人形遊びのパーノゥ

MTS作


0.旅館の入り口

小さい女の子が好む人形遊び。
手のひらサイズ…人間の10分の1〜20分の1程のサイズ…の、主に女の子の形をした人形を使った遊びである。
玩具の人形を玩具の家に済ませてみたり、服を着せ替えさせたり。
洋の東西を問わず、昔からある遊びである。
…何が楽しいんだろう?
男の子には、なかなか理解出来ないが、それでも女の子は人形の一つも持っているのが当たり前だった。
だが、それは幼い女の子に限った話である。
大人の女性が、そうした人形遊びをしていたら、それは異常とは言わないまでも、少数派だろう。
ある秋の暮れ、そろそろ寒くなってきた季節である。
接彦(せつひこ)は、出張先の宿として、しなびた温泉旅館を選んでいた。
大学を出たての新人社員が選ぶにしては地味な選択だった。
自動じゃない横開きのドアを開き、旅館の入口へと入る。
受付に従業員の姿は無い。代わりに、『巡回中。しばらくお待ちください』と、窓に張り紙がしてあった。
他には、着物を着た女が一人、佇んでいる。従業員という雰囲気では無い。接彦と同じく客であろう。
組織化されたホテルでは無いので、人手が足りなければ、こういう事もある。
…仕方ないか。
気分が悪いのは確かなのだが、自分と同様に待ちぼうけになっている客も居る。
接彦は、着物を着た女と暇つぶしに話でもしようと思って、彼女の方を見た。
彼女の方も入り口を開けた接彦の方を振り返っているので、丁度目が合った。
…あれ、意外と若いな。
成人式の時にしか着ないような、きちんとした和服である。
そんな着物を着ているくらいだから、もう少し上の世代かと勝手に思っていた接彦は、彼女の顔を見て少し違和感を覚えた。
まるで人形のように無表情だが、細くまとまっていて美人の域に入る顔だった。多分、年齢も自分と同じ位。少なくとも20代前半以前だろうと思えた。
手には、黒い風呂敷包みを持っている。布の鞄を待合席に置いているようだが、風呂敷包みだけは大事に抱えていた。
「お留守のようですね、従業員の方」
着物の女性の唇が動いた。唇だけが動き、表情は全く変わらない。
「そうみたいですね」
接彦は心ここにあらずといった様子で答えた。
着物の女性…よりも、彼女が抱える風呂敷包みに目が向いている。
何故だろう?
自分でもわからないが、彼はそれを見つめていた。
「こんな山奥に、スーツの方なんて珍しいですわね」
着物の女性の唇だけが動いた。
「い、いや、あなたこそ、そんな晴れ着みたいな着物で歩いてるなんて珍しいですよ」
接彦は答えた。
ネクタイを締めた背広も、整い過ぎた晴れ着も、しなびた旅館には不似合だった。
「うふふ…そうですね」
着物の女性は唇だけで笑った。
美人なのだが、機械的過ぎる。まるで人形のようだと接彦は思った。
…人形?
何故か、その言葉が胸に引っかかった。
「その風呂敷包みは、人形ですか?」
何故だろう?
特に根拠も無く、接彦は尋ねた。
「あら、何で人形だと思うのですか?」
着物の女性は、今度は目を細めて笑った。
何でと言われても、特に理由は無かった。
「じゃあ、私の大事なお人形、見せてあげます。
 後で私の部屋にいらして下さい」
着物の女は、目を細めたまま言った。先ほどまでの人形のような様子と違い、それはそれは嬉しそうだった。
文子(ふみこ)…
接彦が旅館の台帳に目をやると、彼女の下の名前が書いてあった。

