歯磨き刑
※この話は残酷な表現が含まれているのでご注意下さい

MTS作

白い、巨大な洗面台。
その上に男達は乗せられていた。
無地の白い服に裸足の彼らは、囚人である。
洗面台の上、彼らの身長ほどもある蛇口からは、水が滝のように流れている。
もしも水の流れに巻き込まれたら、屈強な男たちでも下水に流され、命は無いだろう。
だが、恐ろしいのはそんな水道の蛇口では無い。
少しすると、巨大蛇口に手が伸びてきた。
巨大蛇口の大きさと釣り合う大きさの手だ。
男達が数人がかりでやっと回せる巨大なバルブを細く白い指が摘み、回していく。
ゆったりと上品な仕草で巨大バルブを捻る指は、若い女の指だった。
光景に慣れない新入りの男は、軽々と巨大バルブを捻る手の持ち主を見上げてしまう。
あまり表情の無い、静かな若い女の顔が見下ろしていた。
30分の1以下のサイズに縮小され、奴隷として働かされている男達にとっては、こうして見下ろしている人間サイズの若い女が主人であった。
若い女の目は、微かに笑うようにして洗面台にいる男の方に向いている。
…楽しんでやがるのか。
巨大な目に見下ろされる恐怖と屈辱を悔しく思いながら、男は女から目を逸らした。
「私が怖いの?
 ちゃんと言う通りにすれば、捻り潰したりしないから大丈夫ですよ」
女は言いながら、水道のバルブを軽く指でなぞるようにした。
わざとらしく、自分の身体の大きさと男達の小ささを見せつけているんだろうと、新入りの男は思った。
だが、いくら悔しくても、身長5センチ程の虫サイズに縮小されてしまっては、水道のバルブを捻るよりも簡単に背骨ごと身体を捻られてしまうだろ う。
この若い女が誰なのか、名前も知らない。
ここがどこなのかも、男達にはわからない。
ただ、ここで奴隷として奉仕し続ける以外に生きる術が無い事だけはわかった。
「半年の辛抱なんだから、我慢しろよ…」
新入りの男の横で、別の男が小声で呟いた。
そう…半年。
半年だけ耐えれば良いのだ。
この縮小刑の刑期は半年。
半年の間、縮小された身体で奴隷として、若い女の身の回りの世話をする事が刑罰の内容である。
何故、若い女の世話なのかよくわからなかったが、こうして洗面台に上げられて、ようやく意味が分かった。
…これが、若い女?
自分達を見下ろしている巨人。
余裕たっぷりに巨大バルブを軽々と捻る若い女の姿からは恐ろしさを感じるのみだった。
可愛らしい女の姿をしているだけに、さらに屈辱的でもあった。
「ちょっと待っていて下さいね。
 もうすぐあなた達も、ご飯の時間ですからね」
言いながら、女は先にブラシが付いた、巨大なプラスチックの棒を手に取り、水道から流れる滝のような水でブラシを濡らした。
要するに歯ブラシを水で濡らしただけなのだが、その仕草だけでも縮小された男達を圧倒するのに十分だった。
特に、新入りの男にとっては、巨人の一つ一つの動作が全て衝撃的である。
…こんなのに慣れる事なんて出来るのか?
