僕らの学級委員シリーズ 〜 2年1組 西峰瑠璃香 〜
※この話は残酷な描写を含んでいますのでご注意下さい。
1.体育の自習
とある高校の出来事である。次の授業は体育だった。だが、先生は休みなので、自習である。そんな時は学級委員の出番だ。学級委員が、クラスの自習の内容を考える。
うーん…どうしましょう?
2年1組の学級委員、西峰瑠璃香(にしみねるりか)は悩む。
身長は150センチ程で、女子にしても少し背が低めである。他には特徴らしい特徴も無い女生徒だが、几帳面な性格を信頼されて学級委員に選ばれた子である。
瑠璃香は、自習の内容をどんな風にするか、色々と考えながら、机の上に目をやった。
彼女の机の上にはミニチュアの教室が置かれている。
100分の1サイズだが、机が並び、生徒達が居る。
そう、人形ではなく、本当に生徒達が居るのだ。
この学校では、瑠璃香のような学級委員は別として、他の一般生徒達は、100分の1サイズに縮小されて校内で学園生活を送っている。そうすれば、大量の生徒を学校に入れる事が出来るからだ。
瑠璃香は、自分の机の上のミニチュア教室で授業を受けている生徒達を見渡す。
男女合わせて150人ほどの生徒。
瑠璃香は、その中の1人の男子生徒の頭上に手を伸ばした。
「う、うわ、何するんだ!」
自分の頭上に迫り来る女子生徒の巨大な指に気づいた男子生徒が悲鳴を上げた。そのまま指に挟まれた。摘み上げられた。
「君、寝てましたね?」
瑠璃香は男子生徒の体よりも大きな瞳を彼の目の前まで近づけて、にらみつける。
「ご、ごめんなさい…握り潰さないで下さい」
素直に謝る男子生徒。確かに彼は寝ていた。
…はあ、全くだめですね。
瑠璃香は、ため息をついた。
「あなたのような生徒は、この学校には必要ありません。
排除させて頂きますね」
それから、彼の豆粒よりも小さな頭を摘んだ。
「や、やめてぇ!」
男子生徒の悲鳴。
「やめません」
瑠璃香は、それに即答すると、摘んだ彼の頭に力を込めた。
大した手ごたえも無く、男子生徒の頭は瑠璃香の指の間で潰れた。
…全く、今月は、もう10人目ですね。
虫けらのように潰した生徒の数を数えてみた。
気に入らない生徒は、片っ端から潰す事にしている。自分が気に入らない生徒という事は、つまり、この学校に存在する価値が無い生徒という事だ。
だが、そうして不要な生徒をいくら排除しても、次から次にと無能な生徒は沸いてくる。
…そろそろ、本格的にやった方が良いかも知れませんね。
男子生徒の残骸で汚れた指を拭いながら、瑠璃香は次の体育の授業の内容を考えついた。
150人程の彼女のクラスメイトは、今も彼女の机の上にあるミニチュアの教室で、彼女に見下ろされながら授業を受けている。
居眠りでもしようものなら、先程の男子生徒のように、容赦なく、この学校…いや、この世から排除されてしまうのだ。なので、緊張感はいつもある。
次の自習の授業は、何をさせられるのだろうか?
自習の内容を考えているのは、一般生徒達も同じであった。
ただ、彼らに選択権は無い。
学級委員によって、どんな自習が与えられるのかを、ただ待つだけなのだ。
やがて、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
一般生徒達のサイズに合わせて1/100に縮小されている教師が外に出ると、教室には生徒だけが残される。
「さて、皆さん。
次の体育の自習は、男子と女子に別れて行います」
休み時間が始ると、瑠璃香が次の授業の自習内容について告げた。
「女子は、体育館でバレーボールの練習を行ってください。
男子の皆さんは、最近、少したるんでいるようなので、私が指導します。
よろしいですね?」
クラスメイト達はミニチュアの教室で、空から降りてくる声を静まり返って聞いている。
特に、上を見上げたりはしない。言われるままに、従っている。
だが、1人の男子生徒が、瑠璃香の顔を見上げて口を開いた。
「指導って…何するんですか?」
クラスメイトの女生徒に、恐る恐る、敬語で話しかける。
空から見下ろす目と、自分の目が合うのがわかった。
「はあ…全く」
瑠璃香はため息をついた。
「私は、質問をして良いと言った覚えはありません。
人の話をちゃんと聞いて下さい。
そういうのが、たるんでいると言うんです」
それから、ミニチュアの教室に手を伸ばした。
瑠璃香に質問をした生徒の周辺に居た生徒達があわてて逃げ出す。
「ちょ、ちょっと聞いただけじゃないか…」
無表情に自分に手を伸ばす女生徒が、どういう性格なのかは、知っているつもりだった。
うかつに質問などしてしまった事を後悔した。
空から降りてきた学級委員の指。その指先、第一関節よりも、一般生徒である自分は小さい。
目の前が、彼女の親指で覆われた。
背中にも柔らかい壁のような物を感じた。多分、人差し指なのだろう。
綺麗に手入れされた爪と、石鹸で洗われた女の子の指。
とても、いい匂いがした。
次の瞬間、彼は彼女の指の間で挽肉のように潰された。
