もしも魔王がギガで結構残酷だったら 文・MTS 0.12歳の魔王 「…というわけです」 お姉ちゃんが言った。 …どういうわけだっけ? あたしは、あんまりお姉ちゃんの話を聞いていなかった。 「ベルーチェ! あなた、話を聞いていなかったでしょう?」 お姉ちゃんが言った。 牙を剥き出しにして、尻尾を逆撫でて怒鳴っているから、お姉ちゃんは怒ってるみたいだ。 黒い羽根と、お尻の上辺りに生えた尻尾も、何だか上を向いて逆立っているようだ。 うーん… 話を聞いてなかった事、ばれてるみたい。 あたしは尖った耳を押さえて、お姉ちゃんの小言に耐えた。 「もう… あなたも12歳になったんだから、世界の一つや二つ、征服してこないとだめよ? そうじゃないと、一人前の魔王とは言えないわよ」 かしこまった振りをしているあたしに、お姉ちゃんは、もう一度説明をした。 何の事は無い。 12歳になった魔王族のあたしに、世界を征服してこいと言うだけの事だった。 「ちょうど、ニンゲンっていう生き物が住んでいる世界が手ごろに育ってるみたいだから、そこに行ってきなさい。 征服してくるまで、帰ってきちゃだめよ!」 有無を言わせない、お姉ちゃんの言葉。 うーん…仕方ない。 あたしは、ニンゲンっていう生き物が住んでる世界を征服に行くしかないみたいだ。 でも、ニンゲンって、どんな生き物なんだろう? 気になるよ、さすがに。 「ねー、お姉ちゃん、ニンゲンってどんな奴らなの?」 あたしの言葉を聞くと、お姉ちゃんの表情が変わった。 何か含みがあるように口元を歪ませて、あたしに笑ってみせた。 「うふふ、気をつけなさいね。 ニンゲンは怖いわよ?」 い、いや、ちょっと待ってよ。 怖いの?? あたしみたいな、世界征服が初めてっていう女の子の魔王をそんなのが住んでる世界に送り込むつもりなの? お姉ちゃん? 少し意地悪だけど、魔王族にしては正直で嘘をつかないお姉ちゃんの言葉だ。あたしの尻尾は、怖くて下を向いていた。 「例えば戦士って呼ばれるニンゲン達は、自分の体程もある大きな剣や槍を振り回したりするのよ」 お姉ちゃんが言った。 自分の体程もある武器を振り回すって…うわー、すごいなぁ、ニンゲンって。 あたし、そんなの持ち上げる事も出来ないなぁ… ニンゲンっていう生き物の力に驚いた。 「それに魔法使いって呼ばれる人間達は、戦士達の力を何倍にもする魔法の武器を与えたり、色んな魔法を使ったりも出来るのよ」 う、うわぁ、そんな魔法の専門家まで居るんだ。 どうやらニンゲンっていうのは、戦士や魔法使いや、色んな力を持った奴が居るみたいだ。 そんな奴らが力を合わせて襲ってきたら? うわー、怖いなぁ… 「だけど、安心していいわよ?」 怖がるあたしの心を見透かすようにして、お姉ちゃんが言った。 「ニンゲンはね、体の大きさが、せいぜい2メートル位なの。 …笑っちゃうでしょ?」 「…は?」 2メートル?? あたしは耳を疑った。 2メートルって、単位が間違ってない? 「あら、聞こえなかった? 『2メートル』って言ったの」 お姉ちゃんが、改めて言った。 だから、あたしは思わず吹いてしまった。 「あはははは、何それ! 笑っちゃうね!」 どうやら、お姉ちゃんにからかわれたみたい。 でも、あんまり面白過ぎて腹が立たなかった。 だって、体の大きさが2メートルの生き物なんて言われた日には、笑いが止まんないよ? あたし達、魔王族の身長は、大体1500〜2000キロメートル。 まあ、それ位の大きさって別に普通だよね? あたしはニンゲンっていう生き物の、あまりの小ささに驚いた。 ぶっちゃけ、それじゃ小さすぎて見えないよ? それなのに戦士だとか魔法使いだとか言うんだね、人間って。 「あははははは、ごめんね、お姉ちゃん。 笑い、止まんないよ」 あたしとお姉ちゃんは、しばらくの間、仲良く一緒に笑ってた。 怖がって損しちゃったよ、全く。 戦士? 魔法使い? 見えない位ちっちゃな生き物が、何を言ってるんだろう? どうやら、ニンゲンっていうのは、相当ネタ満載の生き物らしい。 