悔しいが、巨大な歯ブラシを手にした女の指が口内を磨くのを、新入りの男は恐怖に震えながら見上げるしかなかった。
口元から見える若い女の歯が、岩のように見えた。
低く、鈍い音を立てて巨人の歯ブラシが岩を磨いている。
どんなに可愛い女の子でも、そうでない女の子でも口の中は大差無い。
それが、30倍サイズともなれば、それは恐ろしい洞窟のようにも見えた。
だが…
彼らは、その恐ろしい洞窟に入らなくてはならない。
今日の彼らの奉仕作業は、あの口の中に入り、岩のような彼女の歯を磨かされる事なのだ。
しばらく、若い女は巨大なブラシで歯を磨いていたが、やがて手を止めてブラシだけを水で洗った。
「さ、それじゃあ皆さん、お待ちかねのご飯の時間ですよ」
口の中は水で流さないまま、若い女は言った。
ご飯の時間…
はっきりと言う若い女の言葉が、また悔しい。
男達は、朝から食事を与えられていない。
新入りの男も、耐えがたい空腹を感じている。
若い女は、洗面台の脇から、歯間ブラシやフロスを取出し、男達の前に無造作に置いた。
自分たちの身体ほどもある巨大な歯磨きの道具が、彼らにとっては食器でもあった。
…ちくしょう。
新入りの男は、言われるままに手頃な歯間ブラシを手に取った。
これで、今日の食糧…若い女の歯に残った食べカスを削ぎ落とし、食べるのだ。
「慣れろよ。それしか食い物無いんだからな、『歯磨き』の日は」
「ああ、『トイレ』の日よりは、よっぽどマシだぜ」
周りの男達が、新入りの男に声をかけた。
確かに、彼らの言う事はわかる。
言う事を聞かなければ、明日も歯磨きの奉仕をさせられる。
ずっと言う事を聞かなければ、いずれは餓死だ。
運が良ければ、女の気まぐれで、捻り潰してくれるかもしれない。
そうすれば、あまり苦しまなくて済む。
…ちくしょう。
死にたくなければ、言う通りにするしかない。
新入りの男は、手にした歯間ブラシを見ながら覚悟を決めた。
「何だか、すいませんね。
 女の子の歯に付いた汚い食べカスがご飯だなんて、情けないですよね」
若い女は、小馬鹿にするように言う。
「でも、そういう罰ですからね。
 皆さんは、悪い事をしたんですから、仕方ないんですよ」
そう言って、クスクスと笑った。
それから…
彼らにとっては身体ほどの大きさもある、小型の歯間ブラシやフロスを手にした男達は、次々と若い女に摘まみ上げられていった。
摘まみあげられた男たちは、舌に乗せられて口へと運ばれる。
新入りの男は最後に順番が回ってきた。
巨大な指に身体を包まれ、思わず振りほどこうとしたが、女の指は構わず彼の身体を摘み上げ、口元へ運んだ。
大きく口を開け、見せびらかすように舌を動かしている。
その舌が、指に挟まれた男の身体に伸びてきた。
…う、うわ。
柔らかくて生温かくて、とても重い。
若い女は軽く一舐めしただけなのだが、新入りの男にとっては、女の舌は自分の身体よりも遥かに大きくて重い。
押しつぶされそうな衝撃と、唾液の海に溺れてしまう。
新入りを弄んでいる。文字通り、なめている。
抵抗する間も無く、そのまま新入りの男も口の中に入れられた。
歯磨きと…そして、食事の時間の始まりだ。
女の口は、軽く開けただけでも、男達の背よりも遥かに高いので、小さな彼らは上の歯には届かない。まずは下の歯の掃除だ。
歯の内側、歯茎の辺りに立ち、男達は、それぞれ女の歯磨きを始める。
…こ、これ、思ったよりも重労働だな。
新入りの男が想像していたよりも女の口内は蒸し暑く、また、実際に目の辺りにした女の歯は大きかった。
それに、唾液でよく濡れた口内、柔らかい肉の上は立っているのも難しい。
縮小された身体にとっては、若い女の口内は厳しい作業場だった。
女の唾液と食べかすの匂いに満ちた口内で、新入りの男も他の男達のように作業を始める。
作業の分担は事前に決めていて、右側の奥歯が彼の担当だった。
自分の腰ほどの高さもある若い女の奥歯を相手に、彼は戸惑う。
奥歯の表面は若い女が自分の手で磨いていたが、少し広いテーブル程に感じた。
でこぼこした岩のような、広い奥歯の表面を磨けと言われたら、5分やそこらでは難しかっただろう。
男達の仕事は、そうした広い部分ではなく、歯の間や、歯と歯茎の間の細かい所なのだ。
歯の根元の方を見ると、なるほど、何かの野菜の食べカスと思われる物が少し溜まっている。
…これなら、我慢すれば。
見かけは良くないが、まだ新しい食べカスは、女の唾液まみれになった食料とも言える。
