女神のコレクション(前編)
MTS作
※この話は、一部に残酷な描写を含んでいますのでご注意ください。
(補足)
イラストは、
左の娘→次女の『秩序の女神』
真ん中の娘→長女の『正義の女神』
右の娘→末娘の『平和の女神』
となってます。
0.女神の休暇
『正義の女神』という女神が居た。
『秩序の女神』という女神も居た。
『平和の女神』ついでに、そういう女神も居た。
その、三柱の女神は姉妹であり、神々の中では最も若い女神達だった。
そんな若い彼女達だが、疲れきった顔で話し合っていた。
大いなる悪との戦いみたいなものが、何となく終わったばかりである。
「えーん、もう疲れたよ〜」
もう、立つのも嫌だよ〜。と、神殿の大理石に座り込んでいるのは末妹の『平和の女神』エイレーネーだ。神年齢で11歳。まだ、胸も平べったい。
今回の戦いで、最も目立つ活躍をしたのは彼女である。
彼女は足元に広がる黒い群れを、寝る間も惜しんで踏み潰して回った。
数え切れない矮小な悪が、彼女の足で踏み潰された。
平和を脅かす者が相手であれば、『平和の女神』は、その力を振るう事にためらいは無いのだ。
大いなる悪に連なる、矮小な存在の群れに攻め込み、それらを踏み潰して回る事が、彼女の役割だった。
「そだねぇ…お姉ちゃんも、ちょっと疲れたなぁ?」
長女の『正義の女神』アストライアーも妹に同意した。
神年齢で19歳になる彼女は、末妹程には動き回っていない。
末妹の足を奇跡的に逃れて、神の神殿に攻め込もうとする侵入者が彼女の相手だった。
意気の良い相手を弄ぶのは、気分が悪いことでは無い。『悪』が相手であれば、『正義』がためらう必要も無い。彼女は疲れていたが、自分の役割に満足していた。
もう一柱の女神、『秩序の女神』エウノミアーには役割は無かった。
彼女の存在そのものが、秩序なのだ。
『秩序の女神』を縛る秩序、ルールなど存在しない。
今、戦いに疲れた三柱の女神達は、神々の神殿に集まってぼんやりとしていた。
「玩具を幾つか買った。
…みんなで取りに行かない?」
エウノミアーは言った。
自らが定めた秩序。
『玩具を買ったらお金を払う』
その事に対して、彼女は忠実だった。
自分で作った秩序に自分で従うのが、『秩序の女神』の役割といえば、役割だ。
「エウノミアーちゃん、また買ったの?
ほんっと、好きだね〜」
少し呆れているのは、末妹のエイレーネーだ。
姉は最近、色んな世界の星を買い漁っては、自分の趣味の為にコレクションしている。
幼い彼女には、姉の趣味がよくわからなかった。
「んー、じゃ、レーネは、お留守番かねぇ?」
「や、やだよ!レーネも行く!」
からかうアストライアーに、エイレーネーは、あわてて首を振った。
次女のエウノミアーの趣味が彼女には理解できないが、せっかく姉が玩具を買ったのだ。エイレーネーも一緒に遊びたかった。
「で、ミアー?