1.日本人形とフランス人形

フランス人形を連れた、等身大の日本人形。
もちろん日本人形の方は生きている人間…旅館の入り口に居た文子なのだが、それにしても目立つ組み合わせだった。
接彦は、誘われるままに彼女の部屋へと来ていた。
古い旅館の個室は、さすがに鍵こそ付いているものの、室内は百年前から変わらないとも思える、畳に布団である。
接彦も、気楽な旅館の浴衣に着替えている。彼と日本人形のように着物を着た女性の姿は、そうした部屋にはよく似合っていた。
「あら、本当に来たのですね?」
少し驚いた表情の文子の声が、接彦を迎えた。
彼女の表情は、本当に驚いているのか、わざと演じているのか、少し微妙な表情だと接彦は感じた。
「そりゃ、せっかく誘われたんだし来るよ。
 来たのがそんなにおかしい?」
本当に驚いているにしては、少し驚きすぎだ。その辺りを、接彦は微妙だと感じていた。
「うふふ、それもそうですね」
文子は、目を細めて笑った。
…何を考えているんだろう?
接彦は、着物を着た美人の考えていることがいまいちわからなかった。
長い黒髪を、束ねる事もせずに腰まで落としている。
薄く化粧をしているのか、肌の色は白い。
…やっぱり美しい。
可愛いというよりは、安定感がある美しい着物の女性の姿だった。
そんな彼女が、行きずりの自分を部屋に誘ってどうするというのだろう?
娼婦にしては化粧も薄くて美しすぎるのだ。
「なあ、さっきのフランス人形、見せてくれないか?」
話を逸らす意味も込めて、接彦は文子に尋ねてみた。
実際、フランス人形にも興味があった。
「やっぱり、気になるのですね。
 どうぞ、ご覧になって下さい。
 私の大切な大切なお友達、フランス人形のパーノゥです」
接彦は答えると、部屋の片隅に布を掛けて置いてある、フランス人形の箱を取ってきた。
彼女が布を取ると、こちらは文字通りの人形、古い物語に出てくるような西洋の衣装を纏ったフランス人形が出てきた。
…何でだ?
上手く説明出来ないが、やはり接彦はフランス人形から目が離せなかった。
布を開くと、これが出てくる気がした。
…何で? 何でだ?
確かに、少し違和感がある。
フランス人形は、本来は幼女を模した人形だが、これは幼女というよりは少女に近い様相をした人形に見えた。
洋服に隠れてわかり辛いが、胸も膨らみ、体のラインも幼女というには大人過ぎた。あと、口を尖らせて目つきが悪い。
…可愛い事は確かなんだけどなぁ。
文子が美しいというなら、こちらは可愛いという表現になる。
だが、接彦が感じていたのは、そうした目に見える事柄では無かった。
「本当に人形だよね?」
思わず、接彦は口に出してしまった。
これが人形でなくて、何だというのだ?
文子が、人形のように見えたのと逆に、このフランス人形は、まるで生きているかのように接彦は見えたのだ。
「あら、おかしな事を言う方ですね?」
文子は、再び目を細めて笑った。
「こんな小さな人形が、人形じゃなくてなんだと言うのですか?」
文子は笑ったまま、フランス人形を封じている箱を開いて、人形を手に取った。
腰の辺りを鷲づかみにして、接彦の方に差し出す。
接彦は人形を握る彼女の手つきに目を奪われながら、言われるままにフランス人形に目をやった。
大きさは15センチ程。大体、人間の10分の1サイズだろうか?
丁度、片手で胴体を鷲づかみにするのに丁度良いサイズだ。
「い、いや…人形だよね」
当然、こんなに小さな人間が居るはずが無い。これは人形なのだ。
…わかってる。頭ではわかってるんだけど。
それでも、接彦は、この手のひらサイズのフランス人形から目が離せなかった。
よく見ると、やはり少し目つきが悪い。意思が強いというか好戦的というか、もしも人間だったら、あまり長時間、目を合わせたくないタイプだ。
「どうやら…貴方は、本当に感じてるみたいですね」
文子は、何故か嬉しそうな様子で言うと、フランス人形の方に目をやり、ウインクした。
目配せ…それは、何かの合図のようにも思えた。
いや、確かにそれは合図だったのかもしれない。文子の目配せを合図に、フランス人形の表情が変わったのだ。
少し悪かった目つきが、さらにつりあがった。可愛らしいフランス人形の顔が怒りに震えてるいる。
次に、その小さな唇が動いた。
「てめえ…何、人の体握ってんだコラ」
可愛らしい声とはアンバランスな言葉遣いで、フランス人形が喋った。
よく出来た人形だ。
「あら、人形の体を握って玩具にする事の何がいけないのですか?」
文子は、彼女が握っているフランス人形に答えた。
…まるで腹話術か漫才でも見てるみたいだ。
接彦は、日本人形とフランス人形の掛け合いに目を奪われる。
「生意気なお人形さんには、おしおきですよ?」
言いながら、文子は鷲掴みにしていたフランス人形を握りなおした。
彼女は両手で包むようにフランス人形を抱える。
それから、両手の親指と人差し指をフランス人形の体に這わせた。
「お前も好きだなー、全く…
 後でどうなるかわかってんだろーな?」
フランス人形が可愛らしい声で、何やら抗議の声を上げた。