まあ、いつまでも笑っていたって仕方ないから、あたしはニンゲンの世界へと行ってみる事にした。 1.魔王の光臨 テラーダの街…って言うんだってさ。 あたしは、ニンゲン共の世界で一番大きな街にやってきた。 ニンゲンを観察してみたいって思ったから、かなり体を小さくして遊びに来てみたの。 服装は、女の子の魔王の正装。黒い水着みたいな服装ね。 黒い羽根を広げて尻尾を探すと、サキュバスさんと間違えられちゃうのが、ちょっと腹が立つかな。 あたし達魔王は、サキュバスさん達ほど変態じゃないもん。失礼しちゃうわよ、全く。 …と、そんな事はどうでもいいよね。 そんなわけで、ニンゲン共の街に着いたあたしの足元には、あたしの靴と同じ位の大きさの、ちっちゃい箱がいっぱい並んでるの。これが、多分、ニンゲンの家なんだろう。 箱の中からは、なんだかちっちゃい生き物がいっぱい出てきた。 地面の上で、二本の足でのろのろと逃げようとしている生き物が沢山居る。 これがニンゲンかな、きっと。 あたしは、屈みこんで、適当に一匹を摘み上げてみた。 逃げ回っている一匹のニンゲンの前に人差し指を立てて逃げ道を塞いで、親指も使って挟んでみたの。 …あ、なんか暴れてるみたい。 あたしの指の間で、あたしの指の厚みと同じ位の小さな生き物が、わめきながら暴れてた。 「こら、うざいから暴れないでよ。 よく見えないでしょ?」 ニンゲンを観察してみたかったあたしは、指の間に挟んだニンゲンを脅しながら、少し力を入れた。 くしゃ。 …あれ? 指の間で、何かが砕けるのを感じた。 見ると、あたしが摘んでたニンゲンの胴体が真っ赤になっている。んー、潰しちゃったから、中の体液が出てきたのかな… 見れば、口の辺りからも真っ赤な体液を泡みたいにこぼしている。ちっちゃな黒い目がひっくり返って真っ白だ。あはは、なんか、ちょっと可愛いな。 あーあ、でも死んでるなー、これ。あたし、ニンゲンを一匹、指の間で潰しちゃったみたいね。 これ、男の子だったのかな? なんか、胴体が潰れてわかんないけど、胸とか平べったいから、男なんだろう多分。 …ま、どーでもいっか。 あたしは、動かなくなった生き物を捨てた。 ニンゲンって生き物は、とっても脆いみたいだ。 摘み上げるにしても、注意しないと簡単に潰してしまう。いや、まあ潰すのも結構気持ちいいから、別に良いんだけどね。 あたしは故意や不注意で何十匹かの人間を指の間ですり潰しながら、ようやく一匹のニンゲンを、生きたまま摘み上げた。 じーっと、あたしの指の間で暴れる生き物を観察してみる。 二本の手に、二本の足。 尻尾や羽根は生えてないけど、あたし達と似たような姿をした生き物だ。 ふうん… こんなのが育ってる世界もあるのね。 あたしは観察を終えたニンゲンを指ですり潰した後、改めて周りを見てみた。 いつの間にか、結構な人数のニンゲン共が集まって来ている。 これが、男の戦士かな? へー、お姉ちゃんが言ってた通りね。自分の身体ほどもある武器を振り回しちゃうなんて、すごいよねー。 だけど、あたし、今の大きさでも、ニンゲンの戦士共が、そうやって持ってる武器を1000本位まとめてへし折れるし、悔しくないもんね。 …と、気がつけば、そんな風に武器を持った戦士達があたしの足元に集まっていたのだ。 こいつら、あたしと戦う気かな? まあ、戦う気なんだろうな。 ふうん… あたしの指の厚みと同じ位の大きさなのに、ニンゲンって勇敢だねー、すごいねー。 笑いを堪えるのが大変だ。 あたしに勝てるとでも思っているのか、何十人かの戦士達が、あたしを取り囲んで何やら武器を構えてる。 弧状に湾曲した棒の間に、糸が張られている。張った糸の間に、細い針みたいな物を当てて、あたしの足に向けてるの。 んー… ちっちゃいけど、弓矢かな?? わー、弓やかー、すごいねー。ふーん。 ぷ…くくっ… あはははは! あー、だめ。もう限界。笑うのを我慢できなくなってしまった。 