今度は、どこの星を買ったのかね?…ホレ!お姉ちゃんに教えてごらん!」
『正義の女神』は、音も無く妹の『秩序の女神』の背後に回る。
それから、自分の胸よりも一回り大きな、彼女の胸に後ろから手を回した。
「や、やめろ、姉さん。
う、『宇宙』って世界にある、『太陽系』っていう、小さいな星系を丸ごと買ったんだ
…も、もう、この!いい加減に手を離しなさい!」
姉の手に抵抗しながら、エウノミアーは言った。
「『宇宙』かー、随分ちっちゃな世界だったよね、あそこって」
エイレーネーが、少し驚いたように言った。
『宇宙』というのは、幾多の次元に存在する世界の中でも最も小さな世界の1つだ。
それは、三柱の女神達の髪の毛よりも細くて狭い世界であり、普段の状態では、女神といえど小さすぎて見る事が出来ない世界の1つだ。
ただ、その中には様々な形をした星が点在していて、光り輝く不思議な光景を見る事が出来る。
神々の観光地としては、『宇宙』は有名でもあった。
「でも、『太陽系』なんて、聞いた事無いや。きっと、どっかの田舎だね」
エイレーネーが首を傾げている。
『太陽系』という星系は、遊び盛りの彼女でも聞いた事が無い程、無名の区域だった。
「私達のお小遣いで買えるんだ…大した場所のはずがない。
…でも、『太陽系』には、有機物が付着した星がある。
名前は…忘れた。
ち…が最初に付いたと思うんだけど…ごめんなさい。
…て、姉さん、そろそろ本気で怒るぞ?」
妹の無邪気な質問に、エウノミアーが答えた。彼女は、じゃれつく姉をまだ振り払えないでいる。
アストライアーは、自分より胸が大きい次女に嫉妬をする気持ちがあったので、少し、悪意を込めて妹の胸を揉んでいた。
エウノミアーもそれがわかっているので、姉の事が少し煩わしかった。
そんな姉達の思惑を知らず、末妹は言う。
「わー、有機物付き!珍しいね!
高かったんじゃないの?」
幼い『平和の女神』の目がキラキラと輝いていた。
有機物というのは、ある意味、生き物の一種である。
だが、『宇宙』のような小さな世界の有機物は、例え生きていたとしても、神々でさえ、それとは認めるのが難しい。
「安かった。
どうも、汚れきって何の価値も無い、ゴミみたいな星らしい」
「んー、それでも、有機物が付いてる星は貴重だわね」
エウノミアーの姉と妹も、有機物が付着した星には興味津々だ。
「えへへ、ちっちゃな星で、沢山遊びたいね〜」
キラキラと輝き続ける、『平和の女神』の目。
彼女ほどにあからさまでは無いが、他の2人の女神の思いも一緒だった。
女神達の目当ては、有機物が付着した星である。
有機物が付いている星は貴重な為、普通の星に比べて何十倍もの値段が付くのが通例だ。
『ち…何とか』という星が汚れきっていて価値が無い星だとしても、貴重な事には変わりない。
星空が瞬く綺麗な『宇宙』を漂って、小さな星を弄んで、のんびりと過ごす。弄ぶのが、貴重な有機物付きの星ならば、尚更優越感を味わえる。
神々の間では、一般的な遊びだった。
一方、有機物が付着した星を眺めて、もしもそこに小さな生き物が住んでいたらと考えながら星を玩具にする事も、神々が隠れて行う禁断の遊びであった。
三柱の女神達の心は、次女が買った、『太陽系』という玩具に向いている。
それから、三柱の女神達は魔法を使って限界まで身体を小さくして、『宇宙』の世界へと入っていった。
彼女達が目指すは、太陽系。そして、地球。
地球という星に、小さな知的生命体が実在している事を彼女たちは知らない。
女神達にとっての地球は、有機物が付着した、珍しい星に過ぎなかった…
1.女神の到着と水星の最後
人類が宇宙に進出してから、数世紀が過ぎた日の事である。
今や、月と火星は人類が普通に居住する場所になっていた。
そんな、ある夜の出来事であった。
地球に住む少年は、望遠鏡で空を見上げていた。
星を見るのが大好きな少年は、毎晩、家の窓から望遠鏡で宇宙を眺めていた。
…あれ、あんな所に星があったかな?
いつものように星空を眺めていた少年は、ふと、疑問に思った。
遠い宇宙に、見知らぬ星が三つ輝いている。
望遠鏡の距離表示機能を使ってみると、それらの星は数千光年の彼方…光が届くまでに数千年かかる距離…で輝いている事がわかった。
こんな星は見た事が無い。聞いた事も無い。
もしかして、新しい星を見つけてしまったのだろうか?