瑠璃香は汚れた指先を、挽肉と一緒にティシュペーパーでふき取る。
「男子のみんなは、教室内で授業を行いますので、このまま居て下さい」
それから、何事も無いかのように言葉を続けた。
彼女のクラスメート達は、それからは誰も何もしゃべらなかった。彼らは、何度目の当たりにしても、クラスメートが巨大な学級委員に潰される光景に慣れる事が出来なかった。
女生徒達は、瑠璃香の上にあるミニチュアの教室から、細い通路を通って教室の外へ出る。ミニチュアの体育館へと向かったのだ。
後には、瑠璃香と男子生徒だけが残された。
「今日は、ミニチュアの体育館や校庭では無くて、この教室内で授業を行います。宜しいですね?」
ミニチュアの教室を見下ろして、瑠璃香は男子生徒達に言った。
「はい…」
小さな体の男子生徒たちは、教室の天井から見下ろす同級生の巨大な顔に向かって、小さく返事をした。
下手に口を開くとどうなるかは、みんな理解していた。
だが、まだ勘違いをしている者が居た。
「山中君は、返事をしませんでしたね?」
返事をする事無く、呆然としていた1人の男子生徒。
瑠璃香は、それを見逃さなかった。
口を開かないで無言で居る事を、彼女は指示した覚えは無い。
「ご、ごめんなさい」
あわてて謝る男子生徒だが、今更手遅れだ。
「では、あなたも排除しますね」
淡々と言って、彼に手を伸ばす。
山中と呼ばれた男子生徒はあわてて逃げ出す。
彼が、彼の教室のドアを開けた先は、瑠璃香の机の上だ。
瑠璃香が椅子に座って見下ろしている彼女の机の上は、1/100サイズの彼にとっては、断崖絶壁である。
逃げる場所は無かった。
見上げると、瑠璃香の無表情な顔と指がある。
「自ら、潔く命を絶つのですか?」
瑠璃香は首を傾げた。男子生徒の行動に興味を持った。
「堂々と自害なさるのでしたら、、認めましょう。
三つ数えますから、そこから飛び降りてください」
淡々と言った。
飛び降りても良いと言われても、男子生徒は困ってしまう。
遥か下に見える、教室の床を見て戸惑う。
「ひとつ。
ふたつ。
みっつ。
わかりました。自害はやめたのですね?
それなら、潰してあげます」
三つ数えた瑠璃香は、戸惑う彼の上に指を押し付けた。
自分の体よりも遥かに大きな指の下で、男子生徒は何も出来ない。
あっという間に、女の子の指と机の間で押し潰される。
「…でも、せっかく堂々と自害しようとなさったのですものね。
その意思は、尊重します」
瑠璃香は瀕死の彼の上から、指をどけた。
…許してくれるのか?
男子生徒は、瑠璃香を見上げた。
そこに、握り締められた彼女の拳が伸びてきた。
そして、人差し指が拳から立ち上がって、彼を弾いた。
学級委員の机の上から、彼は落とされた。
「では、皆さん、床に下ろしますね」
床に落ちた生徒は後で片付ける事にして、瑠璃香は他の生徒たちに言った。
彼女の言う通りに返事をした従順な生徒達は、瑠璃香の手によって、ミニチュアの教室ごと全員まとめて教室の床に下ろされた。
70人ほどの男性生徒が、教室の床に並ぶ。
「さて、それでは、今日は、もう少し小さくなって頂きます。
1/100サイズでは、少し大きすぎますからね」
椅子に座って生徒達を見下ろしたまま淡々と言うと、生徒達の顔色が変わった。
今の大きさよりも、さらに自分達の事を小さくすると、学級委員は言った。
床に下ろされた生徒達は、クラスメートの女子が言う事が信じられずに彼女の事を見上げた。
足元に居る生徒達を見下ろす為に椅子の向きを変えてはいたが、基本的には、いつものように、悠然と脚を組んで座席に座っている。
床を軽く踏みしめている彼女の片足は、彼らが両手を回しても抱きしめる事が出来ない大きさ。
もう片方の足は膝の辺りで組んでいるから、床にはついていない。
一般生徒達にとっては、10階立てのビル程の高さの位置に、組んでいるので少し斜めになった彼女の足が見えた。
随分と軽そうな履物を、瑠璃香は履いていた。
サンダル…よりも、さらに軽い履物である。ヒールがついていて、踵の部分が軽く上がっているが、踵を後ろから押さえるバンドが無いのだ。ミュールと呼ばれる類の履物である。
あまり、女子高生が校内で上履きにするような靴では無いが、学級委員の履物を拘束する規則は、この学校には無い。
足の裏と爪先の方は覆われているものの、足の側面や踵の部分は剥き出しになっている靴である。
その為、組まれて斜めになった足を下から見上げると、靴を履いている彼女の生足がよく見えた。
この、生徒達を数十人まとめて踏み潰せるサイズの靴は飾り物ではなく、それを履くにふさわしい大きさの女が、確かに履いているのだ。
ミュールの側面から覗いている瑠璃香の白い踵を、生徒達は現実の出来事として見上げていた。
と、それが、徐々に地面に向かって下りて来た。
いつのまにか組んでいた足をほどき、今まで膝の上に組まれていた方の足も床に下ろそうとしているのだ。
空がミュールの靴底で覆われる。
…踏み潰される!
