下校

MTS作

 1.窓の外の景色

 教室の窓から外を見てみると、この辺りが田舎だという事がよくわかる。だって、何も無いんだもん。
 …いや、正確には何も無いわけじゃないよ。
 かろうじて舗装された、無駄に広い道路の脇には電柱が立っていて電線が通ってるし、その周囲には田んぼや畑が無限に広がっている。
 決して、何も無いわけじゃない。無いのは背の高い建物なのだ。
 そんなわけで、窓から外を眺めると、どこまでも遠くが見えてしまうような田舎の片隅に建っている高校である。
 ある日の放課後、僕は教室に残って外を眺めていた。
 放課後、校庭では運動部の生徒達が汗を流しているが、それは僕には関係無い。もっとも、運動部が僕と関係ないからといって、僕は文化部というわけでもない。平たく言うと、帰宅部というやつだなんだ…
 運動部のみんな、がんばってるなーと思いながら、僕は教室の窓から外を眺めていた。
 遥か遠くの方に、少し高い建物が見える。街がある方角だ。かなり距離があると思うんだけれど見えてしまう見晴らしの良さは、やっぱり田舎なんだなと思う。
 窓の外には田んぼがあって、畑があって、遠くに街が見える。
 長閑な光景だ。
 あと、水平線の向こうの方から女の子らしい人影が歩いてくるのも見えた。
 カチューシャでまとめた髪を腰まで伸ばし、セーラー服を着た姿は女子高生に間違いないだろう。学生カバンを片手に、彼女が歩いているのが教室の窓から見えた。
 それが、何とも違和感がある光景だと苦笑してしまう。
 だって、ずーっと遠くを歩いている女の子の姿が、はっきりと見えてしまうのだ。水平線の向こうは言い過ぎかもしれないけど、少なくとも数キロ以上離れた所を女子高生は歩いている。
 それでも見えてしまうのは、多分、彼女の姿が異様だからだろう。
 一応、彼女のスタイルや顔は悪くないと思う。物静かな感じでゆっくりと歩いてくる姿は、むしろ僕の好みな位だ。
 問題なのは、道路の両脇に立っている電柱が、彼女が履いている革靴と背比べするのに丁度良い高さである事。それから、彼女が両足を揃えて立つには、田舎の無駄に広い道では、道幅が狭すぎる事だった。
 ずしん…ずしん…
 少し目を閉じて耳を澄ますと、微かだけれども彼女が歩く振動が、はっきりと伝わってくる。
 高さ5メートル程の電柱は、女子高生の楊枝代わりには大きいかも知れないけれど、お箸にするには明らかに役不足だと思えた。
 巨人が歩いている。女子高生の姿をした巨人だ。
 ずしん…ずしん…
 振動に加えて、足音も徐々に聞こえてきた。
 女の子の巨人は、この学校に向かって、彼女にとっては狭い道で足を進めているのだ。
 一歩で数十メートルの距離を進みながら、巨人は着実にこちらに近づいてくる。
 近づいてくるに釣れて、彼女の大きさもはっきりとわかってくる。
 彼女の制服のスカートは膝の下まで伸びているけれど、4階建ての僕の学校では、彼女のスカートまですら、高さが届かないのだ。
 遠くに居る時は彼女の全身がはっきりと見えたけれど、やがて、窓から乗り出さなくては、彼女の黒い革靴と靴下しか見えなくなってしまった。
 ずしん…ずしん…
 その頃には、静かに微笑みながら歩いてくる彼女が生み出す足音と振動は、明らかに校庭の運動部員達の活動を妨げる程になっていた。その足音は、身構えていないと心臓が止まってしまいそうな位に迫力がある大きさになっている。
 彼女の顔を見ると教室のドア程もある彼女の瞳が、僕の学校を見ているのがわかる。その目は、僕の方を見て、にやにやと笑っているようでもあった。
 もう、窓から見上げなくては、彼女の上半身が見えない。
 学校の手前まで来た彼女は、最後の歩みのために足を上げた。
 彼女は、おしとやかに足を上げたつもりだろうけれど、それでも、その靴は後者よりも遥かに高い位置にある。
 上空にある彼女の靴の裏が見えてしまった。
 もしも…
 彼女が、その足を校庭で未だに活動している運動部員たちの頭上に下ろしたら?
 この校舎の上に下ろしたら?
 靴の裏を見ていると、そんな事が頭に浮かんだ。
 そして…
 ずしん!
 飛び起きるような地響きを立てながら女子高生の靴が踏みしめたのは、校門の手前だった。
 それから、彼女は腰を屈めながら中腰になるような姿勢で、校舎の方を覗き込んできた。
 教室のドアほどもある巨人の目が、男たちが通う小さな学校を悪戯っぽく見下ろしている。何かを探しているようだ。
 僕は、窓から乗り出したまま手を振った。巨人の女子高生の目が、こっちをを見た。
 「さ、帰りましょう、首里山(しゅりやま)君」
 にっこりと微笑んだ。
 巨人の女子高生の標的は、僕なのだ…