「はい、大体想像はつきますよ?」
文子は澄ました顔で言うと、抗議の声を無視してフランス人形の洋服に手を掛けた。
フランス人形は、小さな手で、文子の指を掴んで抵抗を始める。本当によく出来た人形だ。
だが、フランス人形の力は、見た目通りの大きさに相応しい力のようだ。
精一杯両手で、文子の指を掴んでいるが、文子は静かに微笑むだけだった。
指を掴まれたまま、彼女はフランス人形の体を何度か撫でた。
貴方は小さな人形なのですから、抵抗しても無駄ですよ?
静かに微笑み、撫でる事で、そう伝えているかのようだった。
やがて、彼女の指は抵抗するフランス人形を無視して、彼女の洋服を脱がせるように動き始めた。
親指と人差し指が、手馴れた手つきで小さなボタンを外し、一枚づつ洋服を脱がせていく。
まるで機械のように一定のリズムで、彼女の指は人形の服を剥がしていった。
「ちょ、な、何すんだてめー!
 男が見てるんだぞ、男が!」
「だから、お仕置きだと言うのですよ?」
フランス人形の声に、文子は澄ました顔で答える。
まるで、巨人が小人を手に取って弄んでいるようだ。
接彦は、その光景を少し怖いと思った。
文子は、さすがに女の子なのだろう。
女の子の服の構造には詳しいようで、手際良くフランス人形の洋服を脱がしてしまった。
あっという間に、フランス人形はブラジャーとパンティーの下着だけの姿にされてしまった。
「どうです?」
文子は、相変わらず静かに微笑みながら、下着姿のフランス人形を接彦に差し出した。
キャーキャーとわめきながら、フランス人形は文子の手の中でもがいている。
「さあ、最後の一枚は、貴方がどうぞ」
言いながら、文子はフランス人形を接彦に手渡そうとする。
「お、おい、ふざけんな!
 見ず知らずの男とか、シャレになんねーぞ!」
フランス人形は、本気で嫌がっているようだ。
…ていうか、これ、本当に人形か?
どう見ても、生きているとしか思えない。
ちょこまかと動く様子が、小人サイズとはいえ、実際に生きている女の子にしか思えなかった。
そんな女の子が、下着姿にされて嫌がっているのだ。
「大丈夫ですよ、玩具のお人形なのですから、お気になさらず」
そんな彼の戸惑いを見透かしたかのように、文子が言った。
タイミングが良すぎる言葉だったが、接彦はそれを疑問に思う余裕が無かった。
それ程、彼女の手の中で動き回る小さなフランス人形に心を奪われていた。
言われるままに…欲求に素直に、接彦はフランス人形を手にとってみた。
「お、おい、なにすんだ、お前!
 変な事したら、怒っちゃうぞ!」
フランス人形が手の中で、じたばたとしている。
柔らかい手触りと温かい感触は、確かに生き物のようだった。
接彦は何も言わず、フランス人形の胸に手を伸ばして下着を脱がそうとする。
「こらー、やめろー!」
フランス人形が指を掴んできたが、それは文字通りにか細い腕だった。
ブラジャーを引きちぎる様にして剥ぎ取ると、余り大きくない胸が露になった。
「さあさあ、せっかくですので、下の方も…」
面白そうに覗き込んでいる文子の声。
接彦は言われるままに、フランス人形の腰の辺りを片手で掴んで、もう一方の手で彼女のパンティーを摘んだ。
「どうです?
 面白い玩具でしょう?」
「うん、すごい玩具だな」
嫌がるフランス人形の下着に手をかけながら、接彦は文子の言葉に頷いた。
プチ。
何かが切れる音。
聞こえないはずの音を、接彦は聞いた気がした。
「あん…そんなに楽しーか?
 何ならてめーらも、玩具になってみっか?」
フランス人形が、ドスの聞いた可愛らしい声で言った。
次の瞬間、彼女を握っている接彦の手が痺れた。
痺れは全身に広がり、接彦は気が遠くなった。
ほんの一瞬、接彦は気を失う。
次に目を開くと、フランス人形は彼の手の中には無かった。
…な、なんだ?
周囲を見渡すと、畳の部屋がどこまでも広がっていた。まるで大広間のように。
その中に、何か大きな物が2つ置かれている事に気づく。
一つは、着物を着て座っている巨大な彫像だろうか。見上げなくてはわからないが、その座っている下半身だけが見える。
もう一つは、巨大な人間の下半身だった。部屋のカーテンよりも大きな巨人のパンティーが膝の辺りまで脱がされているのが見えた。
露になった巨人の股の間を見る限り、その巨人は女の子だろう。
というより、明らかに文子とフランス人形である。
「どーだ?
 てめーの大好きな玩具のお人形になった気分は。
 パーノゥちゃんを、なめんなよ?」
可愛らしい声が、下着を脱がされた巨人…フランス人形の方から聞こえてきた。
声がした方を見るしかない。接彦が頭上を見上げると、フランス人形…パーノゥが彼を見下ろしていた。
上半身は何も纏っていない。下半身はパンティーを膝の辺りまで脱がされたまま、膝を崩すように座っている。
せめてパンティーを履き直せば良いのに、そこまで気が回らないようだ。
もう、パーノゥは手のひらサイズのフランス人形ではなかった。
彼女が接彦を、手のひらサイズの人形のように見下ろす番だった。