あたしに勝てると、本気で思ってるのかな、このニンゲン共って。 いやー、ほんとに面白い玩具だわ、こいつら。 お姉ちゃんが、この世界をあたしに紹介してくれた理由がわかった。 あたしみたいな、新米の魔王が楽しみながら征服するのに丁度いいわ、ここ。 ちょっとだけニンゲンを観察したら、さっさと元の大きさに戻ろうと思ってたんだけど、もうちょっと、今の大きさでニンゲン共で遊んでみようと思った。 それにしても、ニンゲン共っていっぱい居るわねー? 無数に並んだ小さな小箱。 それぞれがニンゲン共の家だから、その中には何人かのニンゲンが住んでるわけだ。 あたしがニンゲン共の街を見渡していると、風を切る微かな音と共に戦士達の矢が放たれた。 あー、そういえば、居たっけ。こんな奴ら。 すっかり忘れてた。 戦士達の放った矢は、私の脛の辺りに刺さる。 戦士達の矢は、あたしの皮膚をえぐって肉にと突き刺さる。 …でも、だから何? 別にダメージは無い。 魔王にダメージを与えるにしては、ちょっと弱すぎるんじゃない? いくら、この世界のニンゲン共に合わせて小さくなってるからって、こんなのじゃ効かないよ? 急速に、ニンゲン共に対する興味が失せていくのがわかる。 この戦士共を踏み潰して、遊びは終わりにしようかな。 そんな事を思いながら、あたしは脛の辺りを手で叩いて、矢を叩き落とした。 すると、意外な事が起こった。 あたしが脛の辺りを手で叩くと、その足元で弓を構えてあたしを取り囲んでいた戦士達が空を飛び始めたのだ。 というか、あたしの手がパンパンと勢いよく脛を叩いたもんだから、その風圧に巻き込まれて、ニンゲン共が埃みたいに舞い上がってしまったんだろう。 戦士達の大半は、あたしの膝位の高さまで舞い上がると、地面に落ちて動かなくなってしまった。 むむ、これは予想外だ。 魔王のあたしにも予想できない事をするなんて、生意気なニンゲンね。 …ま、いいか。 かろうじて地面に踏みとどまっているのは、生き残りの戦士達。 あたしは、サンダルを履いた片足を上げると、何も言わずに彼らの上に足を下ろした。 ずしーん。 何十個かの小箱…ニンゲン共の家だっけ? それらと一緒に、あたしに矢を放ったニンゲンの戦士共はあたしの足の下に消えた。 まあ、楽勝よね。 幾つかの小さな物が、足の下で潰れていくのを感じた。 んー…気持ちいいな。 足に伝わってくる感触を楽しむ。 これも、魔王の楽しみって奴よね? 満足感に浸りながら、あたしは体重をかけて足を地面に擦りつける。 ニンゲン共の体から赤い体液が染み出したせいか、少しサンダルが濡れたみたいだ。 …さてと、遊びは終わりにしようかな。 元の大きさに戻ろうとするあたし。 そこで、また、意外な事が起こった。 何かが足元で閃いた。 紫色の光が、あたしの大事にしてるサンダルを貫いた。 その光は勢いを弱める事無く、あたしの足の甲を貫いた。 ほんの少し。 ほんの少し…だけど、確かに、あたしは痛みを感じた。 目をやると、一匹のニンゲンが居た。 青く光る鎧を身に着けて、白い光を放つ剣を持ったそいつの姿は、さっきまでの戦士達とは明らかに違っていた。 そいつが振り下ろした剣の先に、あたしのサンダルがあった。 もしかして…勇者ってやつ? 戦士の力と魔法使いの魔力を併せ持った、突然変異のニンゲンが居るってお姉ちゃんが言ってた。 …ふうん。 いやー、ほんとにすごいね。 うんうん。すごいよ。 ニンゲンの勇者って、ほんとにすごいなーと思った。 だって、ニンゲン共は今のあたしの足の指と同じ位の背の高さなんだよ? それなのに、あたしの体に傷をつけちゃうんだもんね。 あたしは、もう少しだけニンゲンに興味を持った もうちょっとだけ… 生意気なニンゲン共と遊んであげようかな? あたしは湧き上がる笑みを我慢できなかった。 2.魔王と勇者 ニンゲン共の100倍程の大きさのあたし。 あたしのサンダルでさえ、ニンゲンどもにとっては巨大な壁のようにそびえてるはずだ。 それでも向かってくるニンゲンの勇者君は、あたしの興味を引いた。 