少年は、震える手で望遠鏡のネットワーク機能を使い、星の名前と場所が乗っているデータベースを探った。
やはり、見た事も聞いた事も無い星だ。
あわてて新星発見の報告を、管理局に送ってみると、どうやら三つの星を見つけたのは少年のようだ。
星というのは、最初に見つけた者が名前をつける事が出来る。
少年は見つけた星の名前を考えた。
まず、望遠鏡の機能を使って大きさを図ってみると、地球の100倍、太陽と同じ位の大きさの星のようだ。
少し形が変わっているように思えた。
円や楕円という形ではなく、もっと縦に長い。その上、少しづつ形を変えているようにも見えた。
…あれ?まるで人の形みたいだ。
少年には、その星の形が、胴体から手や足が伸びた、巨大な人の形に見えた。
だが、人だとすれば、その3人の巨人のうちの2人は胸がふくらんでいるから、女性という事になる。
その大きさも、尋常では無い。
もしも、あの三つの星が本当に人間だとしたら、太陽と同じ大きさの巨人という事になってしまう。
太陽と同じ大きさの巨人達…
「あはは、まさかね」
軽く冷や汗をかいて、少年は首を振った。
炭酸が効いた飲み物に手を伸ばす。
ごくごくと、小さな喉を鳴らして飲み干した。
正義…秩序…平和…
神話に出てくる3人の女神の名前が、何故か彼の頭に浮かんだ。
まあ、いい。変な事を考えるのは、やめよう。地球の100倍も大きな女の巨人など、居るはずがない。
あれは随分と変わった形の星だが、自分が見つけた星なのだ。
今夜は喜ぼうと、彼は頭に浮かぶ嫌な考えを振り払おうとした。
彼…赤池聡(あかいけさとし)が、三柱の女神を見つけた最初の地球人だった。
それからも、赤池は毎晩、三柱の女神を見つめ続けていた。
明らかにおかしい事には、すぐに気づいた。
三つの星は、動いていた。
光に等しい速さで動いている。
そればかりか、時々、光の速さを越えていた。
一瞬消えたかと思うと、再び現れるのだ。
まるで、空間を渡っているとしか思えない。
毎日、三つの星と地球の間の距離を測ってみた。
最初は数千光年あった距離が、一週間後には数百光年まで近づいていた。
その頃には、もう、望遠鏡を使わなくても、それらの星が人の姿をしている事が見えるようになっていた。
さらに数日過ぎると、その顔形さえ、望遠鏡で見えるようになった。
もう、星を見る事が好きな少年1人の夢を越えていた。
望遠鏡越しに拡大してみると、その星は少女の姿をしている事がわかる。いや、星ではなく、実際に少女なのだろう…
もう、学校も閉鎖になった。
赤池は望遠鏡で、彼女達を一日中見つめていた。
…なんなんだ、こいつら?
全く、わけがわからない。
わからないが、望遠鏡を覗くと少女達の姿が見える。
夢では無い。
彼女たちは、笑顔で何やら話し合ってるようにも見えた。
恐ろしい巨人達が近づいてくる。
太陽ほどに大きな巨人の少女達の姿だが、しかし、神々しく赤池には見えた。
赤池には事情がさっぱりわからない。
彼だけでなく、他の誰にも、事情はわからなかった。
まさか、女神が休暇で旅行に来たなどとは、誰も考えない。
玩具として太陽系を購入したとは、思いつく者など居なかった。
それでも、宇宙の彼方から迫ってくる少女達の姿を見れば、異常な事態だという事だけは、地球の近辺に住む全ての人間が理解していた。
だから、地球を中心として、月と火星も合わせた軍隊が集まるのに、それ程の時間はかからなかった。
迫ってくる女神達が、本来であれば、この宇宙よりも遥かに大きな姿をしている存在だという事など、もちろん知る由も無い。
人類の行動は、人類にしては迅速であった。異常過ぎる事態を前に、立場も思想も越えて協力する体制を取る事が出来た。
だが、相手が女神である事を彼らは知らなかった。