 2.幼馴染

 「遅いぞ。何やってたんだ?」
 僕は渋い顔で彼女に言った。
 もう、運動部員が校庭で活動を始めてる時間だ。迷惑になるから、いつもは、もっと早い時間に来るように約束してるんだけど…
 「し、仕方ないじゃないの。帰りのホームルーム、長引いちゃったんだもん」
 僕が渋い顔をしたから、彼女もむくれた。
 「…ま、とにかく帰ろ?」
 「そうだな。ちょっと待ってろよ」
 僕は、ロッカーに閉まってある重い荷物を取りにいく。
 ここで痴話げんかを続けたら、彼女の足元で部活動に励んでいる運動部のみんなの迷惑になりすぎる。
 ひとまず、僕は彼女と一緒に帰ることにした。
 彼女は幼馴染の、亜寝(あねる)。彼女は、いつも、こうして登下校の時に迎えに来てくれるんだ。
 最初の頃は、彼女の巨大な姿を見て学校中パニックだったけれど、雨の日に校庭を傘で覆ってあげて、運動部の生徒達が部活動を出来るようにしてやったりするうちに、いつの間にか亜寝を見ても、みんな余り騒がなくなったものである。
 そんな亜寝は、屈み込んだまま、校庭の上を跨いで手を伸ばしてきた。
 「えーと…まず、荷物を…と」
 僕は、ロッカーから持ってきた大き目のナップザックを窓の外へと投げつけた。投げつけた先には、亜寝の手のひら。
 僕が結構がんばらないと持ち上げられないナップザックも、亜寝にとっては豆粒以下である。
 ついでに、僕も教室の窓から飛び降りた。
 もちろん、下には亜寝の手のひら。
 亜寝の手のひらは、何の問題も無く僕の体を受け止めた。僕の重さすら感じているのか疑問だ。
 僕が手のひらに納まったのを確認した亜寝は、僕を脅かさないように、屈めていた腰をゆっくりと伸ばして立ち上がった。それから、用の無くなった校庭に背を向けて歩き始める。僕は、亜寝の手のひらに揺られながら一休みだ。
 ずしん…ずしん…
 亜寝の足音…
 その地響きを子守唄代わりにしながら、彼女の手のひらの上で寝転ぶ。
 だが、亜寝は、まだ不機嫌なようだ。
 当然の居場所のように、自分の手のひらの上でくつろいでいる僕の態度が気に入らないらしい。 
 「もう…よく、遅いとか何とか、私に文句言えるよね?」
 女の子の巨人の甲高い声が、重低音を伴って聞こえた。
 見れば、亜寝は口を尖らせて、手のひらの上に居る僕を睨んでいる。
 「何の事だよ?」
 僕も、ちょっと怖気づきながら睨み返した。
 「ん…だって、首里山君は、そうやって、私の手のひらの上で寝てるだけで、家に帰れるじゃない?
  それなのに、迎えに来るのが遅いとか何とか言うからさ、ちょっと頭にくるなーって思ったの」
 「ちゃんと、交通費は払ってるだろ?
  雇ってやってるんだから、文句言うなよ」
 機嫌を悪くする亜寝の気持ちがわからない。
 これは、亜寝にとっては軽いアルバイトでもあるのだ。
 僕は電車の定期券を買う分の交通費を、耳を揃えて亜寝に渡している。その代わりに、こうやって彼女の手のひらで送り迎えしてもらっているのだ。
 亜寝はアルバイトに遅れたのと同じだ。ちゃんと文句を言わなきゃ。
 仕事の時間に遅れた亜寝が怒られるのは当然だと思うんだけどなー…
 だけど。 
 ずしん! ずしん!
 気のせいか、亜寝の歩き方が荒い。地面の振動と足音が凄い事になっているのだ。
 「もう!
  首里山君なんて、このまま握りつぶしちゃおうかな?
  100年前だったら、女が男を踏み潰したって、お巡りさんに捕まらなかったんだよ!」
 ぎろっと、ますます怖い目をする亜寝。
 さすがにちょっと、こっちも怯んでしまう。
 「こ、こら、それは大昔の話だろ。
  今時、そんな事したら警察に捕まっちゃうぞ?」
 「平気だよ。握りつぶして、それから食べちゃうもん。
  そうすれば、明日には首里山君、トイレに流れちゃうでしょ?
  完全犯罪だもん」
 えへへ。と、自慢げに微笑む亜寝。