2.お人形のお人形遊び


「おい、聞いてんだから、答えろよ?」
聞き覚えのある、可愛らしいが口が悪いフランス人形の声だ。
だが、先ほどまでと違うのはその大きさだ。
「あらあら、今度は接彦さんがお人形さんになってしまいましたね」
涼しい声は、巨大な着物を着た彫像の方から聞こえてきた。
巨大な澄ました顔が見下ろしていた。日本人形だ。
「お、俺、人形にされたのか?」
文子とパーノゥが巨人のように大きくなっていて、部屋も広くなっている。
これは、むしろ自分だけ小さくされたと考えるべきだろう。
周囲の光景を見ると、そう思わざるを得なかった。
「…あん? 聞こえねーなー?
 もうちょっと近くで喋れ、チビ」
パーノゥの可愛らしい声。
その指が、伸びてきた。
彼女の細い指は、接彦の腕と同じ位の太さだ。それが、接彦の身体を摘まんで、摘まみ上げようとする。
少し冷たいが、接彦の体を摘まみ上げようとした彼女の指は人形ではなく、生きた人間の物だった。
胴体に彼女の指が回されると、強い力で締め上げられ、そのまま持ち上げられてしまった。
「たまには、こーいうのもいーなぁ。
 オレ、いつも人間に摘まみ上げられる方だもんな」
何故か気分良さそうに微笑んで、パーノゥは摘まみ上げた接彦を見ていた。
だが、突然、女の子の人形遊びサイズにされてしまった接彦は、訳が分からない。
「な、なんなんだ、これ?」
自分の身体を締め上げるフランス人形の指を掴んで、声を上げるしかなかった。
「ああ、この子は、自分に触れた物を人形のような大きさを変える力を持っているのです。人形ですから。
 なので、あまり気にしないで下さい」
フランス人形の隣にいる日本人形が、静かに言った。
いや、気にする。気にしない方がおかしい。
接彦は思ったが、声にならなかった。
「つーか、てめー、何で他人のふりしてんだ?」
パーノゥが、ギロリと文子を睨んだ。
「いくら親しくても、私たちはフランス人形と日本人形。
 出生が違う人形同士、他人ですよ?」
「るせー、黙れ」
パーノゥが言いながら文子に触れた。
…なるほど。
次の瞬間、文子が、文字通りに日本人形のような大きさになった。
「あらあら、私、まるでお人形さんみたいですね」
「てめーは、日本人形だろうが!」
パーノゥが、ぷるぷると震えながら、小さくした文子を見下ろしていた。きっと、怒りで震えているのだろう。
「ま、つーわけで…」
まだ、怒りで震えながら、パーノゥは左手で日本人形の胴体を摘まんで摘まみ上げた。
そうすると、パーノゥは、右手と左手に、それぞれ接彦と日本人形を握っている事になる。
「ふっふーん。どーだ?」
パーノゥは、両手に握った小人達を交互に見ながら自慢気に言った。
「なんか、絶体絶命って絵にも見えそうですね?
 巨大な怪物の手に囚われた、お殿様とお姫様の運命や如何に…みたいな?」
日本人形は、相変わらず澄ました顔をしている。
「はっはっは、そんな感じだな。
 よーし、このまま握り潰しちゃうぞ?」
パーノゥは親指と人差し指で胴体を摘まんだ状態から、しっかりと手のひらで両手に握った小人達を握り直すと、力を入れて握り始めた。
楽しそうなフランス人形の顔に、接彦は抗議する暇も無かった。
遊びにしては、やり過ぎだ。胴体を締め付けられて息が出来ない。これでは、本当にパーノゥの手で握りつぶされてしまう。
「お、おい、お前どーした?」
声を上げる事も出来ない接彦の様子にパーノゥは気づいて、あわてて手を放した。
接彦は畳に倒れたまま、まだ息が出来ない。
「あらあら、だめですよ?
 小人にした人間は、貴方が思ってるよりもか弱いのですから、そんなに本気で力を入れたりしたら…」
日本人形も心配そうに覗きこんでいる。
「う、うん。ごめん。ちょっとびっくりした。
 おい、死ぬなよ?」
「うんうん、死なれると後始末とか大変ですから、死んではいけません」
「そーだ。ばれないよーに後始末とか…いや、そーじゃないだろ」
キャーキャーと、女の子たちの声が聞こえる。
…な、なんなんだ、こいつら??
