。
「もう、うるさいな!」
女の子は、地面を叩いた拳を開いて、少年の方に伸ばし、彼の胴体を鷲づかみにして持ち上げた。
「う、うわぁ」
急に持ち上げられて、少年は悲鳴を上げた。彼は、そのまま女の子の顔のすぐ前まで持ってこられた。
女の子はもう片方の手も使って、少年を頭だけ残して、胴体と足を手のひらで握り締めるような形に握りなおした。
それから、空いている方の手の親指と人差し指で少年の頭をつかみ、自分の顔の方に強制的に向けた。
「…いい?これ以上、あたしを怒らせない方がいいよ。
ちゃんと、あたしの目を見て、話しなさいよ?」
女の子は力づくで動けなくした少年をにらみつけて、低い声で言った。
恐ろしい形相の女の子の顔が、視界を覆っている。体と頭は、女の子の手によって締め付けられている。また、おもちゃの人形扱いだ。
これは、迫力…あるな。身動きが取れない少年は、少し体が震えた。彼女のまばたきに巻き込まれるだけで、潰されちゃうんじゃないかな?
でも、自分が感じた事を女の子に伝えるしかない。
「あなたは…やっぱり可愛いと思います」
少年は言った。
「僕、妹が居るんです」
「ふーん、あたしが妹に似てるっていうの?」
下らない。
陳腐な言葉だ。
と、女の子は鼻で笑った。
…本当に、このまま頭を指で握りつぶしちゃおうかな?こんなに頭にきたのって、久しぶりだ。女の子は少し考えた。
「はい、僕の妹、子供の頃に小さな子猫を飼ってたんですけど…」
「…子猫?」
女の子は少し首を傾げる。
「でも、子猫とふざけてる時に、調子に乗って、子猫を踏んづけちゃったんです。猫踏んじゃったっていう感じですね。
…でも、冗談じゃ済まなくって、子猫は死んじゃって…
妹、潰れて死んじゃった子猫を抱いて、ずっと泣いてて…
小さな生き物に触るのって…難しいですよね?すぐ壊れちゃうから。
…怖がったりして、ごめんなさい。あなたがあんまり大きいから、驚いただけなんです。
あなたも、小さい生き物を、どうやって扱っていいか、力加減が、わからなかっただけなんですよね?」
少年は女の子の目を、真っ直ぐに見つめて言った。女の子は何も答えず、しばらく沈黙する。
それから、女の子は少年の頭を掴んでいた手を離し。彼をおもちゃの人形のように握り締めるのもやめて、優しく手のひらの上に乗せた。
少年が手のひらに乗ったのを確認すると、彼女は恥ずかしそうに少年から目をそらした。
これが、この子の答えなのかな。
少年は、自分が乗っている女の子の手のひらにひざまづいて、何も言わない彼女の手のひらを優しく撫でた。
「やっぱり、痛かった…よね?
骨折れちゃったり、蹴っ飛ばされたりしたもんね?」
そーっと、再び少年の方に視線を戻し、女の子は小さな声で言った。
…ああ、可愛いな。
「そうやって照れてる所も、やっぱり、妹みたい」
少年は、おかしそうに笑って言った。
「もぅ!
そうやって、質問に答えないのは、良くないよ、君!」
女の子は、また少し怒ったように言うと、手のひらの上に居る少年に指を近づけた。
細い指が、少年の体に近づく。
「う、うわ!だから、それはやめて下さい!」
少年は、その指に押し潰されそうになった事を思い出して抗議したが、女の子の指は構わず、優しく少年の体に触れ、彼の体を手のひらの上で転がした。
「えへへ、大丈夫だよ。
ちゃんと潰さないように手加減してあげるから」
「だ、だから、潰れなければ良いってわけじゃなくて…」
ぐりぐり。
女の子は、指先で少年を弄んだ。色んな所に指を這わせて、撫でたり、少しだけ力を入れてみたりする。
「ね?いいでしょ?この位。
もし、怪我しちゃっても治してあげるし、君の質問にも、後で答えるからさ。
…だって、ここに尋ねてくる人なんて、何百年ぶりかわかんないだもん。
ちょっと位、ワガママ聞いてよ。
ほら、君、あたしのお兄様なんでしょ?」
あたしから見ると、君の方こそ小さくて可愛いんだよ。と、女の子は少年の体を撫で回した。
「さっきまで、怒ってたと思ったら…すぐにそれですか。やっぱり…あなたは、妹みたいです」
少年は、女の子の指に無駄な抵抗を続けてはいたものの、半ば諦めて言った。
精神レベルは妹でも、肉体は化け物だ。力づくで来られると、どうしようもない。
「…うーん、本当に、答えてくれるんですね?」
と、女の子の指で転がされながら、せめて精一杯、不機嫌そうに言うくらいしか、少年には出来なかった。
「うんうん。平気!古代妖精は、嘘つかないからね!
…えへへ、ちっちゃな体で抵抗して、可愛いなー、君。
ほらほら、もっとがんばれー」
女の子は指先にしがみつく様にして、一生懸命抵抗している少年の事を応援した。少年が無駄に抵抗する事も、女の子にとっては楽しみのうちだった。
あはは、いつまで、あたしの指にしがみついてられるかな?
と、必死に指にしがみついている少年を、彼が耐えられなくなるまで、自分の手のひらに擦りつけたりしてみる。
小さな生き物を玩具にするのは、とても面白い。
難しいのは、彼を傷つけないように玩具にする事だ。
女の子は、少しの間、少年で遊び続けた…
(2話へ続く)