 いや、確かに仰る通りです。女がその気になれば、男なんてどうとでも出来ます。
 「ば、馬鹿、僕が死んだら、どうなるか考えてみろよ。
  誰がお前と一緒に、登下校してやるんだ?」
 何だか本当に握りつぶされそうな気がしてきたので、僕は彼女の手のひらの上で、あわてて訴えた。
 僕の言葉を聞いて、口に手を当てて笑い転げる亜寝。
 「あはは、そうだよね。
  首里山君を握りつぶしちゃったら、私、首里山君と一緒に帰れなくなっちゃうよね」
 笑顔を見る限り、どうやら機嫌が少しは直ったようだ?
 「でも、そうやって私の手のひらの上で偉そうに色々言うのって、やめて欲しいな」
 一転、すこししょんぼりと亜寝は言った。
 「つまんないよ…
  そんなのだったら、私、別に、お金なんて要らないよ?
  普通に一緒に帰った方が楽しいもん」
 やっぱり、不機嫌そうにこっちを見る亜寝。
 う、うむー…
 確かにちょっと僕も態度悪かったかな。少し後悔した。そろそろ、僕も謝った方がが良さそうな空気かな?
 僕は、ぶっきらばらぼうに、最初に亜寝の手のひらに投げ落としたナップザックを示した。
「その袋、開けてみな」
 彼女の方を見ないで言った。
 首を傾げながら、亜寝がそれに手を伸ばす。
 「おむ…すび?」
 中身を見た亜寝が、さらに首を傾げた。
 「たまには、そんなのでもどうかなーって思って…さ
  小人を運んでお腹が空いた分の、足し位にはなるだろ?
  …いや、やっぱりならないかな」
 僕は、ナップザックの中身を説明した。
 要するに手作りのおむすびだ。
 五合炊きの電気釜で、2回ご飯を炊いたんだ。
 それから塩をたっぷりかけて、焼き海苔を何十枚も使って丁寧に包んでみたんだ。
 …亜寝にとっては、それでも10合位のご飯なんて、豆粒どころか砂粒みたいなもんだろうけどね。
 「渡そうと思ってたんだけど、亜寝が中々来ないから、気が立っちゃってた。
  ごめんな…」
 彼女にとっては、ちっちゃなちっちゃなおむすびを渡しながら、僕は彼女に謝った。
 顔を見るのが恥ずかしいから、そっぽを向いたまま彼女の手のひらの上に寝そべる。
 …その刹那、体に急激な圧力を感じた。
 押し潰されそうな、とんでもない力に押さえつけられている。
 「も、もう…それならそうって、早く言ってよ」
 あわてて顔を上げると、胸の上に肌色の塊が圧し掛かっているのに気づいた。亜寝の人指し指だ。
 ほんのりと頬を赤らめて、怒ったような顔…いや、照れたような顔をしている。
 でも…
 重いよ。亜寝の指。潰されちゃう。
 「だけど、照れちゃって可愛いよ。首里山君」
 その台詞、そっくりそのまま返すよ、亜寝。
 …と言い返したいのだが、胸に圧し掛かる亜寝の指が重い。
 その指先の面積ですら、僕の胴体よりも広いのだ。
 こんな指で、ぐりぐりされたら、幾ら照れ隠しでも潰されてしまう…
 「じゃ、ちょっと、お弁当食べながら帰ろう?」
 僕が苦しんでるのを知ってか知らずか、亜寝は言った。
 僕は必死に彼女の指をどけようとするけれど、全くびくともしない。それこそ、壁でも相手にしているみたいだ。
 悔しいけど、腕力じゃ亜寝の人差し指にも敵わない。
 さすがに僕が苦しんでるのに気づいたのか、すぐに亜寝は指をどけてくれた。僕たちは、そのまま少し寄り道をして、見晴らしのいい丘へと行く事にした。そういう場所だったら、田舎だけにどこにでもある。
 男たちの田んぼや畑を一跨ぎにしながら、亜寝は歩いた。
 常に足元を気遣っている亜寝は、やっぱり優しい子だと思う。
 よっぽど、僕の贈り物が嬉しかったのか、丘に腰を下ろすまで、亜寝はずっと笑っていた。
 地響きを立てながら柔らかい草の丘に腰を降ろした亜寝は、膝を立てて座って、そのまま手のひらの僕を膝小僧の上へと乗せた。僕にとっては、高さ数十メートルほどの小山の頂上みたいなものだ。
 「それじゃ、食べちゃうよ?」