もう少し手に力を入れられたら、胸の骨を砕かれていたかもしれないが、幸い、かなり痛いだけで済んだ。
悪気は無いようだが、この女達には常識も無いようだ。
下手に刺激すると、本当に殺されるかもしれないと接彦は思った。
「お、なんか生きてるな。良かった良かった」
フランス人形が、体を起こした小人をじーっと見ていた。
「わ、悪いな。オレ、どっちかって言うと人間に玩具にされる方だから、よくわかんなくてさ」
「あ、ああ、別にいいけど…」
何だか気まずそうにしているフランス人形に、接彦は答える。
やっぱり、特に悪意は無いようだ。本当に握りつぶしてしまおうとしたのでは、無いだろう。
どうやら普通に話が出来そうになってきた雰囲気だが…
「そうですね。仕方ないので、小人の扱い方について、私が教えてあげましょう。
 なので、私を元の大きさに戻してくれませんか?」
澄ました顔の文子は、まだ真面目に話をする気は無いようだ。
「う、うん! わかった!」
パーノゥが言うと、彼女の手に握られていた文子が元の大きさ…人間サイズに戻った。
…あれ、こいつもパーノゥに握られてたんじゃ?
パーノゥは、両手を同じように握りしめていた。あれだけの力で握りしめられて、平気でいられるとは、とても思えなかった。
だが、余計な事を考えている暇は無かった。
接彦の頭上が暗くなる。
今度は日本人形の手が伸びてきたのだ。
「さあ…おとなしくしていて下さいね?
 あんまり暴れると、危ないですから」
彼女の巨大な手は、接彦をゆっくりと畳の地面に押しつけた。
力は、ほとんど入れない。
これだけの体格差になると、彼女の掌の重さだけでも、小人よりも重い位である。
手の重さだけをかけるようにして、文子は接彦を押し倒した。
それから、接彦の腕程もある指が、器用に彼の身体に触れてきた。
「可愛そうに、恐ろしい巨人にいじめられてしまいましたね」
言いながら、彼女の巨大な指がフランス人形に握られていた胸の辺りを撫でてくる。
…いや、文子さんも恐ろしい巨人です。
巨大な指で撫でられながら、接彦は思ったが口には出せなかった。
「さて、それじゃあ、貴方も脱いでみますか」
文子は、にっこり微笑んで言った。
それから、彼女の指が浴衣の帯へと伸びてきた。
糸でもほどくように、巨大な指が器用に指が帯をほどいてくる。
気づけば、接彦は浴衣を脱がされてしまった。
「お、おい…」
脱がされてから、やっと接彦は声を上げた。
それ程に自然な動きで、痛みも無く、服を脱がされたのだ。
裸になって、畳で呆然と巨人達を見上げるしかなかった。
「すげー、オレ、初めて見た…」
文子はともかく、パーノゥは目をギラギラさせて見下ろしてくる。
「いーじゃん、隠すなよ!」
接彦は、さすがに恥ずかしいので股間を隠そうとしたが、パーノゥの指が彼の腕を押さえつけ、そのまま彼の身体を摘まみ上げた。
じーっと、フランス人形は小人の身体を観察している。
「俺が悪かったから、そろそろ許してくれ…」
よくわからないが、とりあえず接彦は謝った。
「そーだな、そろそろ許してやるか」
「そうですね。あんまり玩具にしても可愛そうですし」
巨大な顔を見合わせて、二人が頷いている。
…良かった。やっと人形遊びから解放されそうだ。
「じゃ、今度はオレが着せてやるからな。感謝しろよ?」
パーノゥが言った。
どうやら、まだ人形遊びからは解放されないらしい。
パーノゥの不器用な指が伸びてきた。
…結局、なんなんだ、こいつら?
浴衣を着せられながら、接彦は考える。浴衣を着せられる際、浴衣の帯で絞殺されそうになってしまう。やはり、パーノゥは小人の扱いに慣れていない。
考えるうちに、気が遠くなってきた。
眠い…眠すぎる。
「お人形も長い間生きていると、ちょっと変わったお人形になってしまう事があるのです。
 そんな私達の事を感じて頂けるのなら、ご主人様になって頂く事も出来るのですが…」
文子の声が、やけに遠くの方で聞こえる。
「うんうん。覚えてたらまた会おうぜ。
 もし、覚えててくれたら、今度はずっと一緒だぞ?」
パーノゥの声も、随分遠くで聞こえる。
やがて、接彦の意識は遠くへ消えてしまった。