何人かの生徒は、恐怖に駆られて、叫びながら逃げ出した。
すると、彼らの上に迫っていたミュールが動きを止めた。
「全く…いい加減にして頂けませんか?
誰が、逃げ出しなさいなんて指示をしました?」
自分の思い通りにならない足元の生徒達に対して、瑠璃香は、いらだちを押さえられない。
彼女のミュールは、逃げ出した生徒達の頭上へと正確に動いた。
逃げ出さなかった一般生徒達にとっては、自分達の頭上を覆っていた瑠璃香の足が無くなったわけである。
ほんの少し、彼らは気が楽になった。
だが…
ずしん。
逃げ出した生徒の頭上に、彼らを踏み潰すように、巨大な靴が正確に落ちてくるのを一般生徒達は目の辺りにしてしまった。
女の子の白い踵が剥き出しになった白いミュールが、逃げ出した生徒達を淡々と踏み潰していく。
ミュール…いや、それを履いた瑠璃香が、逃げ出した全ての生徒を踏み潰すのを、逃げ出さなかった生徒達は何も言えずに見ていた。
「靴が汚れてしまいました…
皆さん、あんまり手間をかけさせないで下さいね?」
無能な生徒達の死骸で汚れてしまった靴を考えて、瑠璃香は気が重かった。
…これからは、全て彼女の言われた通りの事をするんだ。それしかない。
いつも、生徒達を虫けらのように潰すのに何のためらいも見せない学級委員なのだが、今日は、特に様子が違う。その事を、生き残った生徒達も悟った。
瑠璃香は机の中から、懐中電灯のような物を取り出す。
何も言わずに、それを足元の生徒達に向けた。
薄い光が生徒達を包んだ。
彼らを照らす懐中電灯がどういう物なのか、全員、よく知っている。
「そうですね、その位の大きさなら、丁度良いですね」
満足気に言う、瑠璃香。
一般生徒達は、先程の10倍サイズになった彼女の姿を見た。
2階建ての建物のようだった瑠璃香のミュールの爪先が、今では20階建てのビルのようだ。
彼女の爪先を見るのでさえ、見上げなくては見れなくなってしまった。
1/100サイズになって見上げた学級委員も、まるで高層ビルが動いているような巨人に見えたが、今の彼女は、それすらも踏み潰してしまう大巨人に見える。
冗談じゃない。
怖い。
逃げ出したい。
誰もが、そう思っていた。
同時に、誰もが理解していた。
逃げ出したら、彼女に何をされてしまうのかを。
誰もが頭に思い浮かべていた。
ついさっき、淡々と、瑠璃香に踏み潰されていったクラスメートの姿を…
「では、皆さん、がんばって私のミュールを脱がせてみて下さい。
それが、今日の皆さんの自習テーマです。
ただ、申し訳ありませんが、虫以下のサイズになった皆さんでは、1人で私のミュールを脱がす事は不可能です。
ですから、力を合わせて頑張って下さいね。
でも、安心して下さい。
先程、私の指示を聞かずに逃げ出した生徒を踏み潰して汚れてしまった方の足じゃない方のミュールを脱がせて頂ければ、結構ですから」
学級委員のクラスメートの指示は、淡々とした声で遥か上空から響いてくる。
彼女のクラスメート達は、彼女の靴の爪先を見るのでさえ、もはや、見上げなくては見る事が出来ないのだ。
上空から降りてくる声を聞いた時の彼らの狼狽振りは、絶望感に満ちていた。
一体、どうしろというのだ?