 舌なめずりをしながら、亜寝が言った。
 もちろん、僕を食べるのではなく、僕が渡したおむすびを食べるのである。多分。
 先ほど、亜寝に渡したおむすび入りのナップザックから、彼女の大きな指が10合握りのおむすびを器用に取り出す。彼女の指先に乗ってみると、それは砂粒のようだった。
 僕は、あれを運ぶのに結構苦労したんだけど、まあ、僕が運べる程度の大きさだから、亜寝にとっては砂粒だ。
 指先に乗せた砂粒のおにぎりを、亜寝は口元へ運ぶ。ほんの少し、数メートルほど小さく唇を開いてそれを頬張った。
 こくん。
 すぐに、彼女の喉が何かを奥へと通すように鳴るのが聞こえた。
 「美味しかったよ、首里山君」
 満面の笑み。
 だけど亜寝は、笑顔のまま、膝の上に乗せている僕に手を伸ばしてきた。
 「こ、こら、何だよ?」
 よくわからないが、亜寝の指は僕の事を摘みあげる。そのまま、口元まで運ばれてしまった。
 そこで改めて、人差し指の先のほうに乗せられてしまう。
 目の前で、亜寝の赤い唇が開き、生温かい風と轟音を伴いながら声を発した。
 「だけどさ、ちっちゃくて食べたり無いな…
  首里山君の事も食べちゃおうかな?」
 悪戯っぽく微笑む亜寝。僕は、彼女の声の大きさに思わず耳を塞いでしまう。
 まさか、本気で僕の事を食べるつもりじゃないだろう。多分。
 機嫌が良くなると、こうして悪ふざけを始めるのが、亜寝の悪い癖だ。いや、悪ふざけだよね、ほんとに。
 それから、亜寝は目を閉じて唇を突き出してきた。
 指先に乗せた僕の体をさらに持ち上げて、僕を軽く見上げるような姿勢にしながら、その指を自分の唇にさらに近づける。
 僕の目の前に、亜寝の真っ赤な唇が広がった。手を伸ばせば触れる距離だ。亜寝が舌を伸ばせば、そのまま僕を舐め取れる距離でもある。
 閉じた唇を突き出して、僕の事を待っている亜寝。
 僕は、教室の壁よりも広い彼女の唇を見て戸惑う。
 初めてだ。
 女の子の唇に、こんなに近づくなんて…
 「私とじゃ…嫌?」
 目を閉じたまま、微かに亜寝の唇が動いた。
 僕を待ちきれない亜寝がつぶやいた。
 「嫌なわけないけど…ちょっとだけ待ってくれよ?」
 覚悟を決めて、僕は亜寝に答えた。
 なんだかんだ言っても、僕は亜寝の事が大好きだ。
 両手で亜寝の唇を掴んだ。
 少しぬるぬるとした感覚が手のひらに伝わってきた。
 …今気づいたけど、甘くていい匂いがする。それに、亜寝の唇がいつもよりも赤い。
 亜寝め、口紅か何か付けてるな?
 どうやら亜寝は、今日は最初から、こういうつもりだったらしい。もちろん、高校で口紅を塗る事なんて禁止されている。放課後に口紅を塗ってお化粧してたから、今日は遅かったんだな、亜寝め…
 全く…口紅なんて塗ったりして、そんな事で僕を惑わすつもりなんだろうか?
 ちょっと位、唇が赤くて、いい匂いがしても、それを女の子の匂いや色だなんて勘違いはしないぞ。
 僕は騙されないぞ。
 亜寝が、僕の事を軽々と指先で運んでしまう位に大きくても、いつも優しく手のひらの上で寝かせてくれたって。
 僕は…騙されないぞ。
 胸をドキドキと高鳴らせながら、静かに佇んでいる亜寝の赤い唇を眺めた。
 いや、でも、ちょっと位なら騙されても良いかな。
 結局、無駄な意地を張るのをやめた僕は、そのまま彼女の唇に自分の顔を埋めてみた。
 目を閉じて、頭を彼女の唇に埋める。力の限り、彼女の唇の奥の方を舐め回した。
 夢中で、いつまでも彼女の唇に体を埋めていた。
 その内に、体中が暖かいもので包まれるのを感じた。多分、亜寝の舌だろう。
 少し間違えたら、彼女の舌は僕の首の骨位なら容易くへし折ってしまう。
 だけど、そんな事よりも、彼女の舌と自分の体が触れている事にドキドキした。
 僕は初めてのキスだったけど、亜寝も多分、初めてなんだろうな。
 お互い、遠慮するようにしばらく唇と体を重ねあった。
  