それから数日後、わずかな可能性にかけた船団が宇宙へと出発した。
太陽程に大きな巨人の少女達。
しかし、その目的が悪意のある事とは限らない。
対話の可能性に、人類は賭けていた。
太陽系のほんの少し外で、船団は三つの星を待つ。
三つの星…いや、三人の巨人の少女達が来る前に、太陽系の外で話をしておきたかったのだ。
やがて、その時はやってきた。
急速に近づいてくる、輝く三つの影。
いずれも少女のようだが、身体には何も着ていない。
金髪に青い目や緑の目をした少女達の耳は長く尖っていて、まるでおとぎ話に出てくる妖精かエルフのようだった。
先頭を飛んでいた、一番幼い少女の影が段々と近づいてきた。
「よし、今だ!」
数十隻の船団は、一斉に発光弾を宇宙に向けて放った。
何かを傷つける為の光ではなく、宇宙を照らす為に特化された光である。
小さな花火が宇宙に咲いた。
自分達が、ここに居る事を知らせる為の花火であった。
小さいが太陽にも匹敵するその明かりは、地球からも見る事が出来た。
ただ、不運な事は、それが余りにも小さすぎた事だ。
その時、エイレーネーは、身体を横にして、泳ぐように宇宙を進んでいた。
「えへへ、私が一番乗り〜!」
姉達との競争に夢中になっていた。
一番最初に、太陽の側に近づいた者が勝ちという事で、三柱の女神は競争をしていた。
先頭を飛んでいたエイレーネーは、小さな光に気づきもしなかった。
太陽に向かって伸ばした、彼女の右手の指。それは地球を摘める程の大きさだ。
その指先の中に、人類が対話のために派遣した全ての船団は一瞬で消え去った。
エイレーネーに衝突される最後の瞬間、船団の乗り組員達は、彼ら数百人の存在すら気づかずにはしゃぎまわる、『平和の女神』の姿を確かに見た。
三人の女神は、人類の対話の為の船団を消滅させると、そのまま太陽のすぐ側まで飛んでいった。
「うはー、参ったね、こりゃ。
お姉ちゃんの負けだねぇ」
アストライアーは、ぜぃぜぃと、荒い息をついた。
すぐ近くに太陽があるから、汗も出てしまう。
「そんなに急がなくても、玩具は逃げないわよ」
エウノミアーは冷静な様子で言ったが、やはり妹に負けた事は悔しかった。
こういう競争をすると、いつも勝つのはエイレイネーだった。若くてはしゃぎまわる幼い女神の勢いには、姉達も一目置いている。
3人揃ったところで、女神達は一休みにした。
「この辺りの星は、全部買ってあるんね?」
アストライアーが妹に確認する。
「ええ、ちゃんと買ったわ」
姉の問いに答えながら、エウノミアーが手を開く。
すると、光に包まれながら、小さな手帳…地球5個分位…が現れた。
「水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星、太陽。
9つの星、ちゃんと買ったわ」
手帳の中にある、星の名前を確認する。
宇宙を管理する神から、確かに、これら辺境の星を買い取った。
星の数は全部で9個である。
「じゃあ、3人で分ければ、丁度三つづつだね〜」
えへへ〜、どの星にしようかな〜?
エイレーネーは、地球と同じ位の大きさの瞳を輝かせて、太陽の周りを漂う小さな星々を眺めている。
どの星で、遊ぼうかな〜?
エイレーネーは悩む。
他の二人も悩む。
9つの星を、どういう風に分けて遊ぼうか?
三柱の女神の駆け引きが始る。
「2人には悪いけど…地球は私の物よ。
あとの二つは、余った星でいいけど…」
最初に言ったのは、エウノミアーだ。そもそも、お小遣いを出して星を買ったのは彼女である。
「まぁ、そだね。
ミアーが買ってきたんだし、それ位は仕方ないねぇ」
申し訳無さそうに言う妹に、姉は、うんうん。と頷いた。妹の胸の大きさを妬んではいても、そういう辺りは、さすがにお姉さんなのだろうか?
「ええええ〜!