あはは、いつまで、あたしに向かって来れるんだろうね? あたしは勇者君の攻撃を受ける度に、少しづつ体を元の大きさに近づけてみる事にした。 ニンゲン共の100倍だったあたしの体が、勇者君が攻撃するたびに段々と大きくなっていく。 勇者君から見て徐々に大きくなる、あたしの姿。 最初は、あたしの手の指の厚さ位あった勇者君も、今では、あたしの爪の厚みと同じ位の大きさになっている。 しゃがみこんで顔を近づけてあげて、じーっと見てやらないと、勇者君が居るのがわかんなくなる位にあたしが大きくなった頃には、勇者君の攻撃もあたしに傷一つ付けられないようになっていた。 んー、今のあたしの大きさ、大体1.5キロメートル位。元の大きさの1000分の1位かな? ま、この辺りが勇者君の限界って感じかな。 勇者君が何をしてるんだか、ちっちゃくてよく見えないんだけど、剣を振ったり魔法を使ったりしてるんだと思う。 たまに、ちかちか光ってるのが見えるもん。 あはは、すごいなー。 もう、どんなにがんばったって、どうにもならない事なんてわかってるだろうに、まだ諦めないのかな。 まさか、力の差に気づかない位に馬鹿なわけじゃないよねー? 大きくなるのをやめて屈み込み、しばらく勇者を見物している、あたし。 でも、さすがに、そろそろ飽きてきたかなー… 勇者君の力の限界も見せてもらったし、もう十分だよね。 そろそろ、玩具の勇者君と遊ぶのも終わりにしようと思う。 冗談とか皮肉じゃなくて、勇者君はがんばったと思うの。 だって、あたしだったら、こんな巨人見たら、怖くて攻撃しようなんて思わないもん。 うんうん、すごいよ。人間の勇者君。 …でも、残念だよねー? 小さすぎるんだもん、勇者君。 実際、あたしは、そんなに強い勇者君をいつでも指先で一捻りに出来るわけだしね。 ていうか指なんか使わなくても、ちょっと息でも吹きかけてやるだけで、勇者君は見えなくなっちゃうかな。 さってと、どうしちゃおっかな? 未だにあたしのサンダルと戦っている勇者君をどうしてやるか、ちょっと悩む。 息を吹きかけてやるのも良いけど、勇者君、せっかく頑張ったんだし、一思いに指で潰してあげるのが優しさかな?? うーん、悩むなぁ… 色々考えてみて、あたしは結論を出した。 ひとまず、勇者君から目を逸らして街を見渡してみる。 結構広いなぁ… 一跨ぎにしてしまうには、ちょっと広い街だと感じた。 …あ、いや、今のあたしにとってだけどね。 まあ、もうちょっと大きくなれば済む話だ。 そうだね。もう少し大きくなろう。 あたしは大きくなった時に勇者君を潰してしまわないように、街の外へと踏み出した。 それで、少し地面が揺れたせいなのか、街の中にあったニンゲン共が住んでいる小さな箱が、いくつも崩れてしまった。どーでもいーけどね。 2倍…3倍… あたしは、街を軽く跨げる位の大きさまで大きくなった。 さすがに、もう勇者君の姿も見えなくなった。街のどこかに居るのかな? もー、どーでもいーけどね。 街を跨いだあたしは、足元に街がある事を確認しながら、ゆっくりと腰を落としてしゃがみ始めた。 きっと、あたしのお尻が作った影で、街は真っ暗なんだろうなー。 さっきまで、勇者君があたしの足と闘っていた街は、今は、すっかしあたしのお尻の下だ。 どんな気持ちなんだろうなー、勇者君。 お尻で街ごと潰されるんだから、まあ悔しい気分よね? あたしだったら、お尻なんかに敷かれて押しつぶされるの、絶対嫌だもん。 あたしは、あたしのお尻の下に居るはずの勇者と、ついでに、その他大勢のニンゲン共の狼狽振りを考えて、少し興奮した。 ま、見せしめってやつ? よく考えるとね、ちょっと腹が立ってきたの。 だって、勇者君、ゴミくず以下のニンゲンの分際で、あたしの体に傷をつけたんだもん。 魔王に…あたしに逆らったらどうなるか、世界中に見せつけてやらないとね? あたし、この世界を征服するわけだし。 えへへ、世界征服したら何して遊ぼうかな? 他の勇者君に、あたしの股の間でも攻撃させてみようかな。