新入りの男はフロスの柄の部分で、歯と歯茎の間の食べカスを削ぎとり、口にした。
若い女にとっては、ひとかけらの食べカスも、縮小された男達にとっては貴重な食料だ。食事を与えられてない彼らにとっては、尚更である。
…我慢…我慢だ。
まるで、ばい菌…虫歯菌のような食事を軽く取った彼は仕事に戻る。
女の歯磨きの手を抜くわけにはいかない。
手を抜けば、もっと恐ろしい罰を与えられるかもしれない。
何しろ、こちらは数センチのサイズにまで縮小された、虫のような存在なのだ。
女の歯の間に付いた食べカスを掃除するのに相応しい、この身体では、自分が食べカスにされても不思議ではない。
新入りの男は、まずは歯と歯茎の間の食べカスをブラシで削ぎ落としていく。
腰を屈め、ピンク色の巨大な歯茎を相手にした掃除だ。
とりあえずブラシでこすって汚れを剥がしさえすれば良い。
そうすれば、後は女が自分で口をすすぐ。
彼らに求められているのは、あくまで歯ブラシとしての役割だ。
生きた歯ブラシ…人間歯ブラシである。
新入りの男が巨大な歯茎をブラシで擦ると、すぐに血がにじんできた。
…こいつ、少し歯茎が悪いのかな。
歯茎から流れる血に、新入りの男は驚いたが、縮小された自分の身体から見れば大量の血でも、女にとっては、少し歯茎から血が出ただけなのだろうと 思い直した。
汚れた女の血の悪臭に耐えながら、男は作業を続ける。
歯の根元は、それ程苦労せずに掃除出来たが、歯の間の掃除は力仕事だった。
歯茎がボロボロというわけでは無いようで、歯の間には、そんなに大きな隙間があるわけでもない。
岩石の間をこじ開けるように、歯の間にブラシを差し込んで掃除を続けた。
そうすると、古くなった食べカスが出てくる。
毎日、男達が交代で歯磨きをしているのだが、それでも落としきれない汚れが、多少はあるのだ。
…うわ、これはキツイな。
口内で古くなった食べカスは、それこそ、ばい菌のエサのようだった。
だが、新入りの男が恐ろしかったのは、その悪臭よりも、自分はそんな食べカスと大して変わらない大きさだという事だった。
彼らを奴隷として扱う女にとっては、食べカスも男達も同じような大きさなのだ。
余りの大きさに忘れそうになるが、この薄暗い洞窟は若い女の口の中である。
目の間の白い岩壁は彼女の歯で、足元のピンク色の壁は女の歯茎なのだ。
縮小された奴隷としての立場を実感しながら、男は下の歯の掃除を続けた。
やがて、下の歯の掃除が一通り終わる頃合になると、薄暗いピンク色の世界…女の口が動いた。
口の間から差し込んでくる光が少なく、薄暗い口内が、さらに薄暗くなる。
女が口を閉じ始めたのだ。
上を見上げると、下の歯と同じく岩壁のような白い歯が降りてくる。
こんな巨大な歯に挟まれたら、文字通り、噛み潰されてしまうだろう。
逃げようと思っても、逃げ場は無い。
奥へ行けば体内に飲み込まれて、より確実に死を待つだけだ。
だが、もちろん若い女は、口内の男達を噛み潰すわけではない。
口を閉じかけ、上の歯を男達の手の届く所まで降ろし、磨かせるのだ。
さらに薄暗くなった口内で上の歯を磨くのは、下の歯を磨くよりも難しかったが、男達は必死に仕事を続けた。
口を閉じかけた分、口内の熱気も増し、唾液と食べカスの匂いも厳しく、耐え難いものとなった。
…だ、だめだ、早くここから出してくれ…
このまま閉じ込められていたら、それだけで気を失ってしまいそうだ。
ちゃんと歯を磨き終えれば、ここから出してもらえる。
…そうだ、早く…早く磨かなきゃ…
いつしか、新入りの男はプライドや恥ずかしさのようなものを無くしていた。
若い女の口の中で、生きた歯ブラシとして奉仕する事に、新入りの男はなれ始めていた。
こうした屈辱に慣れられない者も多いが、そうした者達は早死にするだけである。
プライドや人間性を無くし、虫サイズの身体の自分と主人である女の大きさに慣れた者が長生き出来るのだ。
やがて…
男達は、若い女の口の中から開放された。
今回の奉仕は、ひとまずの終わりだ。
優しい電灯光が差し込む外の世界を、男達はありがたく感じる。
「ご苦労様です。
 初めてにしては、まあまあでしたね」
若い女は口を水で数回すすいだ後、口元をふきながら男達に声をかける。
…半年後には私のおやつになる所までが刑期ですから、がんばって下さいね。
若い女は、のどまで出かかる言葉と笑いを我慢する。
刑期が過ぎ、解放されると思っていた男たちをゆっくりと噛み砕く事。
それが、彼女にとっての一番の楽しみである。