わーん、私も、有機物付きが欲しいよぉ〜」
エイレーネーは、姉におねだりをする。やはり、彼女は妹である。
「だめ。
この前も譲ってあげたでしょ?」
間に挟まれた次女のエウノミアーが、一番難しい立場なのかもしれなかった。
太陽を背にして話し合う、三柱の女神達。丁度、地球から見える角度に3人は居た。
…ケンカしてるのか?
地球の赤池は、それを望遠鏡で見つめていた。
だが、三柱の女神達を見つめている者達は、彼女達のすぐ側にも居た。
それも、数百万人の人間達である。
宇宙を漂う戦艦が数万隻、一番小さなエイレーネーの背後に集結していた。地球圏の連合軍である。
彼らの総攻撃が始ったのは、正にその時だった。
先ほどの対話の為の船団とは違う。
彼らの放つ光は宇宙を照らす為では無く、物を壊すための光だ。
人類の宇宙戦艦の群れが、的を外すはずも無かった。
彼らの戦艦から数千キロ先に見えるのは、数億キロも左右に広がる少女の背中である。
理論上、太陽を破壊する事も可能な光の束が、エイレーネーの腰の付け根、尻と腰の間辺りを襲った。
何も着ていないエイレーネーのお尻の辺りが輝くのが、地球からも見えた。
「…ちぇ、仕方ないか〜」
だが、エイレーネーは、エウノミアーに答えて、つまらなそうな顔をした。
彼女は自分の背後の出来事には何も気づいていない。
太陽を破壊できる程度の攻撃では、彼女達には認識する事が出来なかった。
数万隻の宇宙戦艦が発した程度の破壊の為の光では、彼女達には細すぎて気づかなかった。
「うん、私も、『正義の女神』だもんね〜。
これ以上は言わないね〜…」
「んー、レーネもちょっとは大人になったかねぇ?
じゃあ、ご褒美に、お姉ちゃんの星もレーネにあげよかね」
我慢をしている妹に、長女のアストライアーは優しく声をかけた。
「いいよ…私、いつもワガママ言ってるし…」
遠慮するエイレーネー。
彼女の背中では、地球圏連合軍の全てを賭けた攻撃が続いている。
「もう…わかった。
地球が欲しいって、最初にワガママを言ったのは私だ。
私の取り分の、残り二つの星、2人で分けなさい…
…ちぇ、私の小遣いで買ったのに」
ぼそぼそと、エウノミアーは言った。
「んふふ、それでこそ、ミアーちゃんだねぇ」
「わーい、お姉ちゃん、ありがとう〜」
アストライアーとエイレーネーが声を揃えて言った。
エウノミアーの姉と妹は、息がぴったりだった。
結局、地球以外の星は、『正義の女神』と『平和の女神』で分けるように、『秩序の女神』が定める結果になった。
「まぁ、気になるのは、太陽だわねぇ?」
「うん、大きいもんね〜」
『正義の女神』と『平和の女神』は、お互いの取り分を話し合う。
地球以外の8つの星で、気になるのは、やはり太陽だ。
「うーん…これだけは、やっぱり3人で一緒に遊ぶ事にしようかぁ?
これを1人で玩具にして、あんた達に指をくわえて見てろとは、さすがに悪のお姉さんにも、言えないねぇ…」
「じゃ、私が遊ぶから、お姉ちゃん達が見てて…とも、言いにくいなー、悪のお姉さんの妹にも…」
今の自分達と同じ位の大きさがある、輝く星の事をアストライアーとエイレーネーは話している。
彼女達の本来の姿から考えれば、認識する事も不可能な小さな星なのだが、それでも、今の彼女たちにとっては、遊びがいがある星だ。
「んー、じゃあ、こうしようかねぇ?