3.パーノゥと文子は今…

それから、接彦は東京に帰って来た。
帰ってからは、いつもと同じ、日常を繰り返している。
…旅館で、何かとんでもない事があった気がするんだけど…
怖かったような、楽しかったような、恥ずかしかったような…
そんな感情だけが残っていた。昨日見た夢を、忘れてしまった時のような感じだ。
はっきりした事は思い出せない。感情と感覚だけが残っていた。
…そして。
ある駅からの帰り道、近所の質屋の前で接彦は足を止めた。
まだまだ見かける事の多い、中古販売何でも屋のような店である。
色んなものが置いてある。貴金属類、着物、書籍、フランス人形や日本人形など。
丁度、ショーウインドウに飾られているのが、澄ました顔の日本人形と、口を尖らせたフランス人形だった。
…な、なんだこいつら?
まるで人形達に見られているような、違和感を覚えた。
だが、それは不快な感じでも無かった。
…結構高そうだな。
まるで生きている人間のような人形たちは、安物とは思えなかった。
それでも…
接彦は、人形を買おうと思った。
まるで人形達に誘われるかのように…

(完)


( ̄_ ̄)ノ あ ( ̄_ ̄)ノ と ( ̄_ ̄)ノ が ( ̄_ ̄)ノ き

(⌒∇⌒) ノ多分続きませんよ!

でも、気分転換に書くには良い感じだったので、
続けるか、次の同人ゲームのネタにはするかもしれません。

( ̄_ ̄)ノ え? 次の同人とか言う前にライムジュース完成させろ?

(⌒∇⌒) ノ ごもっともです!

作業の気分転換に関係無い文章書きたくなる位には、作業してます。はい。

( ̄_ ̄)ノ お ( ̄_ ̄)ノ し ( ̄_ ̄)ノ ま ( ̄_ ̄)ノ い