ちょっと気持ち良さそうな気もするなー。 この世界の勇者君も、それ位の役になら立つかも知れない。 …と、征服した後の事より、まずは征服だよね。 街の上に、まるでトイレでしゃがむようにしゃがみ込んでいたあたしは、そのままさらに腰を下ろして、地面…ニンゲン共の街にお尻をつこうとする。 ほらほら、みんな、空を覆いつくす、あたしのお尻を見上げるんだよ? 勇者君も、あたしに逆らった事をしっかり後悔してよね。 まあ、もしかしたら、勇者君は今もあたしのお尻に向かって、究極最終奥義か何か使ってるのかもしれない。 でも、もう勇者遊びにも飽きた。 あたしは構わずに、そのままニンゲン共の街の上にお尻を降ろした。 ずしーん。 …なんか、普通に土の上に座ったのとあんまり変わらない感触だ。 もっと、『ぐちゃぁ』とか、『バキバキ』とか、『大量虐殺ぅ!』みたいな感じがするかと思ったんだけど、特に感じなかった。 こんなもんなのかなー、小さな人間共が相手じゃ。 もしかして、あんまり小さいから、あたしのお尻と地面の隙間に紛れ込んで、生きてる奴が居るかもしれない。 そんなのは許せないから、あたしは丹念にニンゲンの街があった場所をサンダルで踏みにじった。 踏み残しが無いように丁寧に街があった場所を更地にした所で、あたしは一息ついた。 3.魔王の世界征服 今、あたしの姿は、この世界のどこからでも見えるだろうな、きっと。 だって、真上から世界ごと見下ろしてるんだもんね。 元の大きさに戻ったあたしは、大陸を両足で跨いで、見下ろしている。 腰に手を当てて胸を逸らせたまま、目だけで見下ろしてみたの。勝ち誇った時のポーズってやつね。 「ねー、ニンゲン共、聞いてる? この世界、今からあたしのものよ。 そーいうわけで、お前達は、今からみんな、あたしの奴隷だからね」 声に出して宣言してみた。 世界を征服する時には、こうやって世界中に教えてやるのが手っ取り早いってお姉ちゃんに教えてもらった事があるの。 「あたしの座布団に丁度いいような小島に住んでるようなお前達が、どんなに逆らっても無駄な事はわかるよね? 言っとくけど、あたしに少しでも逆らったら、すぐに潰しちゃうよ」 まあ、言わなくてもわかってもらえると思うだろうけど、あたしに逆らう事は許さないという事も伝えておく。 …んー、ちょっと気分いいなぁ。 大陸を跨いで宣言すると、あたしの言葉を聞いたニンゲン共が絶望している感情が伝わってきた。 絶望とか恐怖とか、ニンゲンのネガティブな感情こそ、あたし達…魔王にとっては、美味しいご飯なのだ。 お姉ちゃんは、良い世界を紹介してくれたなーと思う。 この世界に住む、ニンゲンっていう生き物達は小さい割りには感情が豊富で、あたし達にご飯を沢山与えてくれる。 簡単に征服できて、見返りも豊富なわけだから、かなり美味しい世界だ。 ニンゲン共の絶望を感じていると、あたしは自然に笑みがこみ上げてきた。 「ねー、お前達、あたしが可愛いからって馬鹿にしてるでしょ?」 ニンゲン共が絶望しているのはわかるけれど、わざと、にやにやと笑ったまま言ってみた。 まだまだ、ニンゲン共の絶望を搾り出せそうだから、少し虐めてみようかなーって思うの。 「あたし、言う事を聞かない奴には容赦しないよ? あ、そうだ。あたしに逆らったらどうなるか、教えてあげるよ」 あたしの言葉を聞くと、ニンゲン共の恐怖の感情が強くなるのを感じた。 そりゃ、怖いよね。 自分達が住んでる小島…あ、いや、大陸なのかな…ごと跨がれて、虐められてるんだもんね。 ニンゲン共が怖がってるから、気持ち良くて、あたしは笑った。 それから、ゆっくりとしゃがみ込む。 あたしが立っている海の深さは、あたしのサンダルの踵よりも低い。 本当は、お尻をついて座るのが楽だと思うんだけど、それじゃあ、海の水位が上がって、ニンゲン共の大陸を沈めて皆殺しにしてしちゃうもんね。 別に皆殺しにしちゃダメって事も無いんだけど、殺しちゃったら、怖がってもらえないもんねー… だから、あたしは、ニンゲン共を皆殺しにしないように、大股開きにしゃがみ込む事にした。