まず、太陽は私の玩具って事にする。
それで、お姉ちゃんからのプレゼントって事で、みんなで遊ぶ。
…妹達、どうかねぇ?」
妹の女神達に反論は無かった。
少しづつ、女神達の話はまとまっていく。
一方、地球圏連合軍の攻撃も、引き続き行われていた。
彼らの事に気づきもしない、三柱の女神達。
無邪気な少女の姿をした巨人達に対して、自分達が無力である事には気づいていた。
だが、エネルギーがある限り、攻撃を続けなくてはならない。
それが、地球圏の想いを背負った者の義務だ。
地球連合軍は、エイレーネーの無防備な背中に向かって、攻撃を続けた。
その時、奇跡が起こった。
地球、月、火星。
三つの星に住む者達の思いを乗せた攻撃は、その想定される火力以上の力を生み出した。
何百億という、人の思いの集まりが生んだ奇跡なのだろうか?
それは誰にもわからないが、彼らの攻撃は、ついにエイレーネーへと届いた。
「…ん、何かくすぐったい?」
エイレーネーは、お尻の辺りが、むずむずとするのを感じた。
虫でも居るのかな?
彼女は、右手を何となく伸ばすと、地球圏連合軍に攻撃された腰とお尻の辺りをペシっと叩いた後、3回位、掻いてみた。
地球連合軍の起こした奇跡は、蚊が刺した程のダメージを『平和の女神』に与える事が出来たのだ。
宇宙空間を音も無く、少女の手が近づいてくるのを、戦艦に乗っていた兵士達は見つめていた。
無造作に迫り来る、地球を10個位は叩き潰せる11歳の手のひら。
地球圏連合軍の兵士達数百万人は、乗っていた戦艦ごと塵になった。
そうして、1つの奇跡を起こした数万隻の戦艦の大半は、宇宙から消滅した。
「で、後の星はどうするの?」
私には、関係無いけど。
エウノミアーが2人に尋ねる。
「んー、さすがに、あと三つは、お姉ちゃんが好きな星を選びなよ〜」
結果的に1つ多く星をもらう事になった末妹は、おとなしく身を引いた。
「お、優しいねぇ、レーネちゃん。
お姉ちゃん、なでなでしてあげる」
末妹を撫でながら、アストライアーは星を三つ選んだ。
彼女が選んだのは…
太陽の次に大きい惑星『木星』
綺麗な輪が付いた惑星『土星』
偉そうな名前が弄びたくなる惑星『天王星』
の三つだった。
「じゃ、私は他の四つだね〜?」
エイレーネーの取り分は、
最も太陽に近い惑星『水星』
何か綺麗そうな名前の惑星『金星』
こっそり人類が住んでいる惑星『火星』
何となく偉そうな惑星『海王星』
の四つだ。
残ったエウノミアーの取り分は、
良い子のみんなが住んでる惑星『地球』
という事になる。
残った太陽は、みんなで仲良く玩具にするのだ。
「じゃ、あそこの『水星』って、私のだよね?」
話がまとまると、エイレーネーは手近を回っている水星に目をやった。
少し宇宙を飛んで、それに手を伸ばす。
太陽から近いため、表面の温度が100度を越える灼熱の星、水星。
『平和の女神』は、迷わず手を伸ばした。
彼女にとっては、ちょっと温かい、小さくて丸い物だ。
人差し指の先の方に、押し付けて乗せてみた。
メリメリ。
ちょっと力を入れて押し付けると、水星にヒビが入ってしまった。
「いっただっきま〜す!」
満面の笑み。
何の迷いも無い。
水星が乗った指先に舌を伸ばして、舐め取った。
ちょっと温かい感触が、舌に伝わってきた。
噛みもしないで、飲み込んだ。
それが、水星という星が宇宙から消えた瞬間だった。
「あんた、いきなり喰うんかい…」
「飴じゃ無いんだから…」
2人の姉が、少し呆れていた。
太陽系に残った星は、あと8個。
地球に居る赤池は、水星が少女の口の中に消える瞬間まで、望遠鏡で光景を見ていた。
自分が住んでいる星と、自分の運命を何となく理解した気がした。
「じゃ、次は、あれやねぇ?」
アストライアーが金星を指差した。
何故か彼女のもう一方の手が、彼女自身の股の間へと伸びる。
女神達の休暇は、まだ始ったばかりだ…
(中編か後編に続きます)