 3.家路

 僕は亜寝の手のひらに乗せられ、揺られている。
 亜寝は元気にしているけど、僕はクタクタだ。
 彼女の舌と唇を相手にするのは楽な事じゃなかった。
 …いや、明日にでも、またやりたいけども。
 と思っていたら、亜寝が言った。
 「ねえ、明日もする?」
 彼女も似たような事を考えているようだ。正直、亜寝が喜んでくれたみたいで嬉しかった。
 「やっちゃうか?」
 僕は素直に亜寝に答えた。
 キスって…気持ちいいな。
 それから、僕は言った。
 「爪、結構伸びたな。
  日曜日に、また切ってやろうか?」
 亜寝の指の爪が、しばらく手入れをしていなくて伸びているのが、小さな僕にはよくわかる。
 「うん。いつもありがとうね」
 嬉しそうに亜寝は微笑んだ。
 亜寝の指の厚みですら、僕の足よりも長いくらいだ。彼女の爪を丹念にやすりで削って、磨いてあげるには、1本につき1時間、たっぷりかかってしまう。
 彼女の10本の指を手入れするには、たっぷり1日デートしなくちゃならない。
 「首里山君、上手だもんね」
 亜寝の指が、僕の体を撫でてきた。
 「その代わり、ちょっと絵を描いて良いよな?」
 交換条件を持ち出す僕。
 「うん。練習していいよ」
 亜寝が頷いた。
 ネイルアーティストという仕事が、男達の間で流行っている。
 女の子の爪を手入れして、色を塗ってあげたり絵を描いてあげたりする仕事だ。
 別にプロになりたいって思ってるわけでも無いけれど、亜寝の爪はいつまでも手入れしてあげたいと思う。
 思春期の頃、第二次性徴の頃から、どんどんと大きくなって女になっていった亜寝。
 それまでは僕の方が大きかったのに、今ではこんな感じだ。
 小学生の時、保険の授業でやったから、成人男性と成人女性の体格が50倍程の差になる事はわかっていた。だけど、やっぱり、まだ違和感があるな…
 「ちゃんと手入れしてくれないと、磨り潰しちゃうからね?」
 悪戯っぽく爪を突き立ててくる亜寝。
 言われなくても、僕はいつまでも彼女の指先を手入れしてあげるつもりだ。

 (完)
 ( ̄_ ̄)ノ あ ( ̄_ ̄)ノ と ( ̄_ ̄)ノ が ( ̄_ ̄)ノ き

 この話は 某スレに投稿した話です。
 DL数が見れるアプロダを使うと実際に何人位の人がDLしたのか見れるので、ちょっと楽しかったです。
 内容としては、なんだか、ほのぼのと下校する話です。
 冗長な説明が多かったりする欠点は、相変わらずな作品かなと思います。
 ともかく、読んで頂いてありがとうございました。

 ( ̄_ ̄)ノ お ( ̄_ ̄)ノ し ( ̄_ ̄)ノ ま ( ̄_ ̄)ノ い