もちろん、このままお尻をついたらニンゲン共は皆殺しだから、大陸に座ったりはしないよ? 「お前達を潰す事なんて、ほんとに簡単なんだからね?」 そうやって、あたしがしゃべり、少し動く度に高まっていくニンゲン共の恐怖と絶望。指で地面に狙いを定めながら、快感を感じた。 どの辺りがニンゲンの街なのか、大体の雰囲気で予想するしかないの。 ニンゲンの姿はもちろん、街の建物すらも小さすぎて見えないんだもん。 多分、緑色の地面の間で、ところどころ白っぽくなってる辺りがニンゲンの街なんだろう。 うーん…あんまり大きくなるのも不便なのね。 ともかく、適当な白っぽい地面に狙いを定めて、あたしは指を近づけた。 すると、ニンゲン共の恐怖と絶望が急上昇しているのがわかる。 という事は正解っぽい。 「さ、逃げたかったら逃げてもいいのよ? …間に合うんならね」 ニンゲン共に声をかける。 なるべくゆっくり。 1分位かけて、数百キロの上空から指を近づけた。 その位の時間じゃ、あたしに狙われたニンゲン共が短すぎる事は計算済みだもんね。 ニンゲン共の絶望と恐怖が最高潮になった頃に、あたしの指は、ニンゲンの街があると思われる白っぽい地面を貫いた。 深さは、10キロメートルちょっと位かな? 第一関節の辺りまで、地面に埋めてみたの。 まあ、街に住んでた人間は全滅よね。 もしかして、さっきの勇者君みたいのも街に居て、抵抗してたのかも知れないけど何にも気づかなかったなー。 うん… 圧倒的だね、あたし。 ちょっと優越感に浸ってみる。 でも、そうして街を指で潰してしまうと、ニンゲン共が死んだ分だけ、恐怖と絶望が減ってしまった。 さっき、最高潮に達していた恐怖と絶望は、この街のニンゲン共だったみたいだね。当たり前だけど。 やっぱり、皆殺しは簡単だけど、良くないなぁ。色々と難しい。 まあ、あたし、世界征服って初めてだし、段々と慣れていけばいいよね。 少なくとも、お腹が一杯になる位には、ニンゲン共の恐怖と絶望を引き出す事は出来たし、満足しよう。 今日は、この辺りで、おうちに帰ろうかな? お腹も一杯だし… 「わかったよね。 あたしに逆らったら、みんなこうなっちゃうんだからね」 最後に一言だけ声をかけて、デザート代わりにニンゲン共の恐怖と絶望の感情を頂いた。 「じゃ、今日は、もう帰るね。 また今度、遊びに来るよ。 そうね…来年辺りかな。 お前達、それまでに、あたしが遊ぶ用の、可愛い男の子を100人位集めときなさいよ。 もし、あたしが来るまでに準備出来てなかったら、大陸ごと沈めちゃうよ?」 ニンゲン共の世界を去る前に、次に来た時に遊ぶ為の命令を出しておく。 …うん。良い感じ。 ニンゲン達の間からは、あたしに逆らおうとか、倒してやろうとかいうポジティブな感情は全く伝わって来ない。 最低限、あたしに逆らっても無駄な事だけは、みんな理解してくれたみたいだ。きっと、あたしの命令には、これからも服従してくれるだろう。 あたしの初めての世界征服は、初めてにしては上手に出来たと思う。 あはは、次に、遊びに来る時が楽しみだなー。 …まあ、相手が小さくて弱すぎたせいもあるけどね。 お姉ちゃんに、何て言おうかなー? お姉ちゃんにする自慢話の内容を考えながら、あたしは、このニンゲン共の世界からひとまず去る事にした。 うふふ… お腹が空いたら、また、遊びに来ちゃうもんね。 そんな感じで、あたしの初めての世界征服は完了になった… (完) ( ̄_ ̄)ノ あ ( ̄_ ̄)ノ と ( ̄_ ̄)ノ が ( ̄_ ̄)ノ き というわけで、残酷バージョンも書いてみました。 なんか、ほのぼのバージョンとは違う設定の話になっちゃっいましたねー… 同人ゲームとか作ってて煮詰まってくると、しょうもないアイディアだけは、いっぱい出てくるんです。はい ( ̄_ ̄)ノ お ( ̄_ ̄)ノ し ( ̄_ ̄)ノ ま ( ̄_ ̄)ノ い