1/100サイズの時は、彼女の靴も、靴と言われれば、そういえば、そういう風にも見えた。
でも、1/1000サイズまで縮小されると、その全貌を見る事すら出来ない。数十階立てのビルの真下に居るようなものだった。
こんな巨大な女の子の靴を、1人で持ち上げる事なんて、当然不可能だ。
だが、クラスみんなで力を合わせて持ち上げるのも不可能では無いだろうか?
ビルを素手で持ち上げろと、命じられたようなものである。
それでも、彼らは懸命に行動を開始した。
何か口答えをすれば、虫けらのように潰される事は確かだ。
逃げ出そうとすれば、虫けらのように潰される事は確かだ。
何もしないで呆然としていれば、虫けらのように潰される事は確かだ。
出来る、出来ないではなく、彼女に言われた通りにするしかないのだ。
数十人の生徒達は、彼女のミュールを取り囲んだ。
後ろの方に回った生徒からは、数十メートルの高い柱…ミュールのヒールの部分の上に、剥き出しになった瑠璃香の踵がよく見えた。
みんなでミュールのヒールの部分を取り囲んで、動かそうとしてみた。
側面に居る者も、つま先の方に居る者も、懸命に瑠璃香のミュールを掴み、力を込めていた。
生き残る為に必死だった。
でも、何の手ごたえも感じなかった。
正に、ビルを素手で持ち上げようとしているようなものだった。
彼らの必死な様子を見たのか、空から声が響いた。
「皆さん…真面目にやってるんですか?
いい加減にしないと、怒りますよ?」
不機嫌そうな声。
瑠璃香は、足元で命をかけてがんばっている一般生徒達の力を何も感じて居なかった。
彼女の靴は、1ミリたりとも動く事無く、教室の床を軽く踏みしめている。
…まあ、当然ですよね。
わかりきっていた事である。
1/1000サイズに縮小されたという事は、体重は1/1000000000程、10億分の1である。力も10億分の1というわけだ。
たとえ1万人、そのサイズの小人達が集まっても、彼女のミュールを持ち上げる事など出来ないだろう。
何人かの生徒は、我を忘れたかのように、目の前にそびえる壁…瑠璃香が履いているミュールを殴りつけたりもしていた。膝をついて泣き始める者も居る。
その、全ての生徒達の様子を、瑠璃香は見ていた。
やがて、授業の終了を告げるチャイムが鳴った。
「全く…
皆さんは、本当に虫けら以下ですね」
瑠璃香は、ため息をつく。
体育の自習が、終わったのだ。
「では、皆さんは、私の指示を無視して、私のミュールを脱がせてくれませんでしたから、排除させて頂きますね」
淡々と、彼女は言った。
彼女の足元、彼女のミュールを必死になって脱がそうとしていた生徒達は、皆、空から見下ろす瑠璃香の顔を見上げた。
次に、彼女のミュールが空へと上り始めた。
みんなで力を合わせても、微動だにしなかったミュールも、それを履いている少女にとっては、単なる上履きだ。
何人かの生徒はミュールにしがみつくようにしていたので、そのまま一緒に空へと登っていった。
座席に着いたままの瑠璃香が、ほんの少し、足を上げただけである。
足元の生徒達は、誰も、動く気力も体力も無かった。
全ての力をかけて、瑠璃香のミュールを持ち上げようとしていたからだ。
「では、皆さん、さようなら。
今度生まれてらっしゃる時は、もう少しマシな生き物に生まれてこられると良いですね」
これで、クラスのみんなともお別れだ。
少しだけ、彼女は笑顔を見せた。
彼女のクラスメートは、彼女の笑顔を見たのは初めてだった。
それから、彼らの頭上に、ミュールが落ちてきた。
みんなで力を合わせても、微動だにしなかったミュール。
瑠璃香にとっては、履きやすくて軽い靴だ。
そして、クラスの中に居る人間は、彼女1人になった。
…今度は、もう少しマシな生徒が来ると良いですね。
来月になるまで、新しい生徒の補充は無いだろう。
未だに、彼女のクラスで3ヶ月以上生き残った男子生徒は居ない。
汚れてしまったミュールの靴底を、瑠璃香は丹念に拭き取った。
(完)
( ̄_ ̄)ノ あ ( ̄_ ̄)ノ と ( ̄_ ̄)ノ が ( ̄_ ̄)ノ き
ヽ( ゜Д゜)ノ こぇぇぇよぉぉぉぉ、何人生徒居ても足りねぇよぉぉぉぉ!
( ̄_ ̄)ノ お ( ̄_ ̄)ノ し ( ̄_ ̄)ノ ま ( ̄_ ̄)ノ い